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第八章

金属ドーム

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「これは……?」
 
 ミクの捜索を打ち切り、僕たちは飛行体の降りた地点へ向かって車を走らせていた。
 そんな時、ステルスドローンから送られてきた映像を見て、僕は思わずつぶやいたのだ。
 倒壊したビルだらけの中で、それだけが異様だった。

 鈍く光る金属のドーム。
 
 直径は五十メートルほど……
 周囲の建物と違い、それだけはほとんど壊れていなかった。
 後部シートにいるダモンさんの方を振り向く。

「このドームは、元々カルカにあった物ですか?」
「わしがカルカにいた時には確かにあった。何のための建物かは、国家機密であったので知らされていなかったが……まさか、これが残っていたとは……しかし、建造当時ドームの壁は、鏡のように輝いていたと記憶しているが……」

「Pちゃん。これは、核攻撃に耐えられるような建物なのかい?」
「建物の材質を調べない事には分かりませんが、この建物の形状と、ダモン様が仰っていましたように壁が鏡のように輝いていたのなら、その可能性が高いです」
「そうか。鏡面装甲という奴だな」
「そうです。もちろん、核の直撃には耐えられませんが、爆心地から数百メートル離れたところなら、熱線や衝撃波には十分耐えられます」
「衝撃波にも? 鏡で?」
「鏡面装甲は、ただの鏡ではありません。実用化された鏡面装甲は、過冷却ガリウムなどの流体金属を、ダイヤモンド皮膜などで挟んだものが使われています。流体金属の層は数センチ~数メートルのものがあり、実体弾や衝撃波からの防御にも有効です」
「地下シェルターの他にも、こんなのがあったんだ。じゃあ、この中で暮らしている人もいるのかな?」
「いえ。このドームが対核構造物であるなら、内部にはあまり大きな空間はありません」
「じゃあ、なんのためにあるんだ?」
「地下核シェルターへの出入り口を、守る目的で作られる事が多いです」
「そうか……え? という事は……僕達が探している、地下への入り口はこれなのかな?」
「その可能性は大きいです」

 なんてこった。ル○ンを追いかけていたら、とんでもない物を見つけてしまったって感じだ。

 いずれにせよ、ミクにぶつかった奴がこの辺り降りたという事は、このドームが無関係とは考えにくい。奴がこの中に入った可能性は大きい。
 という事は、すでに敵はシェルター内部に入り込んでいるのか?

 しかし、このドームはまったく無関係で、近くにプレハブ小屋の基地が無いとも言い切れない。

「Pちゃん。このドームに到着するまでの時間は?」
「十五分ほどです」
「よし、それまでにステルスドローンで、周囲に他に怪しい建物がないか探してみてくれ」
「了解しました」

 ちなみに、今回使っているステルスドローンは、さっきの戦いで落とされた飛行船タイプの代わりに急遽作ったジェットドローンだ。
 飛行船タイプと違って滞空時間が短いが仕方がない。
 今まではレーダーを持っていない帝国軍が相手だったが、今度の相手は矢納課長をはじめとする裏切り者四人組。
 レーダーは当然持っているだろうし、飛行船など出したら『落としてください』と言っているようなものだ。
  
 そうこうしている内に、車はカルカ国の遺跡に入った。
 ドローンから見た遺跡は、どこもかしこも瓦礫の山。
 しかし、ドームに続く道は瓦礫が片付けられている。
 どうやら、この道は最近になっても誰かがよく使っているらしい。
 という事は、やはりあのドームが入り口?
 しかし、その近くに敵の飛行体が降りたという事は、すでにあのドームは敵の手に落ちているのだろうか?

「カイトさん。ちょっとこれを見て下さい」

 助手席からミールが、ドローンからの映像が出ているメインモニターを指差した。
 死体が映っている。
 帝国軍の軍服姿だ。
 他に馬の死骸もあった。

「この辺りで戦闘があったようです。まだ敵がいるかもしれないし、迂闊に近づくのは危険です」
「なるほど」

 車を止めた。

 映像の死体は、お茶の間の人達にはとうてい見せられないような酷い状態だ。
 
 そんな死体が、ドーム周辺のあちこちに転がっている。

 僕は振り返ってキラの方を見た。

 キラはモニターから目を背けている。

「キラ。帝国軍では、仲間の死体はこのように放置するものなのか?」
「いや、普通は火葬してその場に埋める」
「骨は持ち帰らないの?」
「なぜ、そのような事をする? 死体は魂の抜け殻だ。持ち帰っても、なんの意味はない」
「そうなのか? いや、僕の国では遺骨は持ち帰って弔うものなのでね。まあ、宗教の違いだよ」
「宗教の違い? ああそうか。お前たちは、悪魔を信仰しているのだったな」

 なぜ、そこまで極端になる?

「異教徒の信仰対象は、すべて悪魔だと教えられているのか?」
「そうだが……違うのか?」
「違う」
「ううむ……やっぱり、そうなのか。いや、悪魔は人に害をなす存在。そんなもの信仰する人間など本当にいるのだろうか? と思っていたのでな」
 
 とにかく、帝国軍が死体を片づけないのは、片づけたくても片づけられない事情があるからということだ。
 すでに部隊が全滅していて、片づける者がいないのか?
 いや、それならあの飛行物体がこんなところに降りるはずがない。
 帝国軍部隊は近くにいるが、ドームを攻めあぐねているのか?
 だとすると、運河の出入り口を破壊しようとしている理由もわかる。
 ドームから攻めるのが難しいので、裏口から進入しようというのか。

 その考えを、みんなに話すと……

「だとすると、我々がドームに迂闊に近づくのは危険だな」

 ダモンさんが言うのも、もっともだ。
 迂闊にドームに近づくと、帝国軍に攻撃されるだけでなく、僕らを帝国軍と誤解したカルカの人たちから攻撃される恐れもある。
 こっちが味方だと言うことを、ドーム内の人たちに伝える事ができれば……
 
「ダモン様、カイトさん、ここはキラにドームへ行ってもらいましょう」

 ミールの発言にキラが慌てた。

「ちょ……ちょっと待って下さい! 師匠! 私に死ねと言うのですか!?」
「そんな分けないでしょう。何も直接行けと言っているのではありません。あなたもかなり分身をコントロールできるようになったでしょう。訓練をかねて分身をドームに送り込んで下さいと言っているのです」
「あ、なるほど。そういう事でしたら」

 さっそく、キラは分身を作った。

 その分身に僕はカメラとマイクを装着し、通信機を持たせた。

 キラの分身はドームに向かって走っていく。

 車内に戻って、分身のカメラから送られてくる映像をモニター表示させてから、疑問に思っていた事をミールに聞いてみた。
「ミール。なぜ、君の分身を送り込まないんだ?」
「ドーム内の人が、ナーモ族であるあたしの姿を見て、味方だと思って出てきてくれればいいのですが、おそらくそうはならないでしょう」
「なぜ?」
「アンダーのように、帝国に寝返ったナーモ族も少なからずいるのです。ドーム内の人は、あたしが敵か味方か判断に迷って無視すると思うのです。しかし、それでは困ります。攻撃に出てきてもらわないと」
「なるほど」
「キラなら、帝国人だから確実に敵と判断されるでしょう。ドーム内の人たちが攻撃に出てきたら、キラには降伏させるのです。そして捕虜になって、通信機を渡せば、カイトさんは中の人たちと話ができるでしょ」
「なるほど……しかし、もしどこかに隠れている帝国軍が『味方が危ない』と思って出てきたら……」
「それこそ好都合じゃないですか。出てきた帝国軍をあたし達が叩けば、ドーム内の人たちは、あたし達を味方だと分かってくれるでしょう」
「まあ、そうだけど、君は帝国軍との戦いにキラを関わらせたくないのでは?」
「はい。ですから、その時には、キラにはすぐに分身を消してもらいます」
 ミールは後部シートに振り返る。
「いいですね? キラ」
「わかっています。帝国軍に声をかけられたら、すぐに分身を消します」
 しかし、なにか見落としているような……
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