上 下
89 / 259
呪殺師は可愛い男の子が好き

第二ラウンド

しおりを挟む
「マズいわね」

 芙蓉さんは、結界の配置図をながめながら顔をしかめた。

「権堂さん。監視カメラの復旧は、無理ですか?」
「さあ、どうだろう? カメラ本体はこわれてはいないし、塗料を吹き付けられただけだから、明日一日あれば……」
「すぐには、無理ですか?」
「この暗闇で、レンズの塗料を落とすのは……なあに、やられたカメラはほんの一部だ。問題はないじゃろう」
「それが、そうもいかないのです」
「なぜじゃ?」
「結界は、霊的存在の進入は防げますが、物理的な攻撃は防げません。何らかの方法で破壊されると結界が破られます」

 結界を構成しているのは紙のお札だからな。人の手で簡単に破られてしまう。

 もっとも、結界設置班ではそう簡単に破られないように、紙のお札を強化プラスチック製のくいに封入して使っている。

 この杭は結界杭と言って、さすがに素手で壊すことはできないが、それでもチェーンソーや電動ドリルなどを使われたらアウトだ。

「なんじゃと?」
「今までは監視カメラで、すべての結界杭の安否状況が分かっていたので、結界杭を破壊しようとする者が現れたら、すぐに分かったのですが……」
「では、カメラを潰された範囲内にある結界杭の状況は?」
「カメラがないと確認できません。この範囲内に、五本の結界杭があります。このうち三本を破壊されたら、結界は破られます」
 
 権堂氏は、使用人の一人に聞いた。

「おい。カメラは治せそうか?」

 使用人がスプレーの塗料をガラスに吹き付けて試したところ、エタノールを染み込ませた布で拭き取れば落ちるらしい事が分かった。

 しかし、高い所にある監視カメラに着いた塗料を、暗闇の中で拭き取る作業は危険。十一時までに、監視カメラの復旧は、あきらめるしかなかった。

「どうやら、これがヒョーの狙いだったようですね。監視カメラで確認できない領域を作り、そこの結界杭を物理的に破壊してから、式神を送り込むつもりでしょぅ」
「ぐぬぬ、こんな事になったのも……」

 権堂氏は、縛られている男女……どうやら夫婦らしい……を憎々しげににらみつける。

「おまえら。呪殺師から、いくらもらえるか知らんが、その十倍の損害賠償を請求してやる」

 二人は怯え上がった。

勘弁かんべんしてくだせえ。俺たち、家賃を払う金もなくて仕方なく……」
「ワシの知ったことか!」
「このままでは、あたしたち一家心中しなきゃなりません」
「死にたければ、勝手に死ね」
「そんな……」
非道ひどい。ううう」
「非道いのは、おまえらだ! 人の家に無断で入り、監視カメラを壊しおって。不法侵入に、器物破損でムショに放り込んでやる。もちろんシャバに出てきたら、すぐに損害賠償を請求してやる」
「そんな……死んだら化けて出ますよ」
「化けて出るだと。ふん!」

 権堂氏は、樒の方を振り向いた。

「嬢ちゃん、聞いての通りだ。こいつらが化けて出てきたら、祓ってくれ。報酬は、たんまりはずむぞ」
「えええ! たんまりって、どのくらいすか?」
「そうじゃのう。一千万円で足りるか?」
「いっせんまん!」

 あかん! 樒の奴、目がすっかり$マークに……

「こほん」

 芙蓉さんは、わざとらしく咳払せきばらいした。

「権堂さん。今はバブルの頃と違って、お払いの料金は五万円~三十万円と決まっております」
「なに、そうなのか? では、仕方ないな」
「ちょっと待って下さい!」

 樒は慌てた。

「権堂さん。その時は私を指名して下さい。そうしたら私に指名料が」
「そうか。では、指名料として……」

 権堂氏が金額を提示ていじする前に、芙蓉さんが釘を刺す。

「権堂さん。現時点での樒さんの指名料は千円です。それ以上は受け取りません」
「なんじゃ、ワシが出すと言っているのに」
「権堂さん。それじゃあチップという名目で……」

 未練がましいなあ、樒。

「樒さん。チップは受け取ってはならないと、協会の規定にありますよ」
「そんなあ」

 しょげ返る樒に、ミクちゃんが歩み寄る。

「元気出してよ、樒ちゃん。後であたしが、すごく儲かるモニターバイト紹介してあげるから」
「モニターバイト? そんなの報酬は、二束三文にそくさんもんでしょ」
「あたしがこの前、キョー姉に紹介されたモニターバイトは五十万もらえたよ」
「五十万!? マジ?」
「まじ。そのお金であたしは、ギルドパルテノンのエースになれたのだよ」
「やる! 紹介して」

 時計が午後十一時の時報を告げたのはその時。

 その直後。それは現れた。

 式神の気配が……

 第二ラウンドが始まったようだ。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

百合系サキュバスにモテてしまっていると言う話

釧路太郎
キャラ文芸
名門零楼館高校はもともと女子高であったのだが、様々な要因で共学になって数年が経つ。 文武両道を掲げる零楼館高校はスポーツ分野だけではなく進学実績も全国レベルで見ても上位に食い込んでいるのであった。 そんな零楼館高校の歴史において今まで誰一人として選ばれたことのない“特別指名推薦”に選ばれたのが工藤珠希なのである。 工藤珠希は身長こそ平均を超えていたが、運動や学力はいたって平均クラスであり性格の良さはあるものの特筆すべき才能も無いように見られていた。 むしろ、彼女の幼馴染である工藤太郎は様々な部活の助っ人として活躍し、中学生でありながら様々な競技のプロ団体からスカウトが来るほどであった。更に、学力面においても優秀であり国内のみならず海外への進学も不可能ではないと言われるほどであった。 “特別指名推薦”の話が学校に来た時は誰もが相手を間違えているのではないかと疑ったほどであったが、零楼館高校関係者は工藤珠希で間違いないという。 工藤珠希と工藤太郎は血縁関係はなく、複雑な家庭環境であった工藤太郎が幼いころに両親を亡くしたこともあって彼は工藤家の養子として迎えられていた。 兄妹同然に育った二人ではあったが、お互いが相手の事を守ろうとする良き関係であり、恋人ではないがそれ以上に信頼しあっている。二人の関係性は苗字が同じという事もあって夫婦と揶揄されることも多々あったのだ。 工藤太郎は県外にあるスポーツ名門校からの推薦も来ていてほぼ内定していたのだが、工藤珠希が零楼館高校に入学することを決めたことを受けて彼も零楼館高校を受験することとなった。 スポーツ分野でも名をはせている零楼館高校に工藤太郎が入学すること自体は何の違和感もないのだが、本来入学する予定であった高校関係者は落胆の声をあげていたのだ。だが、彼の出自も相まって彼の意志を否定する者は誰もいなかったのである。 二人が入学する零楼館高校には外に出ていない秘密があるのだ。 零楼館高校に通う生徒のみならず、教員職員運営者の多くがサキュバスでありそのサキュバスも一般的に知られているサキュバスと違い女性を対象とした変異種なのである。 かつては“秘密の花園”と呼ばれた零楼館女子高等学校もそういった意味を持っていたのだった。 ちなみに、工藤珠希は工藤太郎の事を好きなのだが、それは誰にも言えない秘密なのである。 この作品は「小説家になろう」「カクヨム」「ノベルアッププラス」「ノベルバ」「ノベルピア」にも掲載しております。

小さなことから〜露出〜えみ〜

サイコロ
恋愛
私の露出… 毎日更新していこうと思います よろしくおねがいします 感想等お待ちしております 取り入れて欲しい内容なども 書いてくださいね よりみなさんにお近く 考えやすく

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

クラスメイトの美少女と無人島に流された件

桜井正宗
青春
 修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。  高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。  どうやら、漂流して流されていたようだった。  帰ろうにも島は『無人島』。  しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。  男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?

体育座りでスカートを汚してしまったあの日々

yoshieeesan
現代文学
学生時代にやたらとさせられた体育座りですが、女性からすると服が汚れた嫌な思い出が多いです。そういった短編小説を書いていきます。

ビキニに恋した男

廣瀬純一
SF
ビキニを着たい男がビキニが似合う女性の体になる話

俺だけ毎日チュートリアルで報酬無双だけどもしかしたら世界の敵になったかもしれない

亮亮
ファンタジー
朝起きたら『チュートリアル 起床』という謎の画面が出現。怪訝に思いながらもチュートリアルをクリアしていき、報酬を貰う。そして近い未来、世界が一新する出来事が起こり、主人公・花房 萌(はなぶさ はじめ)の人生の歯車が狂いだす。 不意に開かれるダンジョンへのゲート。その奥には常人では決して踏破できない存在が待ち受け、萌の体は凶刃によって裂かれた。 そしてチュートリアルが発動し、復活。殺される。復活。殺される。気が狂いそうになる輪廻の果て、萌は光明を見出し、存在を継承する事になった。 帰還した後、急速に馴染んでいく新世界。新しい学園への編入。試験。新たなダンジョン。 そして邂逅する謎の組織。 萌の物語が始まる。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

処理中です...