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冥婚
ワームホール
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『荻原く~ん。迎えに来たよぉ~ここから出てきてぇ』
飯島露の声は、部屋中に響き渡った。
『荻原く~ん。愛しているよぉ。どうして、あたしを中に入れてくれないのぉ?』
荻原君は真っ青な顔になり、ガタガタと震えている。
「ねえ、優樹。この声、幽霊にしては何かおかしくない?」
え?
「樒。何がおかしいんだ?」
「分からないけど、何か違和感があるのよね」
言われてみれば確かに……
普段聞いている幽霊の声とは、何かが違うような気がする。
その時、不意に扉が開いた。
まさか! 幽霊が入ってきたのか? と、思ったらハーちゃんか。
何しに戻ってきた?
「ダメじゃ。露を説得できなんだ」
樒はハーちゃんに詰め寄る。
「ちょっと! これはいったいどうなっているのよ?」
「だから、一人で黄泉へ逝くように露を説得したのじゃ。だが、わらわではなく、新本人の声ではないと納得できないと言っておる」
「いや、私が聞いているのは、そんなことじゃなくて、どうして幽霊の声が結界の中まで届くのよ?」
「そんなの、愛の力に決まっておろう」
「愛?」
「そうじゃ。結界ごときで、愛の声を阻むことなど出来ぬのじゃ」
なんか怪しい。
ハーちゃんは、荻原君の方を向く。
「新。こうなったら、仕方がない。直接おまえの声で、黄泉へ逝くことを断るのじゃ」
荻原君は頷くと、窓の方へ向かって声をかける。
「飯島さん」
すると、ハーちゃんはコタツの上にあるミカンの入ったカゴを指さした。
「新。そっちではない。こっちに向かって声をかけるのじゃ」
「ミカンのカゴに? なんで?」
「結界を越えるための迂回ルートが、ここにあるのじゃ」
結界の越えるための迂回ルート?
「樒。そんなの聞いた事ある?」
樒はブンブンブンと首を横にふる。
「無いわ」
ハーちゃんは、面倒くさそうに僕たちの方を向いた。
「ゴチャゴチャ五月蠅い奴らじゃのう。愛の力でワームホールが開いたのじゃ」
ワームホールって……SFかよ!
ますますもって胡散臭い。
「とにかく、こっちへ話しかければ露に声が届く。早く話しかけろ」
荻原君はカゴに向かって話しかけた。
「飯島さん。僕の声、聞こえる?」
『聞こえるよぉ。やっと返事してくれたね』
「飯島さん。ごめん。僕、やっぱり一緒には逝けない」
『どうして?』
「だって……僕はまだ、死にたくないし……」
『だって、あたしは死んじゃったんだよ』
『でも……痛いのはイヤだし」
『大丈夫。ハーちゃんが、痛くないように殺してくれるって』
本当にそんな事できるのか?
「だけど……」
『それとも、他に好きな人がいるの?』
「いないよ」
『あたしの事は好きでしょ?』
「好きだよ。でも、一緒には逝けない」
『ヤダよ。あたし一人じゃ寂しいよ。一緒に来て』
「ごめん……無理なんだ」
『お願い。あたしと一緒に逝って』
「ごめんね……飯島さん……ごめんね」
『初めて会ったときから、荻原君の事が好きだったのよ』
「え? 初めてって?」
『受験の帰り、突然雨が降り出した時に、傘に入れてくれたあの時から……』
「あの時!」
『受験に合格して、一緒のクラスになれた時は凄く嬉しかったの』
「……」
『それからあたし、ずっと荻原君を見つめていたの。バスの中で寝ている荻原君、昼休みに教室で本を読んでいる荻原君、校舎裏でニャンコに弁当の残りを上げている荻原君』
「飯島さん……」
『でも、気持ちを打ち明けられなかった。バレンタインの日に、やっと決心したのに……』
まずいな。荻原君は無言で涙を流している。
このままだと、情に負けて『逝く』なんて言い出しかねない……ん?
ハーちゃんがコタツの上にノートを置いて、何かを書き込んでいる。
何をしているのだ?
ノートをのぞき込もうとしたその時、樒の手がコタツの上にあったカゴを持ち上げた。
「ふーん。これがワームホールね」
そこにあったのは、一台のスマホ。
なるほど。幽霊の声に違和感があったのはこのせいか。飯島露の持っている特殊なスマホなら、普通の電話回線で現世のスマホに電話をかけられるからな。
「あ! 僕のスマホ!」
どうやら荻原君のスマホらしい。
たぶん、トランプで遊んでいる間に、隙を見てハーちゃんが隠したのだろうな。
ハーちゃんの様子を見ると、悔しそうに舌打ちしていた。
「ちちい! 気づきおったか」
「これのどこが愛の力よ?」
「ふ! 確かに愛の力というのは嘘じゃ。じゃが、結界などという非科学的なもの、科学の力の前には無力じゃ」
いやいやいや! 存在そのものが非科学的なおまえがそれを言うか!
飯島露の声は、部屋中に響き渡った。
『荻原く~ん。愛しているよぉ。どうして、あたしを中に入れてくれないのぉ?』
荻原君は真っ青な顔になり、ガタガタと震えている。
「ねえ、優樹。この声、幽霊にしては何かおかしくない?」
え?
「樒。何がおかしいんだ?」
「分からないけど、何か違和感があるのよね」
言われてみれば確かに……
普段聞いている幽霊の声とは、何かが違うような気がする。
その時、不意に扉が開いた。
まさか! 幽霊が入ってきたのか? と、思ったらハーちゃんか。
何しに戻ってきた?
「ダメじゃ。露を説得できなんだ」
樒はハーちゃんに詰め寄る。
「ちょっと! これはいったいどうなっているのよ?」
「だから、一人で黄泉へ逝くように露を説得したのじゃ。だが、わらわではなく、新本人の声ではないと納得できないと言っておる」
「いや、私が聞いているのは、そんなことじゃなくて、どうして幽霊の声が結界の中まで届くのよ?」
「そんなの、愛の力に決まっておろう」
「愛?」
「そうじゃ。結界ごときで、愛の声を阻むことなど出来ぬのじゃ」
なんか怪しい。
ハーちゃんは、荻原君の方を向く。
「新。こうなったら、仕方がない。直接おまえの声で、黄泉へ逝くことを断るのじゃ」
荻原君は頷くと、窓の方へ向かって声をかける。
「飯島さん」
すると、ハーちゃんはコタツの上にあるミカンの入ったカゴを指さした。
「新。そっちではない。こっちに向かって声をかけるのじゃ」
「ミカンのカゴに? なんで?」
「結界を越えるための迂回ルートが、ここにあるのじゃ」
結界の越えるための迂回ルート?
「樒。そんなの聞いた事ある?」
樒はブンブンブンと首を横にふる。
「無いわ」
ハーちゃんは、面倒くさそうに僕たちの方を向いた。
「ゴチャゴチャ五月蠅い奴らじゃのう。愛の力でワームホールが開いたのじゃ」
ワームホールって……SFかよ!
ますますもって胡散臭い。
「とにかく、こっちへ話しかければ露に声が届く。早く話しかけろ」
荻原君はカゴに向かって話しかけた。
「飯島さん。僕の声、聞こえる?」
『聞こえるよぉ。やっと返事してくれたね』
「飯島さん。ごめん。僕、やっぱり一緒には逝けない」
『どうして?』
「だって……僕はまだ、死にたくないし……」
『だって、あたしは死んじゃったんだよ』
『でも……痛いのはイヤだし」
『大丈夫。ハーちゃんが、痛くないように殺してくれるって』
本当にそんな事できるのか?
「だけど……」
『それとも、他に好きな人がいるの?』
「いないよ」
『あたしの事は好きでしょ?』
「好きだよ。でも、一緒には逝けない」
『ヤダよ。あたし一人じゃ寂しいよ。一緒に来て』
「ごめん……無理なんだ」
『お願い。あたしと一緒に逝って』
「ごめんね……飯島さん……ごめんね」
『初めて会ったときから、荻原君の事が好きだったのよ』
「え? 初めてって?」
『受験の帰り、突然雨が降り出した時に、傘に入れてくれたあの時から……』
「あの時!」
『受験に合格して、一緒のクラスになれた時は凄く嬉しかったの』
「……」
『それからあたし、ずっと荻原君を見つめていたの。バスの中で寝ている荻原君、昼休みに教室で本を読んでいる荻原君、校舎裏でニャンコに弁当の残りを上げている荻原君』
「飯島さん……」
『でも、気持ちを打ち明けられなかった。バレンタインの日に、やっと決心したのに……』
まずいな。荻原君は無言で涙を流している。
このままだと、情に負けて『逝く』なんて言い出しかねない……ん?
ハーちゃんがコタツの上にノートを置いて、何かを書き込んでいる。
何をしているのだ?
ノートをのぞき込もうとしたその時、樒の手がコタツの上にあったカゴを持ち上げた。
「ふーん。これがワームホールね」
そこにあったのは、一台のスマホ。
なるほど。幽霊の声に違和感があったのはこのせいか。飯島露の持っている特殊なスマホなら、普通の電話回線で現世のスマホに電話をかけられるからな。
「あ! 僕のスマホ!」
どうやら荻原君のスマホらしい。
たぶん、トランプで遊んでいる間に、隙を見てハーちゃんが隠したのだろうな。
ハーちゃんの様子を見ると、悔しそうに舌打ちしていた。
「ちちい! 気づきおったか」
「これのどこが愛の力よ?」
「ふ! 確かに愛の力というのは嘘じゃ。じゃが、結界などという非科学的なもの、科学の力の前には無力じゃ」
いやいやいや! 存在そのものが非科学的なおまえがそれを言うか!
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