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第八章
偵察
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さっぱり出てこないな。
キラの分身に持たせたカメラから送られてきた映像には、ドームの扉らしきものが映っていた。その状態が、十分ほど続いている。
ドーム内の人たちは、扉の前に帝国軍の女性兵士が突っ立っているのに、気がついていないのだろうか?
それとも……
「帝国軍兵士とは言え、女の子だから見逃そうというのかな?」
「そんな事をするのは、ご主人様だけです」
「カイトさん。女だからって見逃すのは、いい加減やめて下さい。いつか、命を落としますよ」
なんだよ……Pちゃんもミールも……しかし、そうでないとしたら何で出てこないんだ?
扉の前には、監視カメラがあるし……あ!
「しまった!」
「カイトさん。どうしたのですか?」
「分身を差し向けても、ダメだ。ドームの中の人は、カメラを通して外を見ているんだよ。一度、カメラに映ってしまったら、分身だって見破られてしまう」
「そうでした」
「しかし……中の人たちは、帝国軍兵士姿の分身を見てどう判断するかな? 帝国軍に魔法使いがいない事は知っているだろうから、ナーモ族の魔法使いが送り込んで来たというのは分かるだろうし……」
僕の疑問に、ダモンさんが答えてくれた。
「帝国にも、魔法使いがいない事はないぞ」
「え? でも……魔法使いがいないから、キラはミールに教えを請いにきたのでは……」
「いやいや。ごく稀にだが、誰に教わる事もなく、自分の力だけで魔力の制御を習得する者もいるのだ。一部の天才だがな」
「へえ……そんな事が……」
「ネクラーソフに聞いた話だがな、帝国にもそういう天才がいるのだ。最初は、その天才たちに他の魔法能力者を指導させようとしたらしい。だが、うまく行かなかったそうだ」
「なぜですか?」
「魔法に限らず、天才という奴は、人に物を教えるのが下手だからな。彼ら自身は魔法を使いこなす事ができるが、どういう過程を経てそれを修得したか、自分でも分かっていないのだ。だから、間違った教え方をする。その教え方で弟子が魔法を修得できないと、自分の教え方が悪いのではなく、弟子が怠けていると決めつけてしまう事も多い」
「そういう話、よく聞きますね」
「キラの指導教官も、そうとう酷い奴だったらしい。いくら教えても、キラが分身魔法を制御できないでいると、食事を抜いたり、罵詈雑言を浴びせたり、時にも暴力も振るったという」
うあわ! 酷い奴だな。
助手席では、ミールが涙を浮かべていた。
「キラ。可哀そう! どうして、あたしにその事を言ってくれなかったの?」
「あの時の事は、思い出したくもありません。できれば、今後はその話題も、出さないでほしいのですが……」
「そうなの。分かったわ。今後は、この話はしない」
「それで、師匠。この分身はどうしますか?」
「そうね。ドームの中の人に見破れているのでは……カイトさん。どうしましょう?」
ドームの扉を、僕はじっと見つめた。
扉の横にインターホンのようなものはないだろうか?
お! あった。
扉の横に。それらしいものがある。
僕はモニターの一部を指差した。
「キラ。この場所に近づいてくれ」
「分かった」
キラが扉の横についているインターホンのようなものに近づいて、装置の姿がはっきり見えてきた。
違う。テンキーとディスプレイはあるが、スピーカーらしきものは見当たらない。
これはインターホンじゃないな。
「Pちゃん、これは?」
「操作パネルですね。このテンキーで暗証番号を打ち込んで扉を開くのでしょう」
「暗証番号が分からないと無理か」
「操作パネルの下にUSBがありますね。近くまで行って、私のコンピューターとつなげれば開けるかもしれません」
「結局、近くまで行かなきゃどうにもならないか」
しかし、近づけばどこかに隠れている帝国軍に見つかる。
「キラ。ドームの周りを一周してみてくれ」
「なんのために?」
「偵察だよ。他に入れそうな場所がないか見ておこう」
キラの分身は、ドームの周囲を歩き始めた。
半周ほど回ったところで、キラが顔をしかめる。
「師匠、帝国軍に遭遇しました」
やっと、出てきたか。
実はキラに周囲を回ってもらったのは、帝国軍をおびき出すため。
しかし、それを言ってしまうと、キラは帝国との戦いに関わったことになりミールから破門されかねない。
しないと思うけどね……
それでもミールとしては気分がよくないだろう。
だから、卑怯な僕に利用されたという体裁を整えてみたわけだ。
ややっこしいね。
まあ、この後は僕らが帝国軍を殲滅すればいいだけだが、その前に……
「師匠。分身を消しますか?」
「ちょっと待って。カイトさん。ドローンの映像を見せて下さい」
「ああ」
モニターの画像を、ドローンから送られて来るものに切り替えた。
ドームに沿って歩くキラが映る。
映像の範囲を広げた。
ドームから三十メートルほど離れたところにある瓦礫の陰に、十人ほどの帝国軍兵士がいるのが見える。
それに混じって、東洋人の女が一人いた。
顔を拡大……あれは!?
