123 / 253
冥婚
プロローグ2「バレンタインデー」
しおりを挟む
ことの起こりは、三週間ほど前に遡る。
その日は日曜日。
どこへも出かける気がせず、新は自宅でゲームをやって過ごしていた。
遠くからサイレンが聞こえてきたのは、リビングの柱時計が正午の時報を告げた時。
その直後、一階にいる母親が声をかけてきた。
「新。お昼ご飯にしましょう」
「はーい」
ゲームのデータをセーブして、階下へ降りる間もサイレンはどんどん近づいてくる。
リビングに入った時、サイレンは止まった。
リビングにいた母親は、不安そうな顔をしている。
「やあね。うちの近くで火事かしら? 新、ちょっと様子を見てきてくれない」
「ええ」
嫌そうな声を上げながらも、玄関に向かった。
「ん?」
玄関から出た時、足下に何かが落ちているのに気がつく。
拾い上げてみると、綺麗にラッピングされたチョコレート。
……そうか。今日は二月十四日だったな。でも、なんで家の前に?
バレンタインデーなんて、自分には関係ないものと考えていた新は、今日がバレンタインデーである事などすっかり忘れていた。
「それ、あたしのです」
不意に声をかけられ、声の方を向くと、そこにいたのは小柄な人物。
声色からして女性のようだが、赤いダウンジャケットを纏っているので体型はわからず、顔も赤いフルフェイスのヘルメットに隠されている。
とにかく、チョコはこの人の物らしい。
では、さっさと返すべき。バレンタインデーなど自分には縁のない異世界での行事。さっさと持ち主に返して、今の出来事は忘れるべきだ。
そう考えて、チョコを差し出した時……
「荻原君?」
不意に名前を呼ばれ、新の手は止まった。
「ここって、荻原君の家なの?」
「え? そうだけど」
「よかった。どこだか分からなくて、探しちゃったよ」
どうやら、この人物は自分に会いに来たらしい。
しかし……
「君、誰?」
「あ! ごめん。メット被ったままだった」
ヘルメットを外すと、その中から長い艶やかな黒髪がファサ! と出てくる。
「飯島さん?」
新の通う高校のクラスメート、飯島 露だった。
……なぜ、飯島さんが?
二月十四日の日に、女の子がワザワザ会いに来ると行ったら他に理由はない。
しかし……
……いや、違う。飯島さんがワザワザ僕なんかに……
変な期待をして、裏切られたら立ち直れない。
だから、期待なんかしない事にしようと思っていた。
実際、彼女は新の差し出したチョコを受け取った。
……ほらね。僕なんかにくれるチョコじゃなかったのだよ。
だが、彼女は……
「あら、ヤダ。中身バラバラになっちゃったかも……」
少し躊躇してから彼女は、チョコを新に差し出した。
「荻原君。好きです。あたしと付き合って下さい」
……ええええええ!?
期待しないようにしていたせいで、逆にショックが大きい。
「え? え? え? 僕に」
「ダメかな? 落としてバラバラになったチョコなんて?」
「そんな事ないよ。とても嬉しい。でも、なんで僕なんかを?」
「だって、荻原君って、可愛いし……」
……え? 可愛い? それって子供っぽいって事では?
しかし、馬鹿にされているわけではないようだ。
それに新は、以前から飯島露をいいなと思っていた。
だけど、自分に自信がなく、ずっと言い出せないでいた。
まさか、彼女の方から告白してくれるとは……
「飯島さん。……その……僕も君のことが好きだったんだ」
「本当!? 荻原君も、あたしの事、好きだったの?」
「うん。ごめんね。こういう事って、僕の方から言い出すべきだったよね」
「ううん。いいの。荻原君があたしの事を好きでいてくれて嬉しかった。ねえ……それじゃあ……」
露は何かを言い掛けて、口ごもる。
「どうしたの? 飯島さん」
「頼みたいことがあったのだけど……ダメだよね。こんな事」
「え? そんな事ないよ。飯島さんの頼みならなんだって……」
「本当に? いいの? あたしの頼み、聞いてくれて」
「うん。いいよ」
「嬉しい! それじゃあ、三月十四日のホワイトデーの日には、あたしと一緒にいってくれるかな?」
「え?」
……行くって? どこへ? デートの誘いって事かな?
