霊能者のお仕事

津嶋朋靖(つしまともやす)

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事故物件2

変態蔦

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 幕というより、ガラスの壁みたいだな。

 ガラスの様な球体に、魔入さんは包まれていた。

 そのガラスに蔦が触れると、触れた部分から数十センチほどの部分が消滅してしまっている。

 これって結界!?

「魔入さん! その結界はどうしたんですか?」
「たぶん、これだと思うわ」

 魔入さんは、左の袖をまくった。

 袖の下にあったのは腕輪ブレスレット

 よくあるパワーストーンの玉を繋いだ腕輪ブレスレットの様だが、それが魔入さんの左腕に装着されていた。

「ディレクターが貸してくれたお守りよ。これを身につけていれば、どんな悪霊も妖怪も私には近寄れないから、安心して取材してこいと言われて」

 こういう物を持っていたから、平気でこんな物件に入れたのか。

「ああ! それとディレクターは、私の近くにいる人も守られるって言っていたわね」

 つまり魔入さんの近くに行けば、僕も結界に入れる?

 しかし、近づこうにも、僕は手も足も蔦に巻き付かれて宙吊り状態。

 身動き取れない。

「魔入さん! 僕も結界に入れて!」
「どうしようかな? 君って、意地悪だし」

 え? 意地悪って……

「意地悪なんか、してないでしょう」
「この前、お爺ちゃんの霊を呼び出したわね。あれって、私を困らせようとしてやったのよね」

 う! やっぱり根に持っていた。

「それに私からの仕事依頼、渋って中々引き受けてくれないし……」
「僕だって、嫌な仕事は断る権利があります」
「私の仕事ってそんなに嫌?」

 嫌です! とはっきり言ったら、助けてくれないだろうな……ひいいい!

 蔦が服の中に入ってきた。

 気持ち悪い!

「ねえ社さん。これからは私の依頼、快く引き受けたくなったかしら?」

 なるかーい! と言いたいところだけど……

 腋の下を蔦にくすぐられている状況では、とても断れない。

「はい。なりました! 引き受けます! 快く引き受けるから、結界に入れて!」
「よろしい。でも、ちょっと待っていて」

 そう言って魔入さんはスマホを操作した。

 ドローンが僕の周囲に集まって来て飛び回る。

「あの魔入さん。このドローンには、霊的存在を攻撃する力があるのですか?」
「ないわよ」

 じゃあ、このドローンはなんのために、僕の周囲を飛び回っているのだ?

「君のあられもない姿を撮影したら、助けてあげるわね」
「あられもない姿って? 僕は男ですよ!」
「大丈夫。視聴者は、君を女だと思っているから」
「男だとばれたらどうするんです!」
「大丈夫。美少年の女装も需要あるから。安心して蔦の化け物に襲われてね」
「鬼! 人でなし!」
「え? 結界に入りたくないって?」
「美しい魔入様。結界に入れて下さい」
「よろしい。良い絵も撮れたことだし」

 魔入さんはそう言って、僕の方へと歩み寄ってきた。

 魔入さんを通すまいと蔦が群がるが、結界に触れたとたんに消えてしまう。

 やがて僕の左腕が結界の範囲内に入った。

 左腕に巻き付いていた蔦が消滅していく。

 やはり、結界は普通の物質は通すけど、霊的物質は通さないようだ。

「ふうん。面白いわね」
「面白がってないで、早く助けて」
「いいけど、君は今蔦に捕まって宙吊りにされているのよ。このまま蔦を消したら、落ちて怪我をするかもだから、気をつけて」

 そうだった。

「気をつけます! 気をつけますから、早く! 蔦が服の中まで入って来て気持ち悪い!」
「え? ひょっとして、パンツの中まで入られちゃった?」
「入られてません! 早く!」
「はいはい」

 魔入さんは僕の左手を掴んだ。

 次の瞬間、僕の身体を蹂躙していた蔦が一斉に消滅。

 落下の衝撃に備える。
 
 だが、床に落ちる前に僕の身体は、魔入さんに抱き留められた。

「君って軽いわね。体重いくつ?」
「四十ぐらいかな?」
「恨ましい。男のくせに私より軽いなんて」
「その分背が低いのですけど」
「それもそうね。まあ、今はそんな事より」

 魔入さんは周囲を見回した。

 無数の蔦が、僕たちに殺到している。

 今のところは結界が防いでくれているけど……

 僕は退魔銃を構えた。

「さっきのお返しだ! この変態蔦!」
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