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呪殺師は可愛い男の子が好き

人質

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 今、この人、なんて言ったんだ? 『可愛いからだ』と、言ったように聞こえたけど……

「あの……今、なんて……」
「可愛いからだ。と言ったのだよ。優樹キュン」

 うわ! マジで言っている! てか『キュン』って……キモい。

「ふざけないで下さい。本当は僕に、何か恨みでもあるのでしょ?」
「だから、恨みなどない。可愛いから、十万円払って君を指名したのだよ」

 マジか?

「じゃあ、なんですか? 僕をナンパするために、わざわざこんな大がかりな事をやったというのですか?」
「ああ、違う。さすがに、そこまで暇人ではないから。あくまでも権堂を呪う事が主目的で、君を拉致したのはそのついでだ」

 ついでに、拉致されてはたまらないのだけど……

「ていうか、あなた本気で権堂さんを、呪殺する気あるのですか?」
「なぜ、そう思う? 私はまじめに、権堂を呪う気だが……」
「じゃあ、なんで予告状なんか出すのです? 権堂さんを呪殺したかったら、予告状なんか出さないで、こっそりやればいいでしょ。そうすれば、協会から妨害されることもなく、呪殺に成功したでしょう」
「当然の疑問だな。権堂を呪殺したかったら、黙ってやれば簡単に殺せる。だが、それではだめなのだよ」
「なんで?」
「ただ呪い殺したのでは、権堂は病死したという事になってしまう。それではだめだ。権堂は私の手によって呪われた。霊能者協会の精鋭が守っていたのに防ぎ切れなかった。私の依頼人は、その事実がほしいのだよ」
「なんのために?」
「権堂のような悪い事をしていれば、私に呪いをかけられる。そういう認識を世間に広めるためさ」

 なるほど。抑止力という事か。権藤氏一人を殺す事によって、似たような悪事を働いている人達への牽制という事か……でも……

「権堂さんの悪事って地上げでしょ? 今時、そんな事やる人いるの?」
「地上げ? ああ! 権堂も昔やっていたらしいな。だが、権堂は今現在も、それとは別の悪事を働いている。権堂一人を呪うことによって、似たような事をしている奴らへの牽制にするのさ」
「なんとなく分かったけど、その事と僕を拉致する事と、なんの関係があるのですか?」
「君に、人質になってもらうためだよ」
「人質?」
「そう。どうせ人質にするなら、可愛い男の子の方がいい。だから霊能者協会の登録霊能者の中から、とびきり可愛い君を指名した」
「いや……人質にするなら、別に可愛くなくても……」
「何を言う。可愛くないと人質としての価値がない。それに……」

 うわ! ヒョーが僕を抱きしめてきた。

「人質にしている間は、こういう役得も楽しめるからな」
「わあ! ヤダ! ヤダ! 放して!」
「そんなに嫌がらなくても……」
「ごめんなさい! 僕、LGBTの人を差別する気はないけど、僕は……その……違うから。ノンケだから……」
「ん? LGBT? ああ! 君は勘違いしているな。確か一般に広まっている私のプロフィールは、年齢国籍性別不明という事になっていたな。安心したまえ」

 ヒョーはコートを脱ぎ捨てた。

 その中から現れたのは、身体の線がはっきり分かる黒いボディスーツ。

「見ての通り、私は女性だ」

 ヒョーって……女だったの?

 年齢国籍性別不明のうち、性別は分かったけど……

「これで問題はないだろう」

 年齢は? そんな事、怖くて聞けないな……

 ヒョーはそのまま僕を抱き上げると、パイプ椅子の上に座り、僕を膝の上に乗せて抱きしめた。

 うわ! 胸に顔が埋まっているんですけど……

 気持ちいい……いかん! 理性を失っては……

「ああ! 優樹キュン可愛い!」

 そういうセリフを言うときも、ヘリウムを使うのは忘れない。

 なぜ、そこまでして地声を隠す?

 声を僕に聞かれると、なにか困ることでもあるのだろうか?

「ヒョーさん。ひょっとして、あなた、僕の身近な人じゃないんですか? だから、さっきからヘリウムで声を変えているのでは?」
「え? いや違う。私は用心深いのだよ。霊能者協会の人間と接するときは、常にヘリウムを使っている」
「本当かな?」
「本当だ。嘘だと思うなら、帰ってから協会と私の接触記録を調べてみるがいい」
「帰ってからって、僕を無事に帰す気あるんですか?」
「もちろんだ。後で無事に帰してあげる。なにより、私には可愛い優樹キュンに、危害を加えるつもりなどない」
「さっき、闇子さんから、思いっきり危害を加えられそうになったのですけど」
「なに? あいつ、君の上に乗っかっていると思ったら、そんな事を……許せぬ。後で呪っておいてやる」

 思っていたほど、怖い人ではないみたいだな。

 でも……

「その前に、僕を人質にしてどうするつもりです? 何かの交渉材料にするのだと思うけど、交渉相手に連絡しなくていいのですか? 僕を人質にしたと」
「その心配はない。御神楽芙蓉には、すでに君が私の手の内にあることは伝わっている」
「どうやって?」
「あれを見なさい」
 
 ヒョーは、金塊の棚を指さした。

 金塊の上に、小さな赤い光が二つ?

 あれは!

 ミクちゃんのウサギ式神!
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