「いいよ。一緒に行こう」
「本当! あたしと一緒に、いってくれるのね?」
「うん」
「約束よ。破っちゃだめよ。迎えにくるから、一緒にいってね」
デートの誘いにしては、どこか違和感がある。
しかし、生涯初めて本気チョコをもらった新はすっかり有頂天になり、そんな事を考える余裕もなかった。
そして、翌日……
飯島露は、学校に来なかった。
その日は日曜日。
どこへも出かける気がせず、新は自宅でゲームをやって過ごしていた。
遠くからサイレンが聞こえてきたのは、リビングの柱時計が正午の時報を告げた時。
その直後、一階にいる母親が声をかけてきた。
「新。お昼ご飯にしましょう」
「はーい」
ゲームのデータをセーブして、階下へ降りる間もサイレンはどんどん近づいてくる。
リビングに入った時、サイレンは止まった。
リビングにいた母親は、不安そうな顔をしている。
「やあね。うちの近くで火事かしら? 新、ちょっと様子を見てきてくれない」
「ええ」
嫌そうな声を上げながらも、玄関に向かった。
「ん?」
玄関から出た時、足下に何かが落ちているのに気がつく。
拾い上げてみると、綺麗にラッピングされたチョコレート。
……そうか。今日は二月十四日だったな。でも、なんで家の前に?
バレンタインデーなんて、自分には関係ないものと考えていた新は、今日がバレンタインデーである事などすっかり忘れていた。
「それ、あたしのです」
不意に声をかけられ、声の方を向くと、そこにいたのは小柄な人物。
声色からして女性のようだが、赤いダウンジャケットを纏っているので体型はわからず、顔も赤いフルフェイスのヘルメットに隠されている。
とにかく、チョコはこの人の物らしい。
では、さっさと返すべき。バレンタインデーなど自分には縁のない異世界での行事。さっさと持ち主に返して、今の出来事は忘れるべきだ。
そう考えて、チョコを差し出した時……
「荻原君?」
不意に名前を呼ばれ、新の手は止まった。
「ここって、荻原君の家なの?」
「え? そうだけど」
「よかった。どこだか分からなくて、探しちゃったよ」
どうやら、この人物は自分に会いに来たらしい。
しかし……
「君、誰?」
「あ! ごめん。メット被ったままだった」
ヘルメットを外すと、その中から長い艶やかな黒髪がファサ! と出てくる。
「飯島さん?」
新の通う高校のクラスメート、飯島 露だった。
……なぜ、飯島さんが?
二月十四日の日に、女の子がワザワザ会いに来ると行ったら他に理由はない。
しかし……
……いや、違う。飯島さんがワザワザ僕なんかに……
変な期待をして、裏切られたら立ち直れない。
だから、期待なんかしない事にしようと思っていた。
実際、彼女は新の差し出したチョコを受け取った。
……ほらね。僕なんかにくれるチョコじゃなかったのだよ。
だが、彼女は……
「あら、ヤダ。中身バラバラになっちゃったかも……」
少し躊躇してから彼女は、チョコを新に差し出した。
「荻原君。好きです。あたしと付き合って下さい」
……ええええええ!?
期待しないようにしていたせいで、逆にショックが大きい。
「え? え? え? 僕に」
「ダメかな? 落としてバラバラになったチョコなんて?」
「そんな事ないよ。とても嬉しい。でも、なんで僕なんかを?」
「だって、荻原君って、可愛いし……」
……え? 可愛い? それって子供っぽいって事では?
しかし、馬鹿にされているわけではないようだ。
それに新は、以前から飯島露をいいなと思っていた。
だけど、自分に自信がなく、ずっと言い出せないでいた。
まさか、彼女の方から告白してくれるとは……
「飯島さん。……その……僕も君のことが好きだったんだ」
「本当!? 荻原君も、あたしの事、好きだったの?」
「うん。ごめんね。こういう事って、僕の方から言い出すべきだったよね」
「ううん。いいの。荻原君があたしの事を好きでいてくれて嬉しかった。ねえ……それじゃあ……」
露は何かを言い掛けて、口ごもる。
「どうしたの? 飯島さん」
「頼みたいことがあったのだけど……ダメだよね。こんな事」
「え? そんな事ないよ。飯島さんの頼みならなんだって……」
「本当に? いいの? あたしの頼み、聞いてくれて」
「うん。いいよ」
「嬉しい! それじゃあ、三月十四日のホワイトデーの日には、あたしと一緒にいってくれるかな?」
「え?」
……行くって? どこへ? デートの誘いって事かな?
「いいよ。一緒に行こう」
「本当! あたしと一緒に、いってくれるのね?」
「うん」
「約束よ。破っちゃだめよ。迎えにくるから、一緒にいってね」
デートの誘いにしては、どこか違和感がある。
しかし、生涯初めて本気チョコをもらった新はすっかり有頂天になり、そんな事を考える余裕もなかった。
そして、翌日……
飯島露は、学校に来なかった。
0
お気に入りに追加
22
あなたにおすすめの小説
クラスメイトの美少女と無人島に流された件
桜井正宗
青春
修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。
高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。
どうやら、漂流して流されていたようだった。
帰ろうにも島は『無人島』。
しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。
男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?
保健室の秘密...
とんすけ
大衆娯楽
僕のクラスには、保健室に登校している「吉田さん」という女の子がいた。
吉田さんは目が大きくてとても可愛らしく、いつも艶々な髪をなびかせていた。
吉田さんはクラスにあまりなじめておらず、朝のHRが終わると帰りの時間まで保健室で過ごしていた。
僕は吉田さんと話したことはなかったけれど、大人っぽさと綺麗な容姿を持つ吉田さんに密かに惹かれていた。
そんな吉田さんには、ある噂があった。
「授業中に保健室に行けば、性処理をしてくれる子がいる」
それが吉田さんだと、男子の間で噂になっていた。
百合系サキュバスにモテてしまっていると言う話
釧路太郎
キャラ文芸
名門零楼館高校はもともと女子高であったのだが、様々な要因で共学になって数年が経つ。
文武両道を掲げる零楼館高校はスポーツ分野だけではなく進学実績も全国レベルで見ても上位に食い込んでいるのであった。
そんな零楼館高校の歴史において今まで誰一人として選ばれたことのない“特別指名推薦”に選ばれたのが工藤珠希なのである。
工藤珠希は身長こそ平均を超えていたが、運動や学力はいたって平均クラスであり性格の良さはあるものの特筆すべき才能も無いように見られていた。
むしろ、彼女の幼馴染である工藤太郎は様々な部活の助っ人として活躍し、中学生でありながら様々な競技のプロ団体からスカウトが来るほどであった。更に、学力面においても優秀であり国内のみならず海外への進学も不可能ではないと言われるほどであった。
“特別指名推薦”の話が学校に来た時は誰もが相手を間違えているのではないかと疑ったほどであったが、零楼館高校関係者は工藤珠希で間違いないという。
工藤珠希と工藤太郎は血縁関係はなく、複雑な家庭環境であった工藤太郎が幼いころに両親を亡くしたこともあって彼は工藤家の養子として迎えられていた。
兄妹同然に育った二人ではあったが、お互いが相手の事を守ろうとする良き関係であり、恋人ではないがそれ以上に信頼しあっている。二人の関係性は苗字が同じという事もあって夫婦と揶揄されることも多々あったのだ。
工藤太郎は県外にあるスポーツ名門校からの推薦も来ていてほぼ内定していたのだが、工藤珠希が零楼館高校に入学することを決めたことを受けて彼も零楼館高校を受験することとなった。
スポーツ分野でも名をはせている零楼館高校に工藤太郎が入学すること自体は何の違和感もないのだが、本来入学する予定であった高校関係者は落胆の声をあげていたのだ。だが、彼の出自も相まって彼の意志を否定する者は誰もいなかったのである。
二人が入学する零楼館高校には外に出ていない秘密があるのだ。
零楼館高校に通う生徒のみならず、教員職員運営者の多くがサキュバスでありそのサキュバスも一般的に知られているサキュバスと違い女性を対象とした変異種なのである。
かつては“秘密の花園”と呼ばれた零楼館女子高等学校もそういった意味を持っていたのだった。
ちなみに、工藤珠希は工藤太郎の事を好きなのだが、それは誰にも言えない秘密なのである。
この作品は「小説家になろう」「カクヨム」「ノベルアッププラス」「ノベルバ」「ノベルピア」にも掲載しております。
可愛すぎるクラスメイトがやたら俺の部屋を訪れる件 ~事故から助けたボクっ娘が存在感空気な俺に熱い視線を送ってきている~
蒼田
青春
人よりも十倍以上存在感が薄い高校一年生、宇治原簾 (うじはられん)は、ある日買い物へ行く。
目的のプリンを買った夜の帰り道、簾はクラスメイトの人気者、重原愛莉 (えはらあいり)を見つける。
しかしいつも教室でみる活発な表情はなくどんよりとしていた。只事ではないと目線で追っていると彼女が信号に差し掛かり、トラックに引かれそうな所を簾が助ける。
事故から助けることで始まる活発少女との関係。
愛莉が簾の家にあがり看病したり、勉強したり、時には二人でデートに行ったりと。
愛莉は簾の事が好きで、廉も愛莉のことを気にし始める。
故障で陸上が出来なくなった愛莉は目標新たにし、簾はそんな彼女を補佐し自分の目標を見つけるお話。
*本作はフィクションです。実在する人物・団体・組織名等とは関係ございません。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる