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通りすがりの巫女
金縛り 2
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ドアを押し開けて僕はバスストップに入っていった。
槿さんとエラは、僕を見て怪訝な表情を向ける。
今の僕はフルフェイスのライダーヘルメットをかぶり、黒い雨合羽を纏っているので、二人には僕が誰なのか分からないようだ。
だが、自分達に敵意を持っている事は理解したらしい。
「槿さん」
「その声は……優樹ちゃん? どうしたの? そんな格好して」
「電撃対策です」
するとエラが馬鹿にしたように笑い出した。
「あはははは! そんな無様な格好で私の電撃が防げると本気で思っているのか」
やっぱり、雨合羽じゃ無理か。
だが、本当の電撃対策は別にある。
「槿さん。僕の女装写真、削除して下さい」
槿さんの顔が一瞬ひきつった。
「なんの事かしら? 女装写真って」
「とぼけないで下さい。僕が気絶している間に撮ったのでしょう。あの家の自縛霊に聞きました。他に、槿さん達がドバイへ行くと言うのは嘘だという事も、ここから高速バスに乗って関西へ行こうとしているという事も」
「く……やっぱり、祓っておけばよかった」
「さあ、消して下さい」
「優樹ちゃんの頼みでも、それは聞けないわね。これは後世にまで残すべき芸術なのだから」
残されてたまるか!
「ならば、そのデジカメを破壊するまで」
僕は二人に向かって駆け出した。
樒の話では、槿さんは柔道二段。真面にぶつかったら、勝ち目などない。
エラに関しては手が触れた時点で電撃を食らっておしまい。
それでも、無謀にも向かっていく。……ように見せかけた。
エラが僕に向かって突き出している両の掌の間で、放電が起きている。
あんなものを食らってはたまらない。
二人の一メートル手前で横っ飛びに飛んで、僕は二人の横をすり抜けた。
しばらく、走って振り返ると、二人は呆気にとられた顔で僕を見ている。
「なんのつもり? 優樹ちゃん」
そう言っている槿さんの背後で、樒がバスストップ内に入ってきたが、二人は気が付いていない。
樒は右手をすっと前に伸ばして、縦横にふる。
ここまではいつもの九字切と同じ。
続いて樒は内縛印を結ぶ。
高速道路を行き交う車の音にかき消されて聞こえないが、この時樒は不動明王慈救咒を唱えているはず。
二人が気付かない間にその背後で、樒は剣印を結び、刀印を結び、転法輪印、外五鈷印、諸天救勅印と次々に印を結んでいった。
槿さんが何かおかしいと気が付いて振り向いた時、樒は外縛印を結び、不動明王慈救咒を唱えていた。
ちょうどその時車が途絶えていたので、樒が唱えている真言も聞こえてくる。
「ノウマクサラバタタ・ギャテイヤクサラバ・ボケイビャクサラバ・タタラセンダ・マカロシャケンギャキサラバ」
「エラ! 避けて! 不動金縛りの術よ!」
だが遅い。
「ビキナンウンタラタ・カンマン」
術が完成した。エラの掌の光が消えて、そのまま彼女は顔を引きつらせて硬直する。これでエラはしばらく動けないはず。
だが、槿さんの動きは止まらなかった。
「無駄よ。エラには効いたけど、私に不動金縛りの術は効かないわ。知っているでしょ」
「優樹! 今よ」
「え!?」
槿さんは、樒のセリフに釣られて僕の方を振り向く。
槿さんが樒の方を向いている間に、僕はヘルメットを外して雨合羽を脱ぎ捨てていた。
「おおお!」
槿さんの目が釘付けになる。半ズボンから出ている、僕の生足に……めっちゃ恥ずかしい……
「可愛いわよ。優樹君。でも、いくら私がショタコンだからって、そんな手で隙を作るとでも思っているの」
思ってはいない。思ってはいなかった。だが……
「槿さん」
「なに?」
「デジカメを突き出してシャッター切りながらそんな事を言っても、説得力がないのですが……」
「は! しまった! 手が勝手に……」
