霊能者のお仕事

津嶋朋靖(つしまともやす)

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通りすがりの巫女

神?

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 誰かと、間違えられているのだろうか? 僕は人から恨まれる覚えは……まったくないとは言えないけど、少なくとも殺意を抱かれる程の恨みを買った覚えはない。

「ええっと、そんな事言われた覚えはないのだけど。そもそも、僕と君は初対面だろ」

 不意に彼女は僕にスマホを突き付けた。
 これは、僕のスマホ?
 画面に出ているのはミクシイのトップページ。

「これが何か?」
「ミクシイネーム アトラスとはお前か?」
「そうだけど」
「くくくくく」
「何がおかしい?」
「お前、身長はいくつだ?」
「う!」
「さあ、言ってみろ」
「ひゃ……百……六十……」
「嘘をつけ」
「百五十」
「まだ、嘘を付いているな」
「嘘じゃない。四捨五入すると百五十になるんだ」
「まあ、いい。そんなチビのくせにアトラスとはな。これが笑わずにいられるか」

 くそおおお……

「おまえは、よほど身長を伸ばしたいらしいな。だからこうして天井からぶら下げてやった。少しは背が伸びるかもしれんぞ」
「余計なお世話だ! そもそもこんな方法で背が伸びるわけないだろう! 僕がぶら下がり健康器に、どれだけぶら下がっていたと思っているんだ!」
「そうか、そうか。効果はないのか。まあ、いい。それより、これを覚えているか?」

 彼女がスマホを操作して出したのは「陰陽師平安戦記」の僕のマイページ。
 そこから、掲示板を出した。
 さっき、エラが書きこんでメッセージが表示されている。

 え? 『見つけ出して、殺してやる』ってエラの書き込み! 

「あの……君……ひょっとして……」
「そう。私がエラだ」

 女だったのかよ! しかも少女!

「すぐにレベルを上げて私の反撃を受けていれば許してやったものを、バカな奴だ」
「まて! まて! まて! たかがゲームじゃないか! ゲームの恨みで普通やるか! こんな事」
「私はやるんだ」

 そうきっぱりと言われても……

「それに私は日本の時代劇で見たぞ。将棋で対戦相手から『待った』と頼まれたのに『待ったなし』と突っぱねた結果、切り殺されたバカな侍を。ゲームの事での刃傷沙汰は昔から普通にある事だ」

 そんな事言われても……

「そんな事言うけど、ゲームで汚いことをやったのはお前が先だろ。ゲームの設定上反撃のできないミクさんに、毎日攻撃をかけていたくせに」
「黙れ! あいつを見ているとなぜか怒りが湧いてくるのだ。もしかすると、前世であいつに殺されたのかもしれない」
「前世って……キリスト教徒は、転生なんて信じないんじゃないの?」
「白人だからキリスト教徒というのは偏見だぞ」
「ああ、仏教に改宗したの?」
「いいや、私は既存の神や仏など信じてはいない」
「無神論者という事?」
「いや、無神論ではない。神は確かにいる」
「いるんだ」
「現にここにいるだろう」
「え?」

 はて? 霊視したけど、この部屋に神と言えるほどの高等な霊的存在は見当たらないな。地縛霊はいるけど、さっきからエラの出している猛烈な邪気に怯えているし……浮遊霊はいない。みんな逃げ出してしまったようだ。

「いないじゃないか」
「いるだろ。ここに」

 そう言って、エラが指差したのは、他ならぬ自分自身だった。

「は……?」
「この私、エラ・アレンスキーこそが新世界の神だ!」

 こ……こいつ……想像以上にアブナイ奴だった。
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