210 / 848
第八章
ミーチャ・アリエフ
しおりを挟む
「それじゃあ、まず。君の名前を聞こうか。それと歳を」
僕がそう言ったのは、トレーラーの上に張ったテントの中。
折り畳みテーブルを挟んで、パイプ椅子に座っている少年に対してだ。
しかし、本当に少年なのだろうか?
実は女の子が、男装しているのでは? と、思えるぐらい可愛い顔をしている。
「ミーチャ・アリエフ。十ニ歳」
少年は、まだ、声変わりもしていないか細い声で答えた。
「十ニ歳だって!?」
容姿は幼く見えるが、軍隊に入るぐらいだから実年齢はもっと上かと思っていたが……
僕はキラの方を振り向く。
「帝国軍は、こんな小さな子供でも徴用するのか?」
「え? 十二歳なら、普通だと思うが……」
「そうなの?」
文化の違いか? いや、いや、帝国人も元は地球人だろ。
それも宇宙開発ができる程の先進国の人間。
「それでも、少年兵を実戦に出すなど普通はない。まして最前線に出すなどありえない。安全な帝都で訓練させるか、儀仗兵に動員したりするものだ。それなのに、こんな砂漠まで来ているのは、おそらくあの変態が無理を言って連れてきたのだろう」
「それって、帝国の法律とか軍規とかで、問題にならないの?」
「もちろん、問題になる。だが、エラ・アレンスキーなら、たいていの無理を押し通せる」
「なんて奴だ」
テントの入り口が開き、外の熱気が入ってきた。
「ご主人様。例の物お持ちしました」
Pちゃんが、ドームカバーを被せたお盆を持って入ってきた。
「じゃあ、テーブルに置いて」
「失礼します」
Pちゃんは少年の前にお盆を置くと、ドームカバーを外した。
今回ドームカバーの下にあったのは、もちろんカロリーメイトなんかではない。
生クリームをたっぷりかけたカスタードプリン。
プリンターで作ったのではなく、旅の前にカルカの宿でPちゃんが作った手作りだ。
Pちゃん自体が機械なのだから、手作りと言っていいのか疑問だが……本来はミクのために用意していた……ミク、いいよね? この子に上げても……
「ミーチャ。疲れただろう。話をする前に、これでも食べてくれ」
しばらくの間、ミーチャはキョトンとしていたが、やがてスプーンを手に取って一口食した。
「美味しい!」
そのまま、ミーチャは涙を流しながらプリンを食べ続けた。
普段ろくなもの食べてないんだな。
「さて、ミーチャ。食べながらでいいから、答えてくれ。君の今後の事だ。僕らは軍隊ではない。僕らの計画が片付いたら、君を捕えておく必要はない。君が望むなら、適当な帝国軍陣地を送り届けてもいいが……え?」
ミーチャは、ショックを受けたようにスプーンをボロッと落とした。
「お願いです! 僕を追い返さないで下さい」
いや……泣きながら、訴えられても……
「追い返すのではなくて、解放するという事なんだけど……」
「どう違うのですか?」
「どうって……君は今、捕らわれの身なのだよ。それは分かっているのかな?」
「こんな美味しい物が食べられて、こんなに優しくしてもらえるなら、一生捕らわれの身でいいです」
それは僕が困る。
「もう、軍隊はイヤです! アレンスキー大尉怖いし、ごはん不味いし」
ううん……困った。
捕虜なのだから、いずれ解放しなきゃならないのだが……虐待されると分かっていて、解放するのも……
僕は、キラに耳打ちした。
「この子をこっそり親元に帰した場合、脱走兵扱いになるのか?」
「当然だ。脱走兵として処分されるな」
「ううむ」
「ようは、アレンスキーのいない部隊に引き渡せばいいのだろう。あいつさえいなければ、それほど酷い扱いはされないはずだ。それにどのみち、アレンスキーのいる部隊は、殲滅するのだからいいではないか」
それもそうか。
僕はミーチャに向き直った。
「大丈夫だよ。帰っても、君がアレンスキー大尉に苛められる事はないから」
しかし、ミーチャはイヤイヤと首を横にふった。
「お願いです。僕を軍隊に戻さないで下さい」
「いや、しかし……」
「掃除でも洗濯でもします。だから、ここに置いて下さい」
「しかし……帝国には、君の親だっているだろ」
「いません」
「え?」
「僕は孤児です。施設で育ちました」
今度は、キラが僕に耳打ちした。
「帝国では、国の施設で育った子供は、十歳になると軍隊に徴用されることになっている」
酷い制度だ。
「カイト殿。親もいないというし、ここは私と一緒に亡命という事でどうだろう?」
「いや、キラの亡命だって、まだ決まったわけでは……」
「私はもう、そのつもりだ。なんなら、ミーチャは私の弟という事にして、一緒にリトル東京に行くのもいいではないか」
ううむ、どうしたものか?
