霊能者のお仕事

津嶋朋靖(つしまともやす)

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通りすがりの巫女

騒霊現象のからくり

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 最初見た時はネズミかと思ったが、人の姿をしている。まるで妖精だ。

 ミクさんの式神ではないみたいだが、誰かの操っている式神の可能性がある。
 だとすると、こいつらの見聞きした事は術者も見聞きしているはず。
 だから僕は奴らに聞かれないように、スマホを使った筆談でみんなに伝えたのだ。
 みんなが小人に気が付いてなかった事を確認すると、僕は次の文をスマホに書いた。

『小人を見ても、気が付かないふりをして』

 そう書いたスマホを樒、ミクさん、母さんに回し読みさせた。

 続いて店長を呼ぶ。

「いかがいたしまたか?」
「芙蓉さん……いえ、御神楽さんは、この店の常連さんなのですか?」
「いえ……昨日初めていらっしゃったのですが……その時は店内が……その、少しばかり荒れていたので……十分なおもてなしができなかったので……」

 少しばかり? いや、おそらくその時は、少しなんてものじゃなかったのだろう。さっきから、店内をうろついている式神が騒霊ポルターガイスト現象と関係しているとしたら……

「荒れていたと言うのは、騒霊ポルターガイスト現象でも起きたのですか?」

 オープンしたばかりの店なのに、テーブルや椅子が傷だらけの理由はそれで説明が付く。

 一方、騒霊ポルターガイスト現象と聞いて店長の顔が引きつった。

「ポルター? なんでしょう? それは」
「家具が宙に浮かんで飛び回るという心霊現象です」
「し……知りません! そんな事……」

 一瞬狼狽えたところを見ると図星の様だな。だが、この様子だと、素直に答えてくれそうにない。当然だな。おかしな評判がたったら、店の存亡に関わるからね。

「妙な事を聞いてすみません」

 店長が店の奥へ引っ込んでから、僕は小声でみんなに言った。

「この店でも、騒霊ポルターガイスト現象が起きていたみたいだ」
「でもさ……」

 樒が店内を見回した。

「芙蓉さんは、なんでその事を黙っていたのかしら?」
「さあ? 芙蓉さんの考える事は……」……なんとなく分かる。

 芙蓉さんは、まだ樒を疑っていたのだろう。
 何らかの情報網を通じて、この店で騒霊ポルターガイスト現象が起きている事を知った芙蓉さんは、樒の反応を見るために、この店の名前を出したのだろうな。
 もし、樒が件の巫女だとしたら、店の名前を聞いて動揺したはず。
 だが、樒は店の名前を聞いてもあっけらかんとしていた。

 この事を樒に教えたら、あいつまた怒るだろうな。黙っていよう。

「優樹。さっきの店長の態度どう思う?」
「どうって?」
「なんか、騒霊ポルターガイスト現象の事を知られたくないみたいだけど」
「そりゃあ、そうだろう。知られたら店の評判がた落ちだからね」
「でも、この時間に客がさっぱりいないという事は、もう悪い噂は広まっているんじゃないの?」
 
 そう言って樒はスマホを操作する。

「ああ、やっぱり。この店の評判が書いてある。『スイーツは美味しいけど、何かに憑かれているみたい』とか『午後四時になると決まって変な事が起きる。もう怖いからいや』とか」

 午後四時? 時計を見ると……

「午後四時まで、五分しかないぞ」

 それを聞いて樒は慌てる。

「それは大変! 急がないと」

 樒は構えた。

「ミクちゃん! 手伝って」
「はい」

 ミクさんも構えた。

 二人して、スプーンを……

「それ! 騒霊ポルターガイスト現象に巻き込まれる前に!」
「パフェを全部片付ける!」

 二人して、猛烈な勢いでパフェの残りを平らげていく。
 騒霊ポルターガイスト現象よりパフェの心配か!

「優樹。あんたも早くお茶を飲んじゃいなさい。零されたらもったいないでしょ」

 母さん……あんたもか……

「僕、猫舌なんだけど……それより、母さん。芙蓉さんがこの店を指定したのは偶然だと思う?」
「思わないわね」

 母さんもやはりそう思っていたか……その時、小人がテーブルに登って来た。

 小人の身長は三十センチほど。背中に大きな籠を背負っていて肩には両面テープを引っかけている。性別は分からないが醜い顔をしていた。

 小人は油断なく僕らを見回した。自分の姿が僕らに見られていないか確認しているようだ。
 母さんも、樒も、ミクさんも見て見ぬふりをしている。
 
 安心したのか小人は作業を開始した。

 籠の中から何かを取り出し、それに両面テープを貼り付けていく。
 もう一人、小人が登ってきて、その何かをテーブルの上にあった皿やカップ、伝票入れに貼り付けていた。

 いったい何を貼り付けているのだ?

 小人たちがテーブルから降りた後、僕は皿の裏に貼り付けてある物を確認した。
 小さな金属片?
 コンパスを近づけると、金属片に吸い寄せられた。
 という事はこの金属片は鉄。

 突然、コンパスの磁針がグルグルとまわりだした。

「始まったぞ!」
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