霊能者のお仕事

津嶋朋靖(つしまともやす)

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呪殺師は可愛い男の子が好き

見られた!

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「先生」

 赤いオープンカーから降りてきた氷室先生に呼びかけると、先生は僕を見て微笑ほほえんでくれた。

 女神!

 最初は少し怖い人かな? と思っていたけど、今、朝日を浴びて微笑んでいる先生の姿はまさに女神……

 これが、恋なのかな?

 でも、僕みたいな子供から好きだなんて言われても、先生には迷惑だろうな。

「先生、おはようございます」
「おはよう。社君。今朝は早いわね」
「バイト先から、直行して来たので」
「霊能者協会の仕事ね。式神使いとの戦いは、どうだったかしら?」
「先生のくれたエアガン、すごい威力でした。式神を何体も消しちゃいました」
「お役に立てて良かったわ。ところで、そのBB弾は消耗品だから、拾って使っても効果無いから気をつけてね」
「え!? そうだったのですか? やばい! 練習でかなり使っちゃった」
「練習で使った弾なら大丈夫よ。ただ、一度式神や悪霊に当てた弾は、もう効果がないの。だけど、ネットで購入できるから大丈夫よ」
「ネットて? 密林とか楽○で売っているのですか?」
「スマホを出しなさい。今、サイトを教えて上げる」

 僕がスマホを出している間に、先生は車から降りて僕の背後に回り込み……えええええ!!!!!!

 先生は僕の背中に密着して、背後から両手を延ばして僕のスマホを手にした。

 ていうか、なんか背後から抱きしめられているみたいなんですけど……

 違うんだよ! 先生は、僕のスマホを操作してくれているだけであって、別に変なつもりでは……

 こんな事でエロい事を考えるのは、僕の心が汚れているからだよ。

 煩悩退散! 煩悩退散! 煩悩退散!

 僕の心の汚れ消えろ!

「このワードで、検索をかけるのよ」

 ひいい! 先生の頬が僕の頬に……

 煩悩退散! 煩悩退散!

「このサイトで、あのBB弾が購入できるのよ。ブックマークしておきなさい」
「あ……ありがとうございます」

 てか、そのBB弾。百発が一万円! 高い!

 先生は、こんな高価な物をくれたの?

「高いけど、必要経費は協会が出してくれるわよね?」
「た……たぶん。出してくれると思います」

 でも、今までそういう仕事はしていないから、無理かな?

「社君。その式神使いは、やはり怖い人だったかしら?」
「ううん。思っていたほど、怖い人ではありませんでした」 
「あら、それはよかったわね」
「よくありません」
「どうして?」
「噂ほど、怖い人ではなかったです。女の人だったし……」
「女だったの? 綺麗な人だった?」
「顔は覆面で隠していたので分かりません。声もヘリウムで変えていたし……でも、ちょっと幻滅しました」
「幻滅? どうして?」
「今回の件がある前から、僕はその人の噂ぐらいは聞いていました。それで、ちょっと、かっこいい人だなと、思っていまして。でも、実際に会ってみたら幻滅です」
「女だから、幻滅したの?」
「違います。その人が、僕を呼び出した理由ですよ。僕は、その人を怒らせるような事をしてしまったのだと思って、ずっと怯えていたのですよ。なのに僕を指名した理由は……理由は……その……」
「ん? どうしたの?」
「か……かわいいから……だと……」
「あら。それじゃあ、最初に私が言った通りだったじゃない」
「はあ」
「だって、社君って、こんなに可愛いのだから、指名の一つや二つしたくなるわよ」
「でも、その人は言ってみれば殺し屋なのですよ。殺し屋って言ったら、非情で冷徹で禁欲的ストイックなところが、かっこいいんじゃないですか!」
「いや、社君。殺し屋さんに、理想持ちすぎでは……」
「なのに、その人と来たら、禁欲的ストイックどころか、仕事のついでに自分の欲望を満たそうとして、協会の名簿から僕に目をつけて指名したのですよ。しかも、目を付けたときから、式神を使って毎日僕の下駄箱にラブレターを入れていたんですよ。これって、殺し屋の仕事とは関係ないでしょ」
「そ……そうね。それは、異常ね。ハハハ……」

 先生が顔をひきつらせている。先生も僕の話を聞いて、ようやくヒョーの異常さを理解してくれたんだな。

「でも、ラブレターをもらって、少しは嬉しかったのじゃないかな?」
「そりゃあ最初のうちは……でも、それが毎日続いたら、キモいです。それに、これってストーカーじゃないですか」
「ストーカー?」
「それに、僕は自分の容姿が、子供っぽいのは自覚しています。そんな僕に言い寄るなんて、変態ですよ」
「へ……変態」

 先生がますます、顔をひきつらせている。

 事の異常さを理解してくれているのだな。

「あら? 社君」

 不意に先生が、僕の正面にまわり手を伸ばしてきた。

「ネクタイが曲がっているわよ。直して上げる」

 え! ネクタイ! ああ! いいです! 止めて下さい!

 と言う暇も無かった。

 先生が僕のネクタイを手に取り、ワイシャツに付いたキスマークは露わになる。

「ち……違うんです! これは……」
「キスマーク」

 見られた!

「あ! 社君!」

 僕は脱兎だっとのごとく、その場から逃げ出した。
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