霊能者のお仕事

津嶋朋靖(つしまともやす)

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通りすがりの巫女

バスストップ2

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 式神が仕掛けたカメラとマイクからタブレットに送られてくる映像と音声を、僕達は車の中で見聞きしていた。

「なあ、槿。こんな手の込んだ事しないで、本当にドバイに行ってもよかったんじゃないのか?」
「無理よ。日本を出るのにはパスポートがいるのよ。偽造パスポートにどれだけお金がかかると思っているの?」
「そのぐらいの金はあるだろ」
「ドバイで生活するのにはお金がかかるの。今まで稼いだ額では全然足りないわ」
「じゃあ、ドバイじゃなくても、東南アジアでも中南米でもいいじゃないか」
「どっちにしても、バスポートがないと無理。それに外国で生活するとなると、ドバイほどじゃなくても元手が必要よ」
「そうか? 東南アジアは、物価が安いと聞いたぞ」
「仕事も見つけないと」
「仕事なんてしなくても、また私の電磁能力で騒霊ポルターガイスト現象を起こして、おまえがそれを鎮めたふりをして謝礼をもらうという手口で稼げばいいじゃないか」
「外国は宗教が違うから……」
「なんのかんの言って、おまえ日本から出るのが怖いんじゃないのか?」
「う……そんな事ないわよ」

 実はエラの言っている事は半分当たっている。

 さっき芙蓉さんから聞いたのだが、槿さんは韓国へは行った事はあるらしいから、日本から出ること自体は怖くないらしい。だが、韓国へ行くときは船を使った。
 槿さんは高所恐怖症で飛行機やヘリコプターが怖くて乗れないのだ。
 
「とにかく、私達は日本から出て行ったと、協会に思わせたのだから日本に残らないと損じゃない」
「やっぱり、日本から出たくないんだ」
「いいじゃない! あんただって、秋葉原や池袋に行きたいでしょ。日本にいればまた行けるわよ」
「まあ、確かに……しかし、これから関西に行くだろ」
「関西にも秋葉原みたいなところがあるわよ」

 そう言って槿さんは、タブレットを見せた。

「この町はどこだ?」
「ここは、大阪の日本橋。こっちは京都の寺町、これは兵庫の三ノ宮」
「なかなか楽しそうな町だな」
「行きたくなったでしょ」
「うむ」
「できれば優樹ちゃんも、あのまま連れて行きたかったけど」

 絶対に嫌です。

「また着せ替え人形にするのか?」
「あなただって、昨日は楽しんでいたじゃない」

 槿さんはデジカメを取り出した。

「ほら。このワンピース姿可愛いでしょ。まるで女の子みたい」

 あのカメラに僕の恥ずかしい写真が……何とか破壊できないか。

 僕は後部座席から助手席の方へ顔を出した。
 助手席の上ではミクさんが結跏趺坐して座っている。
 式神をコントロールしているのだ。

「ミクさん。式神であのデジカメ破壊できない?」
「ちょっと無理かな?」
 
 こうなったら、実力行使あるのみ。

 僕は雨合羽を着込んだ。これで電撃は防げる。

「樒。ヘルメット貸して」
「え? いいけど」

 トランクの中に護身用に常備してある特殊警棒を取り出す。
 ポリエステル製の警棒だから磁気の影響は受けない。

「優樹……まさか。殴り込みかける気?」
「止めるな、樒。あの恥ずかしい写真を葬り去るには今しかない」
「もうすぐ、協会の警備隊が来るから……」
「そしたら、警備隊の人達に写真を見られちゃうだろ」
「危険よ。相手は女と言っても、槿さんは強いし、エラは電撃能力があるし……あんたは男と言っても体力ないし……」
「あの二人を殴るわけじゃない。隙を見てデジカメを破壊して逃げてくるだけだ」
「わかった。じゃあ私も行く」
「樒」
「私の能力で、エラの能力を一時的に封じる事ができるわ」

 僕と樒は、高速道路へ続く階段を登って行った。
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