「隙有り!」
素早く伸ばした特殊警棒を、僕は槿さんの持っているデジカメに振り下ろした。
槿さんとエラは、僕を見て怪訝な表情を向ける。
今の僕はフルフェイスのライダーヘルメットをかぶり、黒い雨合羽を纏っているので、二人には僕が誰なのか分からないようだ。
だが、自分達に敵意を持っている事は理解したらしい。
「槿さん」
「その声は……優樹ちゃん? どうしたの? そんな格好して」
「電撃対策です」
するとエラが馬鹿にしたように笑い出した。
「あはははは! そんな無様な格好で私の電撃が防げると本気で思っているのか」
やっぱり、雨合羽じゃ無理か。
だが、本当の電撃対策は別にある。
「槿さん。僕の女装写真、削除して下さい」
槿さんの顔が一瞬ひきつった。
「なんの事かしら? 女装写真って」
「とぼけないで下さい。僕が気絶している間に撮ったのでしょう。あの家の自縛霊に聞きました。他に、槿さん達がドバイへ行くと言うのは嘘だという事も、ここから高速バスに乗って関西へ行こうとしているという事も」
「く……やっぱり、祓っておけばよかった」
「さあ、消して下さい」
「優樹ちゃんの頼みでも、それは聞けないわね。これは後世にまで残すべき芸術なのだから」
残されてたまるか!
「ならば、そのデジカメを破壊するまで」
僕は二人に向かって駆け出した。
樒の話では、槿さんは柔道二段。真面にぶつかったら、勝ち目などない。
エラに関しては手が触れた時点で電撃を食らっておしまい。
それでも、無謀にも向かっていく。……ように見せかけた。
エラが僕に向かって突き出している両の掌の間で、放電が起きている。
あんなものを食らってはたまらない。
二人の一メートル手前で横っ飛びに飛んで、僕は二人の横をすり抜けた。
しばらく、走って振り返ると、二人は呆気にとられた顔で僕を見ている。
「なんのつもり? 優樹ちゃん」
そう言っている槿さんの背後で、樒がバスストップ内に入ってきたが、二人は気が付いていない。
樒は右手をすっと前に伸ばして、縦横にふる。
ここまではいつもの九字切と同じ。
続いて樒は内縛印を結ぶ。
高速道路を行き交う車の音にかき消されて聞こえないが、この時樒は不動明王慈救咒を唱えているはず。
二人が気付かない間にその背後で、樒は剣印を結び、刀印を結び、転法輪印、外五鈷印、諸天救勅印と次々に印を結んでいった。
槿さんが何かおかしいと気が付いて振り向いた時、樒は外縛印を結び、不動明王慈救咒を唱えていた。
ちょうどその時車が途絶えていたので、樒が唱えている真言も聞こえてくる。
「ノウマクサラバタタ・ギャテイヤクサラバ・ボケイビャクサラバ・タタラセンダ・マカロシャケンギャキサラバ」
「エラ! 避けて! 不動金縛りの術よ!」
だが遅い。
「ビキナンウンタラタ・カンマン」
術が完成した。エラの掌の光が消えて、そのまま彼女は顔を引きつらせて硬直する。これでエラはしばらく動けないはず。
だが、槿さんの動きは止まらなかった。
「無駄よ。エラには効いたけど、私に不動金縛りの術は効かないわ。知っているでしょ」
「優樹! 今よ」
「え!?」
槿さんは、樒のセリフに釣られて僕の方を振り向く。
槿さんが樒の方を向いている間に、僕はヘルメットを外して雨合羽を脱ぎ捨てていた。
「おおお!」
槿さんの目が釘付けになる。半ズボンから出ている、僕の生足に……めっちゃ恥ずかしい……
「可愛いわよ。優樹君。でも、いくら私がショタコンだからって、そんな手で隙を作るとでも思っているの」
思ってはいない。思ってはいなかった。だが……
「槿さん」
「なに?」
「デジカメを突き出してシャッター切りながらそんな事を言っても、説得力がないのですが……」
「は! しまった! 手が勝手に……」
「隙有り!」
素早く伸ばした特殊警棒を、僕は槿さんの持っているデジカメに振り下ろした。
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