ドローン・オペレーターの成瀬 真須美!
じゃあ、ミクにぶつかった飛行体は、あの女が操縦していたドローンだったのか?
「カイトさん。あれ日本人ですよね?」
「ああ、リトル東京から逃亡した四人の中の一人だ」
兵士の一人がキラに声をかけていた。
キラに付けたマイクで拾った声を翻訳にかけてみる。
『そこの兵士。そこは危険だ。我々のところへ来い』
「キラ。分身を逃がして。今、消してはダメ」
「なぜですか?」
「ここであなたの分身を消したら、カメラやマイクや通信機を、その場に残してしまいます。帝国兵ならともかく、あの日本人の女に拾われるわけにはいきません。消えるなら、それらを処分してからにしないと」
「分かりました」
映像の中で、キラの分身が走りだす。
その後を、帝国軍兵士達が追いかけ始めた。
キラに向かって何かを叫ぶ。
翻訳機にかけた。
『キラ・ガルキナ! なぜ逃げる?』
キラを知っている!?
「キラ。知り合いですか?」
「はい。師匠」
「困りましたね。口封じのために、殺しておかないと」
ミール……可愛い顔で、そういう物騒な事言うのは……まあ、どのみち、殲滅する予定だけど……
ああ! そっか。キラの知り合いだったら、殺しにくいという事だな。
「キラ。その知り合いというのは、あなたの親類縁者ですか?」
「いえ。違います」
「では、友達ですか?」
ミールの問いかけに、キラは答えずにうつむく。
どうしたんだろう?
「……」
しばらくして、キラは何かをボソっと呟いたが、声が小さくてよく聞き取れない。
「キラ。もっと大きな声で。よく聞こえません」
「……いませんから」
「え?」
「友達なんて……一人もいませんから」
車内の空気が、ズーンと重くなった。
ミールも、さすがに気まずい表情をしている。
「そ……そうなの。でもね、キラ……あたし達は、あなたのお友達だから……」
「師匠、いいです。そんな、フォローされても、よけいに惨めな気分になるだけですから」
「……」
いかん。話題を変えないと……
「その人は、キラとはどういう関係の人なんだ?」
「指導教官……」
「指導教官!? という事は……」
「キラの食事を抜いたり、罵詈雑言を浴びせたり、暴力を振るったという……」
「うわあ! 師匠! その話はしないで下さい!」
「あら、ごめんなさい。でも……」
ミールが凶悪な笑みを浮かべた。
「これで、心置きなく、ぶっ殺せますわね」
「ちょっと……ミール」
「どうしました? カイトさん」
「僕には、心を憎悪に委ねるなと言ってたのに……」
「あら、大丈夫ですわ。『心置きなく』と言ったのは、口封じのために殺すのを躊躇する理由が無くなったということですわ。決して憎いから殺すのではありません。憎いけど……」
「そ……そうなの……」
「師匠、待って下さい! ぶっ殺すは良いですが、指導教官はかなりの強敵です」
「強敵?」
「雷魔法を操る人です」
「雷魔法と言っても、ピンからキリまであります。直接身体に触れて感電させる程度だったら、たいした事は無いのですけど……」
「光の玉を出します」
「光の玉?」
「これをぶつけられた者が、一瞬で黒こげ死体になってしまったのを見ています」
球電だな。これは少しやっかいだぞ。
キラの分身に持たせたカメラから送られてきた映像には、ドームの扉らしきものが映っていた。その状態が、十分ほど続いている。
ドーム内の人たちは、扉の前に帝国軍の女性兵士が突っ立っているのに、気がついていないのだろうか?
それとも……
「帝国軍兵士とは言え、女の子だから見逃そうというのかな?」
「そんな事をするのは、ご主人様だけです」
「カイトさん。女だからって見逃すのは、いい加減やめて下さい。いつか、命を落としますよ」
なんだよ……Pちゃんもミールも……しかし、そうでないとしたら何で出てこないんだ?
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「しまった!」
「カイトさん。どうしたのですか?」
「分身を差し向けても、ダメだ。ドームの中の人は、カメラを通して外を見ているんだよ。一度、カメラに映ってしまったら、分身だって見破られてしまう」
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「しかし……中の人たちは、帝国軍兵士姿の分身を見てどう判断するかな? 帝国軍に魔法使いがいない事は知っているだろうから、ナーモ族の魔法使いが送り込んで来たというのは分かるだろうし……」
僕の疑問に、ダモンさんが答えてくれた。
「帝国にも、魔法使いがいない事はないぞ」
「え? でも……魔法使いがいないから、キラはミールに教えを請いにきたのでは……」
「いやいや。ごく稀にだが、誰に教わる事もなく、自分の力だけで魔力の制御を習得する者もいるのだ。一部の天才だがな」
「へえ……そんな事が……」
「ネクラーソフに聞いた話だがな、帝国にもそういう天才がいるのだ。最初は、その天才たちに他の魔法能力者を指導させようとしたらしい。だが、うまく行かなかったそうだ」
「なぜですか?」
「魔法に限らず、天才という奴は、人に物を教えるのが下手だからな。彼ら自身は魔法を使いこなす事ができるが、どういう過程を経てそれを修得したか、自分でも分かっていないのだ。だから、間違った教え方をする。その教え方で弟子が魔法を修得できないと、自分の教え方が悪いのではなく、弟子が怠けていると決めつけてしまう事も多い」
「そういう話、よく聞きますね」
「キラの指導教官も、そうとう酷い奴だったらしい。いくら教えても、キラが分身魔法を制御できないでいると、食事を抜いたり、罵詈雑言を浴びせたり、時にも暴力も振るったという」
うあわ! 酷い奴だな。
助手席では、ミールが涙を浮かべていた。
「キラ。可哀そう! どうして、あたしにその事を言ってくれなかったの?」
「あの時の事は、思い出したくもありません。できれば、今後はその話題も、出さないでほしいのですが……」
「そうなの。分かったわ。今後は、この話はしない」
「それで、師匠。この分身はどうしますか?」
「そうね。ドームの中の人に見破れているのでは……カイトさん。どうしましょう?」
ドームの扉を、僕はじっと見つめた。
扉の横にインターホンのようなものはないだろうか?
お! あった。
扉の横に。それらしいものがある。
僕はモニターの一部を指差した。
「キラ。この場所に近づいてくれ」
「分かった」
キラが扉の横についているインターホンのようなものに近づいて、装置の姿がはっきり見えてきた。
違う。テンキーとディスプレイはあるが、スピーカーらしきものは見当たらない。
これはインターホンじゃないな。
「Pちゃん、これは?」
「操作パネルですね。このテンキーで暗証番号を打ち込んで扉を開くのでしょう」
「暗証番号が分からないと無理か」
「操作パネルの下にUSBがありますね。近くまで行って、私のコンピューターとつなげれば開けるかもしれません」
「結局、近くまで行かなきゃどうにもならないか」
しかし、近づけばどこかに隠れている帝国軍に見つかる。
「キラ。ドームの周りを一周してみてくれ」
「なんのために?」
「偵察だよ。他に入れそうな場所がないか見ておこう」
キラの分身は、ドームの周囲を歩き始めた。
半周ほど回ったところで、キラが顔をしかめる。
「師匠、帝国軍に遭遇しました」
やっと、出てきたか。
実はキラに周囲を回ってもらったのは、帝国軍をおびき出すため。
しかし、それを言ってしまうと、キラは帝国との戦いに関わったことになりミールから破門されかねない。
しないと思うけどね……
それでもミールとしては気分がよくないだろう。
だから、卑怯な僕に利用されたという体裁を整えてみたわけだ。
ややっこしいね。
まあ、この後は僕らが帝国軍を殲滅すればいいだけだが、その前に……
「師匠。分身を消しますか?」
「ちょっと待って。カイトさん。ドローンの映像を見せて下さい」
「ああ」
モニターの画像を、ドローンから送られて来るものに切り替えた。
ドームに沿って歩くキラが映る。
映像の範囲を広げた。
ドームから三十メートルほど離れたところにある瓦礫の陰に、十人ほどの帝国軍兵士がいるのが見える。
それに混じって、東洋人の女が一人いた。
顔を拡大……あれは!?