「お願いします。ぼ……くを……zzzzz」
薬が効いてきたようだ。
ミーチャは、パタっとテーブルに突っ伏した。
咄嗟にPちゃんが支えなかったら、食べ残しのプリンに顔から突っ込んでいただろう。
僕がそう言ったのは、トレーラーの上に張ったテントの中。
折り畳みテーブルを挟んで、パイプ椅子に座っている少年に対してだ。
しかし、本当に少年なのだろうか?
実は女の子が、男装しているのでは? と、思えるぐらい可愛い顔をしている。
「ミーチャ・アリエフ。十ニ歳」
少年は、まだ、声変わりもしていないか細い声で答えた。
「十ニ歳だって!?」
容姿は幼く見えるが、軍隊に入るぐらいだから実年齢はもっと上かと思っていたが……
僕はキラの方を振り向く。
「帝国軍は、こんな小さな子供でも徴用するのか?」
「え? 十二歳なら、普通だと思うが……」
「そうなの?」
文化の違いか? いや、いや、帝国人も元は地球人だろ。
それも宇宙開発ができる程の先進国の人間。
「それでも、少年兵を実戦に出すなど普通はない。まして最前線に出すなどありえない。安全な帝都で訓練させるか、儀仗兵に動員したりするものだ。それなのに、こんな砂漠まで来ているのは、おそらくあの変態が無理を言って連れてきたのだろう」
「それって、帝国の法律とか軍規とかで、問題にならないの?」
「もちろん、問題になる。だが、エラ・アレンスキーなら、たいていの無理を押し通せる」
「なんて奴だ」
テントの入り口が開き、外の熱気が入ってきた。
「ご主人様。例の物お持ちしました」
Pちゃんが、ドームカバーを被せたお盆を持って入ってきた。
「じゃあ、テーブルに置いて」
「失礼します」
Pちゃんは少年の前にお盆を置くと、ドームカバーを外した。
今回ドームカバーの下にあったのは、もちろんカロリーメイトなんかではない。
生クリームをたっぷりかけたカスタードプリン。
プリンターで作ったのではなく、旅の前にカルカの宿でPちゃんが作った手作りだ。
Pちゃん自体が機械なのだから、手作りと言っていいのか疑問だが……本来はミクのために用意していた……ミク、いいよね? この子に上げても……
「ミーチャ。疲れただろう。話をする前に、これでも食べてくれ」
しばらくの間、ミーチャはキョトンとしていたが、やがてスプーンを手に取って一口食した。
「美味しい!」
そのまま、ミーチャは涙を流しながらプリンを食べ続けた。
普段ろくなもの食べてないんだな。
「さて、ミーチャ。食べながらでいいから、答えてくれ。君の今後の事だ。僕らは軍隊ではない。僕らの計画が片付いたら、君を捕えておく必要はない。君が望むなら、適当な帝国軍陣地を送り届けてもいいが……え?」
ミーチャは、ショックを受けたようにスプーンをボロッと落とした。
「お願いです! 僕を追い返さないで下さい」
いや……泣きながら、訴えられても……
「追い返すのではなくて、解放するという事なんだけど……」
「どう違うのですか?」
「どうって……君は今、捕らわれの身なのだよ。それは分かっているのかな?」
「こんな美味しい物が食べられて、こんなに優しくしてもらえるなら、一生捕らわれの身でいいです」
