霊能者のお仕事

津嶋朋靖(つしまともやす)

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通りすがりの巫女

芙蓉さんへの疑惑

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 巫女装束の芙蓉さんが、客室の入り口に立っていた。
 芙蓉さんはいつも巫女装束だからそれは珍しくないけど、今回は払い串も持っている。
 なにやら、呆気にとられたような顔をして部屋の中を見回しているが、何があったのだろう?

「芙蓉ちゃん。どうしてここに? 協会の方を空けちゃっていいの?」

 母さんに言われて、芙蓉さんはハッと我に返ったかのように返事をする。

「え? いや……その……協会の方は、人に頼んできましたから……」
「そうなの? 誰か頼める人なんかいたかしら?」
「ちょっと芙蓉さん」

 今度は樒が声をかけた。

「この店で騒霊ポルターガイスト現象が起きているなら、最初からそう言ってよ」
「え……ああ、そうね。その騒霊ポルターガイスト現象が起きているようだったので、来たのだけど、どうなったの?」
「もう。私がちゃっちゃっと片づけたわよ」
「そうなの……あ! その女の子」

 不意に芙蓉さんが、ミクさんを指さした。

「額から血が出ているわよ」
「え?」

 ミクさんが額に手を当てる。

「やだ! 気がつかなかった」

 さっき伝票入れがぶつかった時だな。

「大変! 手当しないと」

 母さんがウエットテッシュを取り出す。

「大丈夫ですよ。このくらい唾つけておけば」
「駄目よ。女の子は顔を大切にしないと。優樹、樒ちゃん。店の人から絆創膏もらってきて」
「うん」「わっかりました」

 厨房の方へ行こうとしたとき……

「あら?」
「どうした? 樒」
「芙蓉さんがいない」
「え?」

 いつの間にか、芙蓉さんの姿がなかった。

「まさか……通りすがりの巫女って、芙蓉さんじゃないでしょうね?」
「何を言っているんだよ。そんなわけないだろう」
「だけど、騒霊ポルターガイスト現象の起きてるタイミングで現れたのよ。行動バターンが一緒じゃない」
「だからって霊能者協会の支部長の立場にいる人がなぜそんな事を? そもそも、僕は芙蓉さんから、巫女の話を聞いたのだぞ。自分がやっている悪事なら、話すわけないだろう」
「それは、優樹に私が怪しいと思いこませるため……」
「まさか?」
「ここへ私をおびき寄せたのも、私に濡れ衣を着せるため……」
「どうやって?」
「それは……わからない。とにかく、絆創膏は私がもらってくるから、優樹は芙蓉さんを見てきてよ」
「そうだな」

 なんだかよく分からんが、たしかに芙蓉さんの態度が気になる。さっきは『騒霊ポルターガイスト現象が起きているようだったので、来たのだけど』と言っていた。まるで、これから芙蓉さん自ら霊を祓うみたいに……

 通りすがりの巫女の手口は、仲間の電磁能力者と式神使いに騒霊ポルターガイスト現象を演出させておいて、その現場に駆け込んでいかにも自分が霊を祓ったかのように見せかけて、被害者に高額のお札を売りつけるというものだった。

 あのタイミングで駆け込んできた芙蓉さんの行動は、樒の言う通りまさに通りすがりの巫女。

 僕がそう思わなかったのは、そこに現れたのが僕にとって最も信頼できる人だから……

 逆にあそこに現れたのが芙蓉さんではなく、僕のまったく知らない女だったら……

 では、本当に樒の言う通り芙蓉さんが通りすがりの巫女? そんな事あるはずない。

 芙蓉さんがそんな人だなんて……

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