ドローン・オペレーターの成瀬 真須美!
じゃあ、ミクにぶつかった飛行体は、あの女が操縦していたドローンだったのか?
「カイトさん。あれ日本人ですよね?」
「ああ、リトル東京から逃亡した四人の中の一人だ」
兵士の一人がキラに声をかけていた。
キラに付けたマイクで拾った声を翻訳にかけてみる。
『そこの兵士。そこは危険だ。我々のところへ来い』
「キラ。分身を逃がして。今、消してはダメ」
「なぜですか?」
「ここであなたの分身を消したら、カメラやマイクや通信機を、その場に残してしまいます。帝国兵ならともかく、あの日本人の女に拾われるわけにはいきません。消えるなら、それらを処分してからにしないと」
「分かりました」
映像の中で、キラの分身が走りだす。
その後を、帝国軍兵士達が追いかけ始めた。
キラに向かって何かを叫ぶ。
翻訳機にかけた。
『キラ・ガルキナ! なぜ逃げる?』
キラを知っている!?
「キラ。知り合いですか?」
「はい。師匠」
「困りましたね。口封じのために、殺しておかないと」
ミール……可愛い顔で、そういう物騒な事言うのは……まあ、どのみち、殲滅する予定だけど……
ああ! そっか。キラの知り合いだったら、殺しにくいという事だな。
「キラ。その知り合いというのは、あなたの親類縁者ですか?」
「いえ。違います」
「では、友達ですか?」
ミールの問いかけに、キラは答えずにうつむく。
どうしたんだろう?
「……」
しばらくして、キラは何かをボソっと呟いたが、声が小さくてよく聞き取れない。
「キラ。もっと大きな声で。よく聞こえません」
「……いませんから」
「え?」
「友達なんて……一人もいませんから」
車内の空気が、ズーンと重くなった。
ミールも、さすがに気まずい表情をしている。
「そ……そうなの。でもね、キラ……あたし達は、あなたのお友達だから……」
「師匠、いいです。そんな、フォローされても、よけいに惨めな気分になるだけですから」
「……」
いかん。話題を変えないと……
「その人は、キラとはどういう関係の人なんだ?」
「指導教官……」
「指導教官!? という事は……」
「キラの食事を抜いたり、罵詈雑言を浴びせたり、暴力を振るったという……」
「うわあ! 師匠! その話はしないで下さい!」
「あら、ごめんなさい。でも……」
ミールが凶悪な笑みを浮かべた。
「これで、心置きなく、ぶっ殺せますわね」
「ちょっと……ミール」
「どうしました? カイトさん」
「僕には、心を憎悪に委ねるなと言ってたのに……」
「あら、大丈夫ですわ。『心置きなく』と言ったのは、口封じのために殺すのを躊躇する理由が無くなったということですわ。決して憎いから殺すのではありません。憎いけど……」
「そ……そうなの……」
「師匠、待って下さい! ぶっ殺すは良いですが、指導教官はかなりの強敵です」
「強敵?」
「雷魔法を操る人です」
「雷魔法と言っても、ピンからキリまであります。直接身体に触れて感電させる程度だったら、たいした事は無いのですけど……」
「光の玉を出します」
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