それは僕が困る。
「もう、軍隊はイヤです! アレンスキー大尉怖いし、ごはん不味いし」
ううん……困った。
捕虜なのだから、いずれ解放しなきゃならないのだが……虐待されると分かっていて、解放するのも……
僕は、キラに耳打ちした。
「この子をこっそり親元に帰した場合、脱走兵扱いになるのか?」
「当然だ。脱走兵として処分されるな」
「ううむ」
「ようは、アレンスキーのいない部隊に引き渡せばいいのだろう。あいつさえいなければ、それほど酷い扱いはされないはずだ。それにどのみち、アレンスキーのいる部隊は、殲滅するのだからいいではないか」
それもそうか。
僕はミーチャに向き直った。
「大丈夫だよ。帰っても、君がアレンスキー大尉に苛められる事はないから」
しかし、ミーチャはイヤイヤと首を横にふった。
「お願いです。僕を軍隊に戻さないで下さい」
「いや、しかし……」
「掃除でも洗濯でもします。だから、ここに置いて下さい」
「しかし……帝国には、君の親だっているだろ」
「いません」
「え?」
「僕は孤児です。施設で育ちました」
今度は、キラが僕に耳打ちした。
「帝国では、国の施設で育った子供は、十歳になると軍隊に徴用されることになっている」
酷い制度だ。
「カイト殿。親もいないというし、ここは私と一緒に亡命という事でどうだろう?」
「いや、キラの亡命だって、まだ決まったわけでは……」
「私はもう、そのつもりだ。なんなら、ミーチャは私の弟という事にして、一緒にリトル東京に行くのもいいではないか」
ううむ、どうしたものか?
「お願いします。ぼ……くを……zzzzz」
薬が効いてきたようだ。
ミーチャは、パタっとテーブルに突っ伏した。
咄嗟にPちゃんが支えなかったら、食べ残しのプリンに顔から突っ込んでいただろう。
0
お気に入りに追加
139
あなたにおすすめの小説

冤罪だと誰も信じてくれず追い詰められた僕、濡れ衣が明るみになったけど今更仲直りなんてできない
一本橋
恋愛
女子の体操着を盗んだという身に覚えのない罪を着せられ、僕は皆の信頼を失った。
クラスメイトからは日常的に罵倒を浴びせられ、向けられるのは蔑みの目。
さらに、信じていた初恋だった女友達でさえ僕を見限った。
両親からは拒絶され、姉からもいないものと扱われる日々。
……だが、転機は訪れる。冤罪だった事が明かになったのだ。
それを機に、今まで僕を蔑ろに扱った人達から次々と謝罪の声が。
皆は僕と関係を戻したいみたいだけど、今更仲直りなんてできない。
※小説家になろう、カクヨムと同時に投稿しています。
タイムワープ艦隊2024
山本 双六
SF
太平洋を横断する日本機動部隊。この日本があるのは、大東亜(太平洋)戦争に勝利したことである。そんな日本が勝った理由は、ある機動部隊が来たことであるらしい。人呼んで「神の機動部隊」である。
この世界では、太平洋戦争で日本が勝った世界戦で書いています。(毎回、太平洋戦争系が日本ばかり勝っ世界線ですいません)逆ファイナルカウントダウンと考えてもらえればいいかと思います。只今、続編も同時並行で書いています!お楽しみに!

