213 / 848
第八章
以下の周波数で連絡を請う
しおりを挟む
偶然を装ったって? それじゃあ、やはりこの子はスパイなのか?
「ミーチャ。なぜそんな事をしたの?」
ミールは、さらに質問を続けた。
「日本人の捕虜に、なりたかったからです」
「スパイをするため?」
「いいえ違います。生きるためです」
「生きるため? どうして捕虜になる事が、生きる事になるの?」
「このまま軍にいたら、僕はいつか殺されてしまいます。でも、砂漠の中を闇雲に逃げても助かりません。日本人なら、捕虜に酷いことはしないと、ナーモ族の商人から聞いていたので」
「それなら、偶然を装わなくて、ドローンの前に堂々と出て行けばよかったのではないの?」
「ドローンが、日本人のものか分からなかったからです。もし、これが帝国軍のもので、しかもヤナさんの操縦するドローンだったら、僕は酷い目に遭います。ナルセさんだったら、優しいから黙っていてくれると思いますが、それでも連れ戻されたでしょう」
偶然を装ったというのは、そのためだったのか。
「ミール。どうやら、スパイという事はなさそうだね」
「そのようです。あたしの勘繰り過ぎのようでした」
「しかし、問題が残っているぞ。この子はドローンを見つけてやって来たわけだが、どこで見つけたんだ? 他の帝国兵にも見られていないか?」
「そうですね」
ミールはミーチャに向き直った。
「ミーチャ。ドローンをどこで見つけたの?」
「カルカ街道を歩いている途中で、前からドローンが来るのが見えて慌てて隠れたのです」
どうやら、カルカの町から続いていた道はカルカ街道というらしい。
「どうして、一人でカルカ街道を歩いていたの?」
「軍から脱走するためです」
「だけど、砂漠のど真ん中で脱走してもダメなのは分かっていたでしょ」
「はい。でも、もうすぐカルカ街道から、日本人がやってくるはずなので、ここを歩いていけば途中で出会えると思いました。その時に投降しようと思っていたのです」
「なぜ、日本人がやってくると知っていたの?」
「アレンスキー大尉とナルセさんが、話していたのを聞いていたのです。もうすぐ、キタムラという日本人がカルカ街道からやってくると」
やはり、知られていたか……
「帝国軍は、それを知っていてどんな対策をたてたの?」
「街道に穴を掘って、爆薬を埋めていました」
そのぐらいはやるだろうかな。
「爆薬は、どの辺りに埋めたか分かる?」
「はい。僕がドローンと出会った辺りから、五百メートル行ったところです。僕も作業を手伝いました」
危ないところだった。
さらに、質問を進めると、ミーチャは日本人が……つまり僕たちがカルカ街道から、ドームへ向かってくるという話を聞いてから、ずっと脱走の機会を伺っていたのだという。
さっき、通信機を探すために、部隊から離れたところで一人切りになったのを機会に脱走を謀ったのだ。
街道を走っている途中で、向こうからやってくるドローンの姿を見かけた。
すぐに投降しようとしたが、もしあれが帝国軍のドローンだとしたら、連れ戻されて酷い目に遭う。
だから、偶然そこで出会ったふりをして、仕方なく降伏したように見せていたのだ。
「あたし達が日本側だと分かったのに、なぜそのことを言わなかったの?」
「言いにくかったので」
まあ、その気持ちは分からんでもないな。
「とにかく、帝国軍にはドローンは見つかっていないようだね。今のところ……」
「そのようです」
ちょうどその時、Pちゃんがテントに入ってきた。
「ご主人様、蛇型ドローンの配置すべて終わりました」
「分かった」
僕は飛行船タイプのコントローラーを手に取った。
地上スレスレを飛んでいたドローンを上昇させる。
モニターに表示したドローンからの映像も、どんどん地上から遠ざかっていく。
眼下に、倒壊したビル群が見えてきた。
その中に一棟だけ倒壊していないビルがある。
爆心地側の壁面はボロボロだが、ミーチャの話ではこの倒壊していないビルの中に帝国軍は潜んでいるそうだ。
赤外線を見ると、ビル周辺にかなりの赤外線源がいるのが確認できた。
ミーチャの話ではここには、一個中隊ほどいるらしい。
ほどなくして、瓦礫の陰から帝国兵が出てきた。
拡大してみると、エラ・アレンスキーはいないようだ。
帝国兵がこっちを指さしている。
そろそろいいかな。
コマンドを打ち込んでエンターキーを叩き込んだ。
画像が少し揺れる。
ドローンから吊り下げていた垂れ幕が今落ちたのだ。
垂れ幕には、こう書いてある。
『以下の周波数で連絡を請う』と……
「ミーチャ。なぜそんな事をしたの?」
ミールは、さらに質問を続けた。
「日本人の捕虜に、なりたかったからです」
「スパイをするため?」
「いいえ違います。生きるためです」
「生きるため? どうして捕虜になる事が、生きる事になるの?」
「このまま軍にいたら、僕はいつか殺されてしまいます。でも、砂漠の中を闇雲に逃げても助かりません。日本人なら、捕虜に酷いことはしないと、ナーモ族の商人から聞いていたので」
「それなら、偶然を装わなくて、ドローンの前に堂々と出て行けばよかったのではないの?」
「ドローンが、日本人のものか分からなかったからです。もし、これが帝国軍のもので、しかもヤナさんの操縦するドローンだったら、僕は酷い目に遭います。ナルセさんだったら、優しいから黙っていてくれると思いますが、それでも連れ戻されたでしょう」
偶然を装ったというのは、そのためだったのか。
「ミール。どうやら、スパイという事はなさそうだね」
「そのようです。あたしの勘繰り過ぎのようでした」
「しかし、問題が残っているぞ。この子はドローンを見つけてやって来たわけだが、どこで見つけたんだ? 他の帝国兵にも見られていないか?」
「そうですね」
ミールはミーチャに向き直った。
「ミーチャ。ドローンをどこで見つけたの?」
「カルカ街道を歩いている途中で、前からドローンが来るのが見えて慌てて隠れたのです」
どうやら、カルカの町から続いていた道はカルカ街道というらしい。
「どうして、一人でカルカ街道を歩いていたの?」
「軍から脱走するためです」
「だけど、砂漠のど真ん中で脱走してもダメなのは分かっていたでしょ」
「はい。でも、もうすぐカルカ街道から、日本人がやってくるはずなので、ここを歩いていけば途中で出会えると思いました。その時に投降しようと思っていたのです」
「なぜ、日本人がやってくると知っていたの?」
「アレンスキー大尉とナルセさんが、話していたのを聞いていたのです。もうすぐ、キタムラという日本人がカルカ街道からやってくると」
やはり、知られていたか……
「帝国軍は、それを知っていてどんな対策をたてたの?」
「街道に穴を掘って、爆薬を埋めていました」
そのぐらいはやるだろうかな。
「爆薬は、どの辺りに埋めたか分かる?」
「はい。僕がドローンと出会った辺りから、五百メートル行ったところです。僕も作業を手伝いました」
危ないところだった。
さらに、質問を進めると、ミーチャは日本人が……つまり僕たちがカルカ街道から、ドームへ向かってくるという話を聞いてから、ずっと脱走の機会を伺っていたのだという。
さっき、通信機を探すために、部隊から離れたところで一人切りになったのを機会に脱走を謀ったのだ。
街道を走っている途中で、向こうからやってくるドローンの姿を見かけた。
すぐに投降しようとしたが、もしあれが帝国軍のドローンだとしたら、連れ戻されて酷い目に遭う。
だから、偶然そこで出会ったふりをして、仕方なく降伏したように見せていたのだ。
「あたし達が日本側だと分かったのに、なぜそのことを言わなかったの?」
「言いにくかったので」
まあ、その気持ちは分からんでもないな。
「とにかく、帝国軍にはドローンは見つかっていないようだね。今のところ……」
「そのようです」
ちょうどその時、Pちゃんがテントに入ってきた。
「ご主人様、蛇型ドローンの配置すべて終わりました」
「分かった」
僕は飛行船タイプのコントローラーを手に取った。
地上スレスレを飛んでいたドローンを上昇させる。
モニターに表示したドローンからの映像も、どんどん地上から遠ざかっていく。
眼下に、倒壊したビル群が見えてきた。
その中に一棟だけ倒壊していないビルがある。
爆心地側の壁面はボロボロだが、ミーチャの話ではこの倒壊していないビルの中に帝国軍は潜んでいるそうだ。
赤外線を見ると、ビル周辺にかなりの赤外線源がいるのが確認できた。
ミーチャの話ではここには、一個中隊ほどいるらしい。
ほどなくして、瓦礫の陰から帝国兵が出てきた。
拡大してみると、エラ・アレンスキーはいないようだ。
帝国兵がこっちを指さしている。
そろそろいいかな。
コマンドを打ち込んでエンターキーを叩き込んだ。
画像が少し揺れる。
ドローンから吊り下げていた垂れ幕が今落ちたのだ。
垂れ幕には、こう書いてある。
『以下の周波数で連絡を請う』と……
0
お気に入りに追加
139
あなたにおすすめの小説

冤罪だと誰も信じてくれず追い詰められた僕、濡れ衣が明るみになったけど今更仲直りなんてできない
一本橋
恋愛
女子の体操着を盗んだという身に覚えのない罪を着せられ、僕は皆の信頼を失った。
クラスメイトからは日常的に罵倒を浴びせられ、向けられるのは蔑みの目。
さらに、信じていた初恋だった女友達でさえ僕を見限った。
両親からは拒絶され、姉からもいないものと扱われる日々。
……だが、転機は訪れる。冤罪だった事が明かになったのだ。
それを機に、今まで僕を蔑ろに扱った人達から次々と謝罪の声が。
皆は僕と関係を戻したいみたいだけど、今更仲直りなんてできない。
※小説家になろう、カクヨムと同時に投稿しています。

異世界でネットショッピングをして商いをしました。
ss
ファンタジー
異世界に飛ばされた主人公、アキラが使えたスキルは「ネットショッピング」だった。
それは、地球の物を買えるというスキルだった。アキラはこれを駆使して異世界で荒稼ぎする。
これはそんなアキラの爽快で時には苦難ありの異世界生活の一端である。(ハーレムはないよ)
よければお気に入り、感想よろしくお願いしますm(_ _)m
hotランキング23位(18日11時時点)
本当にありがとうございます
誤字指摘などありがとうございます!スキルの「作者の権限」で直していこうと思いますが、発動条件がたくさんあるので直すのに時間がかかりますので気長にお待ちください。

ユーヤのお気楽異世界転移
暇野無学
ファンタジー
死因は神様の当て逃げです! 地震による事故で死亡したのだが、原因は神社の扁額が当たっての即死。問題の神様は気まずさから俺を輪廻の輪から外し、異世界の神に俺をゆだねた。異世界への移住を渋る俺に、神様特典付きで異世界へ招待されたが・・・ この神様が超適当な健忘症タイプときた。

平和国家異世界へ―日本の受難―
あずき
ファンタジー
平和国家、日本。 東アジアの島国であるこの国は、厳しさを増す安全保障環境に対応するため、 政府は戦闘機搭載型護衛艦、DDV-712「しなの」を開発した。 「しなの」は第八護衛隊群に配属され、領海の警備を行なうことに。
それから数年後の2035年、8月。
日本は異世界に転移した。
帝国主義のはびこるこの世界で、日本は生き残れるのか。
総勢1200億人を抱えた国家サバイバルが今、始まる――
何番煎じ蚊もわからない日本転移小説です。
質問などは感想に書いていただけると、返信します。
毎日投稿します。

異世界転移ボーナス『EXPが1になる』で楽々レベルアップ!~フィールドダンジョン生成スキルで冒険もスローライフも謳歌しようと思います~
夢・風魔
ファンタジー
大学へと登校中に事故に巻き込まれて溺死したタクミは輪廻転生を司る神より「EXPが1になる」という、ハズレボーナスを貰って異世界に転移した。
が、このボーナス。実は「獲得経験値が1になる」のと同時に、「次のLVupに必要な経験値も1になる」という代物だった。
それを知ったタクミは激弱モンスターでレベルを上げ、あっさりダンジョンを突破。地上に出たが、そこは小さな小さな小島だった。
漂流していた美少女魔族のルーシェを救出し、彼女を連れてダンジョン攻略に乗り出す。そしてボスモンスターを倒して得たのは「フィールドダンジョン生成」スキルだった。
生成ダンジョンでスローライフ。既存ダンジョンで異世界冒険。
タクミが第二の人生を謳歌する、そんな物語。
*カクヨム先行公開
日本が日露戦争後大陸利権を売却していたら? ~ノートが繋ぐ歴史改変~
うみ
SF
ロシアと戦争がはじまる。
突如、現代日本の少年のノートにこのような落書きが成された。少年はいたずらと思いつつ、ノートに冗談で返信を書き込むと、また相手から書き込みが成される。
なんとノートに書き込んだ人物は日露戦争中だということだったのだ!
ずっと冗談と思っている少年は、日露戦争の経緯を書き込んだ結果、相手から今後の日本について助言を求められる。こうして少年による思わぬ歴史改変がはじまったのだった。
※地名、話し方など全て現代基準で記載しています。違和感があることと思いますが、なるべく分かりやすくをテーマとしているため、ご了承ください。
※この小説はなろうとカクヨムへも投稿しております。

宮様だって戦国時代に爪痕残すでおじゃるーー嘘です、おじゃるなんて恥ずかしくて言えませんーー
羊の皮を被った仔羊
SF
この物語はフィクションです。登場する人物・団体・名称等は架空であり、実在のものとは関係ありません。
時は1521年正月。
後奈良天皇の正室の第二皇子として逆行転生した主人公。
お荷物と化した朝廷を血統を武器に、自立した朝廷へと再建を目指す物語です。
逆行転生・戦国時代物のテンプレを踏襲しますが、知識チートの知識内容についてはいちいちせつめいはしません。
ごくごく浅い知識で書いてるので、この作品に致命的な間違いがありましたらご指摘下さい。
また、平均すると1話が1000文字程度です。何話かまとめて読んで頂くのも良いかと思います。

やさしい異世界転移
みなと
ファンタジー
妹の誕生日ケーキを買いに行く最中 謎の声に導かれて異世界へと転移してしまった主人公
神洞 優斗。
彼が転移した世界は魔法が発達しているファンタジーの世界だった!
元の世界に帰るまでの間優斗は学園に通い平穏に過ごす事にしたのだが……?
この時の優斗は気付いていなかったのだ。
己の……いや"ユウト"としての逃れられない定めがすぐ近くまで来ている事に。
この物語は 優斗がこの世界で仲間と出会い、共に様々な困難に立ち向かい希望 絶望 別れ 後悔しながらも進み続けて、英雄になって誰かに希望を託すストーリーである。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる