霊能者のお仕事

津嶋朋靖(つしまともやす)

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事故物件2

ホラー映画のお約束

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 とりあえず、ドローンを先行させて空き家に入ることにした。

 ただ、空き家とは言え人様の家に土足で踏み込むのは問題なので、靴の上からスリッパを履いて上がる事に……

 ホコリの積もったうす暗い廊下は、足を一歩踏み出す度にギシギシと大きな物音を立てていた。

 かなり古い家のようだな。

 僕の前を歩いている魔入さんは、スマホでドローンを操作するのに忙しいのか、この音をほとんど気にしていないようだけど……

「魔入さん。この家、大丈夫ですか?」
「何が?」
「この廊下、ギシギシ音を立てていますよ」
「老化しているのよ。廊下だけに」

 寒! 

「笑えません」
「なによ! 笑いなさいよ! 最近の子は、ユーモア感覚がないわね」
「そんな事より、危険じゃないのですか?」
「だから、この音は家が古いからよ。確かにこの家からは霊の気配はするけど、この音は心霊現象とは関係ないわ」
「いえ、僕が言いたいのは、そういう事ではなくて……」
「なによ?」
「古い家だから、慎重に歩かないと……」
「きゃあ!」

 ほら言わんこっちゃない。

 魔入さんの右足は、床にめり込んでいた。

「床が抜ける危険がありますよ。と、言いたかったのですが……手遅れだったようですね」

 幸い、魔入さんに怪我は無かったようだけど……

「それならそうと、早く言いなさいよ」

 人の話を聞かないから……

「それにしても、何も出ないわね」
「ええ。霊の気配はすごく強いのに」

 ん?

「魔入さん。ドローンは、すべて僕たちの前を飛んでいますよね?」
「そうよ」
「後には?」
「いないわ。それが何か?」
「いえ。ふと、ホラー映画によくあるお約束を思い出したのですが」
「よくあるお約束?」
「例えば、ゾンビでも出てきそうな廃屋を、主人公が探索するシーンがあるとするじゃないですか」
「ゾンビ?」
「ゾンビじゃなきゃ、ドラキュラでも幽霊でもいいです。とにかく、その廃屋の扉の向こうにゾンビがいるのじゃないかと、主人公は恐る恐る扉を開いていくのです。そりゃあもう、今にも何かが出てきそうな怪しいBGMが流れながら」
「ああ、分かった分かった。その後で扉を開いたけど、その部屋には何も居なかったってなるのでしょ?」
「そうです」
「そして主人公が『なあんだ警戒して損した』と、安心して後を振り向くと、そこにゾンビが立っていたってなるのよね?」
「そうです。よくお分かりで」
「私だって、テレビの仕事しているのよ。分かるわよ」
「そうでした」
「つまり君はこう言いたいのね? 今の私たちは、その状況だと。今、私たちの背後に、何かがいるのではないかと」
「そうです」

 え? そう思うなら、なんで僕は後を振り向かないのかって?

 だって、振り向いて本当に何かいたら怖いじゃないか。

「バカバカしい。前に何もいないのなら……」

 そこで彼女は後を振り向いた。

「後にだって何もいない……」

 え? 魔入さん。なんでそこで押し黙るのですか?

 なんで、顔の表情が硬直しているのですか?

 なんで、恐怖に震えているのですか?

 え! え! え! マジかよ!?

 僕は、恐る恐る後を振り向く。

 何だ! あれは?

 僕らが入ってきた玄関は、十メートルほど先で扉が開け放たれたままになっていた。

 その玄関からなにやら、細長い物体が十本ほど入り込みウネウネとうごめいている。

 ヘビ? それとも触手? それとも連続体マニピュレーター?

「なんなのあれは!?」

 魔入さんがスマホのライトを向けて、ようやくその正体が分かる。

 蔦だ!

 この家を覆っていた蔦が、ヘビのように蠢きながら、家の中に入ってきている!

 蔦は今にも僕らを絡め捕ろうと迫ってきていた。
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