異世界でネットショッピングをして商いをしました。
ss
ファンタジー
異世界に飛ばされた主人公、アキラが使えたスキルは「ネットショッピング」だった。
それは、地球の物を買えるというスキルだった。アキラはこれを駆使して異世界で荒稼ぎする。
これはそんなアキラの爽快で時には苦難ありの異世界生活の一端である。(ハーレムはないよ)
よければお気に入り、感想よろしくお願いしますm(_ _)m
hotランキング23位(18日11時時点)
本当にありがとうございます
誤字指摘などありがとうございます!スキルの「作者の権限」で直していこうと思いますが、発動条件がたくさんあるので直すのに時間がかかりますので気長にお待ちください。

平和国家異世界へ―日本の受難―
あずき
ファンタジー
平和国家、日本。 東アジアの島国であるこの国は、厳しさを増す安全保障環境に対応するため、 政府は戦闘機搭載型護衛艦、DDV-712「しなの」を開発した。 「しなの」は第八護衛隊群に配属され、領海の警備を行なうことに。
それから数年後の2035年、8月。
日本は異世界に転移した。
帝国主義のはびこるこの世界で、日本は生き残れるのか。
総勢1200億人を抱えた国家サバイバルが今、始まる――
何番煎じ蚊もわからない日本転移小説です。
質問などは感想に書いていただけると、返信します。
毎日投稿します。

妹と再婚約?殿下ありがとうございます!
八つ刻
恋愛
第一王子と侯爵令嬢は婚約を白紙撤回することにした。
第一王子が侯爵令嬢の妹と真実の愛を見つけてしまったからだ。
「彼女のことは私に任せろ」
殿下!言質は取りましたからね!妹を宜しくお願いします!
令嬢は妹を王子に丸投げし、自分は家族と平穏な幸せを手に入れる。

やさしい異世界転移
みなと
ファンタジー
妹の誕生日ケーキを買いに行く最中 謎の声に導かれて異世界へと転移してしまった主人公
神洞 優斗。
彼が転移した世界は魔法が発達しているファンタジーの世界だった!
元の世界に帰るまでの間優斗は学園に通い平穏に過ごす事にしたのだが……?
この時の優斗は気付いていなかったのだ。
己の……いや"ユウト"としての逃れられない定めがすぐ近くまで来ている事に。
この物語は 優斗がこの世界で仲間と出会い、共に様々な困難に立ち向かい希望 絶望 別れ 後悔しながらも進み続けて、英雄になって誰かに希望を託すストーリーである。
日本が日露戦争後大陸利権を売却していたら? ~ノートが繋ぐ歴史改変~
うみ
SF
ロシアと戦争がはじまる。
突如、現代日本の少年のノートにこのような落書きが成された。少年はいたずらと思いつつ、ノートに冗談で返信を書き込むと、また相手から書き込みが成される。
なんとノートに書き込んだ人物は日露戦争中だということだったのだ!
ずっと冗談と思っている少年は、日露戦争の経緯を書き込んだ結果、相手から今後の日本について助言を求められる。こうして少年による思わぬ歴史改変がはじまったのだった。
※地名、話し方など全て現代基準で記載しています。違和感があることと思いますが、なるべく分かりやすくをテーマとしているため、ご了承ください。
※この小説はなろうとカクヨムへも投稿しております。
盤上の兵たちは最強を誇るドラゴン種…なんだけどさ
ひるま(マテチ)
SF
空色の髪をなびかせる玉虫色の騎士。
それは王位継承戦に持ち出されたチェスゲームの中で、駒が取られると同事に現れたモンスターをモチーフとしたロボット兵”盤上戦騎”またの名を”ディザスター”と呼ばれる者。
彼ら盤上戦騎たちはレーダーにもカメラにも映らない、さらに人の記憶からもすぐさま消え去ってしまう、もはや反則レベル。
チェスの駒のマスターを望まれた“鈴木くれは”だったが、彼女は戦わずにただ傍観するのみ。
だけど、兵士の駒"ベルタ”のマスターとなり戦場へと赴いたのは、彼女の想い人であり幼馴染みの高砂・飛遊午。
異世界から来た連中のために戦えないくれは。
一方、戦う飛遊午。
ふたりの、それぞれの想いは交錯するのか・・・。
*この作品は、「小説家になろう」でも同時連載しております。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる