霊能者のお仕事

津嶋朋靖(つしまともやす)

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事故物件2

ディレクターも霊能者?

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 次の物件は、古い住宅街の中に建つ一軒家。

 二階建ての木造家屋の壁は、半分以上がつたに覆われており、昼だと言うのにすべての雨戸が閉じられ、如何いかにも悪霊が出てきそうな雰囲気をかもし出していた。

 家主は、十年前に孤独死した引きこもりの女性。

 両親ともに死別しており、相続した遠縁の親戚はこの家を持て余しているという。

 まあ、僕はこれまでにも何件かその手の家を見てきたけど、実際に悪霊がいたなんてケースはほとんどなかったね。

 地縛霊はよくいるけど、たいていは無害な霊で、供養すればすぐに成仏してくれたし。

 今回もそんなところだろう。

 僕は隣の座席に座っている魔入さんに、読み終わった物件の資料を返した。

 ちなみに座席というのは車の座席で、今僕たちはワゴン車で現地へ向かっている。

 ディレクターさん自らが運転してくれていて、現地に着くまでの間、僕と魔入さんは後部シートで打ち合わせをしていたのだ。

 それにしても……

「魔入さん」

 僕は小声で話しかけた。

「なあに?」
「この番組って、予算厳しいの?」
「え? なんでそう思うの? まあ、潤沢じゅんたくとは言えないけど、そんなに予算には困っていないわよ」
「だって、ディレクターさんって、番組制作する中で一番偉い人でしょ?」

 ちらっと運転席に目をやった。

 そこでステアリングを握っているのは、浅黒い肌に白いスーツをまとった二十代後半ぐらいのオバ……いやいや、お姉さん。

 黒い大きなマスクと、大きなサングラスで顔のほとんどが隠れているが、それらを取り除けばおそらく美女なのだろうと思われるこの人が、ディレクターの降真こうま羅亜香らあがさん。

 南アジア系の人かと思っていたが、日本国籍は持っているそうだ。

 それはともかく……

「ディレクターさん自ら運転するなんて、予算がないのかなあと思って聞いたのですが」
「ああ! なるほどね。でもそんな心配はないわ。普段なら運転してくれるスタッフがいるのだけど、今回は事情があってディレクターが運転する事になったの」

 事情? 

「今回の物件は、ディレクターが見つけて来たのよ。ただ、物件の持ち主に撮影許可をもらいに行ったところ、住所を明かさないという条件で許可が下りたの」
「場所を知られたくないという事ですか?」
「そうよ。できれば私たちにも知られたくないそうよ。だから資料にも、住所が入っていなかったでしょ」

 確かに入っていなかったな。しかし……今更そんな事言われても……

 僕はちらっとスマホに目を走らせた。

 現在位置なんて、さっきからグー○ルマップで確認しているし、現地に着けば住所なんて分かっちゃうよ。

「魔入さん。もし、危ない霊がいたら樒に来てもらう事になっているので、彼女にだけは住所を教えておきたいのですけど……」
「別にいいわよ。そのぐらいなら」
「いいのですか?」
「ディレクターは『できれば』と言っていたのよ。神森さんを呼ぶ必要があるなら、仕方ないわね」

 いいのだろうか?

「それにね。私もさっきから、スマホのマップで現在位置を確認しているから」

 この人は……ディレクターの言いつけなんて最初(はなっ)から守る気ないな。

「それにディレクターは、今度の物件には危険はないと言ってくれているから大丈夫よ。神森さんの出番はないわ」
「はあ。だといいのですが……」

 ディレクターさんは、何を根拠に危険はないと言っているのだ?

 霊能者でもなきゃ、そんな事分からないだろ。

 その事を聞こうとした時、車はハザードを出して道路の端に止まった。

「着いたわよ」

 運転席からディレクターが振り返る。

「今、あなたたちが、後でしていた話が聞こえたけど……」

 ギク! 結構小声で話していたのに……この人地獄耳?

「住所が分かってしまったのなら仕方ないわね。このことは、助っ人を呼ぶ以外で口外はしないように」
「はあ」「もちろん分かっています」
「それとやしろさん」
「なんでしょう?」
「君は、今回の物件に危険は無いと、私が言ったことが疑問のようね」
「ええ……まあ」
「まあ、当然よね。いったい、何を根拠にそんな事を言っているのかと思っているでしょ」

 まあ、思っているけど……

「この事は、あまり人に言いたくなかったのだけど、私も霊能者なのよ」
「え!? そうなのですか?」
「まだ、私が本当に霊能者なのか疑問のようね。ではそれを証明してあげるわ」

 どうやって?

「君の足下に、ネズミの姿をした霊体がいるわ。でも、動物霊ではない。式神ね」

 なに!?

 足下を見ると、確かにそこにネズミが居た。

 こいつはネズ子!
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