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第八章

魔光

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『キラ・ガルキナ! どこに隠れている?』
 
 キラの分身は、何とか追っ手をまいたようだ。
 今は、瓦礫の裏に隠れている。

『キラ・ガルキナ! 私を忘れたのか? 出来の悪いおまえの面倒を、散々見てやったエラ・アレンスキーだ』

「帝国語では『虐待』の事を『面倒を見る』と言うのかしらね?」
 
 ミールは呆れ顔だが……

「日本にもいるよ。そういう奴」
「え? そうでしたの? カイトさんの元上司のヤナとかいう人ですか?」
「そう。その人。ダモンさんのような人格者を、上司に持ったミールは幸運だよ」
「まてまて! わしはそんな誉められた人間ではないぞ」
 
 ダモンさんは慌てて否定するが、そう言われて肯定する人だったら人格者ではない。

「師匠。マイクとカメラ、通信機を隠しました」
「では、キラ。分身をそのまま消して」
「はい」

 キラの顔から緊張感が抜ける。
 今、分身を消したようだ。

「キラ、どうでした? 分身を操作した感じは……」
「疲れました。暴走させないように、ずっと緊張していました」
「今は、そうでしょう。慣れてくれば、呼吸をするように分身を操れるようになりますよ」

『キラ・ガルキナ。私から受けた恩を忘れたのか!?』

 スピーカーからは、まだエラ・アレンスキーとかいう指導教官の声が聞こえていた。

「キラ。この人から、何か恩を受けたのかい?」

 キラは僕の質問に首を横にふる。

「確かに、最初は『魔法の制御法』と言って、エラ・アレンスキーから、いろんな訓練を教えられた。しかし……師匠のところで勉強して分かったが、エラ・アレンスキーの教えは、まったくの出鱈目だった。あえて言うなら、役に立たない無駄知識を教えてもらったという恩を受けたな」

 恩というより怨だな。
 
『 ピーガガガ! キラ…… ビュイイイイ  ……て来い!』

 なんだ? スピーカーからノイズが……

 ドローンからの映像に視線を向けた。

 帝国軍の士官の姿が映像に現れた。
 あいつがエラ・アレンスキーか?
 しかし、何をやっているんだ?
 あちこちに放電をしているが……
 時々、プラズマボールも放っている。
 周囲の瓦礫が、電撃やプラズマボールを食らい砕けていく。

「何をやってるんだ? あいつは?」

  思わず僕が呟いた疑問に、キラは思いがけないことを言う。

「ヒステリーを起こしているようだ」
「ヒテステリーって……女みたいに……」
「え? いや……あれは女だが……」
「女!? あれが!」
「エラという名前を聞けば、分かると思ったのだが……」
「そうは言われても、帝国人の名前はよく分からんし……」

 ハスキーな声をしていたが、よく見ると胸が膨らんでいる。
 顔を拡大してみた。
 歳は四十代ぐらいだろうか?
 顔は整っていて美人の部類には入るようだが、なんか恍惚とした表情をしていた。

 アブない人のようだな……

 彼女の放ったブラズマボールが煉瓦の壁に穴を開けた。

「しかし……雷魔法って、凄い威力だな」

 ミクが使った時は、閃光しか見えなかったが……

「威力は凄いですが、魔力消費も大きいのです」

 ミールが横から覗きこんでいた。

「ミクの時もそうだったけど、ミールはなんで他の魔法使いの魔力消費が分かるの?」
「そういえば、言ってなかったですね。あたし、魔光まこうが見えるのですよ。回復薬を飲んだ直後だけですけど。魔光の強さを見ていると、魔力の消費とか残りの魔力とかが分かるのです」
「魔光?」

 翻訳ディバイスを見たが、ナーモ語の『魔法』と『光』を組み合わせた単語を直訳したようだ。
 
「魔光というのは、別に魔法使いに限らず、すべての生物が出している光です。カイトさんも出していますよ」
「僕も? どんな光?」
「とても澄み切った青い光です。あたし、いろんな人の魔光を見ましたが、カイトさんほど澄み切った光を出す人は、ダモン様ぐらいでしたわ。他の人は、グチャクヂャしていて、あまり綺麗なものではありません。アンダーにいたっては、正視に耐えられないほど醜い光です」

 ん? これって?

 僕はPCを操作してある写真を表示させた。

「こんな光じゃないのかな?」
「ん? そうです! これです! これって写真に写るのですか?」
 
 ミールに見せたのは、キルリアン写真。やっぱり、魔光ってオーラの事だったのか。

「普通は写らない。これはコロナ放電という現象を利用して、オーラを写真に写るようにしたものなんだ」
「オーラ?」
「魔光の事を、地球では『オーラ』とか『後光ごこう』とか言うんだよ。ただ、この翻訳ソフトを作った人がそれを知らなくて、ナーモ語を直訳していたんだね」

 そう言えば、相模原月菜って怪奇現象とかの話を毛嫌いしていたな。
 デートしたときも、ホラー映画見るのは嫌がっていたし……

「クス」
「カイトさん、何がおかしいのですか?」
「え? いや、思い出し笑いだよ。翻訳した人は僕の……友達なので……」

 ヤバイ! 危うく『元カノ』と言うところだった。

「友達というのは女の人ですね」

 ギクウ!

「な……なんでそう思う?」
「カイトさんの魔光が一瞬ぶれました」

 そんな事も分かってしまうのか。

 これからは、ミールが薬を飲んだ直後は言葉に気を付けよう。

「でも、カイトさんが笑ってくれて、良かったです」
「え?」
「カイトさん。ミクちゃんが死んでから、ずっと暗い顔をしていたんですよ」
「え? そうだったの?」

 いや、まあ、確かに、明るい顔なんかできるわけないな……


「あら? そろそろ魔力切れのようですね」

 エラ・アレンスキーがゼイゼイと息切れしている様子が、ドローンからの映像に映っていた。

「映像を通しても、魔光が見えるの?」
「それは無理です。でも、あの様子を見れば疲れているのは分かるでしょ」
「確かに」

『少年兵! 薬を持ってこい』

 薬!?

 僕はキラに視線を向けた。

「キラ。帝国にも、ミールの使っているような魔力回復薬があるの?」

 だが、キラは首ひねるだけ。

「私は見たことない」
「という事は、新たに開発したのかな?」
「カイトさん。帝国が魔力の軍事利用を考えているなら、十分ありえます。というより、薬が無ければ魔力の軍事利用なんて、ほぼ不可能ですから」

 確かに。ミールの分身は、薬が無いとほとんど戦えない……

 お! 薬が届いたみたいだぞ。

 薬瓶と水の入ったコップを乗せたお盆を、恭しく持った少年兵がやって来た。
 少年兵というより、ボーイスカートみたいだな。
 女の子みたいな可愛らしい顔立ちをしているが、その眼は何かに怯えているようだ。

「また、あんな子供を……」

 ん? キラが顔を引きつらせている。

「キラ。どうかしたの?」
「師匠。カイト殿。ここから先は、見ない方がいいです」

 映像の中で、エラが薬を飲みこんでいた。

「あいつは……エラ・アレンスキーは、とんでもない変態なのです」

 変態?

 少年兵はエラからコップを受け取ると、一礼して去ろうとした……

『おい。なぜ逃げる』

 エラは少年兵の腕を掴む。

『お……お許しを……』

 少年兵は目に涙を浮かべていた。

『ならぬ』

 エラは嫌がる少年兵を抱き寄せると、首筋に掌を立てた。
 
 直後、強烈な光が発生する。
  
『うわわわわ!』
 
 突然、少年兵は悲鳴を上げた。
  
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