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超常現象研究会
タイムリミット 2
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いつの間にか僕は涙を流していた。
いや、これは先生の感情に僕の涙腺が反応したのだ。
だが、ちょっとまずい事になってきた。
水上先生は満足してきている。このままだと成仏するかもしれない。
いや……成仏させるのが僕らの仕事だけど……先生が成仏したら、もう真犯人を捕まえる必要もなくなる。
だけど、このままでは悔しすぎる。
恥ずかしい女装までやって追いかけたのに……
この優しい先生を死に追い込んだ奴が、のうのうとのさばっているというのが許せない。
捕まえて、裁きを受けさせたい。
分かっている。そんなの霊能者の仕事じゃないって……
霊能者の仕事は霊を気持ちよく成仏させる事……
痴漢を捕まえるのは、それに必要だったから……
しかし、ここで先生が成仏したら、僕たちには犯人を捕まえる大義名分がなくなる。
最初は成仏させるために仕方なくやっていたのに、いつの間にか僕の中に、この人の冤罪を晴らしたい気持ち膨らんできていた。
今、先生に成仏されたら……僕のこの気持ちは……
「待って下さい」
背後から聞こえたのは、美樹本さんの声。
振り向くと黒猫を抱いた美樹本さんが立っていた。
今日は来ないはずだったのに、気になって来ていたのか。
「いけないのはあたしです。この人は痴漢ではないと、あの時あたしがはっきり否定していれば、こんなん事には……だから、犯人探しは続けさせて下さい」
美樹本さんは泣き崩れた。
「そうです。続けさせて下さい」「私たちだって気持ちは同じです」「大好きな先生を死に追い込んだ奴を、このままにしておけません」
ベンチの陰から、超常現象研究会の三人が立ち上がった。隠れて様子を見ていたのか。
六星先輩が奥さんのところへ歩み寄る。
「奥さんがやめろと言っても、私たちは続けます。先生の冤罪を晴らすまで」
「六星さん」
しばらく二人は無言で見つめ合った。
奥さんが口を開いたのは、時間切れとなって僕の身体から先生が出て行った時。
「分かったわ」
「では、続けていいですね?」
「後一日だけです」
「え?」
「明日の月曜日に、犯人が捕まらなかったらもう諦めて下さい」
「そんな……奥さんは悔しくないのですか?」
その途端、奥さんは突然声を荒げた。
「そんなの、悔しいに決まっているでしょ!」
「え?」
「できる事なら、私の手で犯人を絞め殺してやりたい。でも、そのためにあなたたちを犠牲にするわけにはいかないの」
「そんな……私たちは……犠牲だなんて……」
「明日一日です。明日で捕まらなければ、諦めて下さい」
奥さんは樒の方を向いた。
「明日、犯人が捕まらなくても、夫を供養して成仏させて下さい」
「いいのですか?」
樒の質問に奥さんは頷き、僕の方を向いた。
「あなたもそれでいいわね?」
まだ、僕に憑依していると思っているようだ。
「と、言っておりますが、何と伝えます?」
僕はすぐそばを漂っていた先生に尋ねた。
「ああ。これ以上僕のために、生徒たちに危険な事をさせるわけにはいかない。そう伝えてくれないか」
ちょっと待て? それでいいのか? 何か他に冤罪を晴らす方法はないのか?
いや、これは先生の感情に僕の涙腺が反応したのだ。
だが、ちょっとまずい事になってきた。
水上先生は満足してきている。このままだと成仏するかもしれない。
いや……成仏させるのが僕らの仕事だけど……先生が成仏したら、もう真犯人を捕まえる必要もなくなる。
だけど、このままでは悔しすぎる。
恥ずかしい女装までやって追いかけたのに……
この優しい先生を死に追い込んだ奴が、のうのうとのさばっているというのが許せない。
捕まえて、裁きを受けさせたい。
分かっている。そんなの霊能者の仕事じゃないって……
霊能者の仕事は霊を気持ちよく成仏させる事……
痴漢を捕まえるのは、それに必要だったから……
しかし、ここで先生が成仏したら、僕たちには犯人を捕まえる大義名分がなくなる。
最初は成仏させるために仕方なくやっていたのに、いつの間にか僕の中に、この人の冤罪を晴らしたい気持ち膨らんできていた。
今、先生に成仏されたら……僕のこの気持ちは……
「待って下さい」
背後から聞こえたのは、美樹本さんの声。
振り向くと黒猫を抱いた美樹本さんが立っていた。
今日は来ないはずだったのに、気になって来ていたのか。
「いけないのはあたしです。この人は痴漢ではないと、あの時あたしがはっきり否定していれば、こんなん事には……だから、犯人探しは続けさせて下さい」
美樹本さんは泣き崩れた。
「そうです。続けさせて下さい」「私たちだって気持ちは同じです」「大好きな先生を死に追い込んだ奴を、このままにしておけません」
ベンチの陰から、超常現象研究会の三人が立ち上がった。隠れて様子を見ていたのか。
六星先輩が奥さんのところへ歩み寄る。
「奥さんがやめろと言っても、私たちは続けます。先生の冤罪を晴らすまで」
「六星さん」
しばらく二人は無言で見つめ合った。
奥さんが口を開いたのは、時間切れとなって僕の身体から先生が出て行った時。
「分かったわ」
「では、続けていいですね?」
「後一日だけです」
「え?」
「明日の月曜日に、犯人が捕まらなかったらもう諦めて下さい」
「そんな……奥さんは悔しくないのですか?」
その途端、奥さんは突然声を荒げた。
「そんなの、悔しいに決まっているでしょ!」
「え?」
「できる事なら、私の手で犯人を絞め殺してやりたい。でも、そのためにあなたたちを犠牲にするわけにはいかないの」
「そんな……私たちは……犠牲だなんて……」
「明日一日です。明日で捕まらなければ、諦めて下さい」
奥さんは樒の方を向いた。
「明日、犯人が捕まらなくても、夫を供養して成仏させて下さい」
「いいのですか?」
樒の質問に奥さんは頷き、僕の方を向いた。
「あなたもそれでいいわね?」
まだ、僕に憑依していると思っているようだ。
「と、言っておりますが、何と伝えます?」
僕はすぐそばを漂っていた先生に尋ねた。
「ああ。これ以上僕のために、生徒たちに危険な事をさせるわけにはいかない。そう伝えてくれないか」
ちょっと待て? それでいいのか? 何か他に冤罪を晴らす方法はないのか?
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