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第十七章

あいつ、意外といい奴だな。

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「博士。大丈夫ですか?」

 長津田艦長は心配そうにジジイに声をかけた後、僕に非難するような視線を向けてきた。

「北村ニ佐。なんて事を」

 まあ、知らない人から見たら、こっちのやりすぎに見えなくもないが……

「大丈夫です。このジジイ、このくらいではくたばりませんから」
「しかし……自分は司令部から、ルスラン・クラスノフ博士を丁重に扱うようにと……」
「大丈夫です。このジジイには、これで十分に丁重な扱いです」
「いや……しかし……」
「挨拶代わりにセクハラを働くようなジジイには、挨拶代わりに峰打ちや電撃をやって何も問題ありません」

 たぶん……

「そ……そういうものでしょうか?」
「そういうものです。それより……」

 僕は発令所内を見回した。

 いろんな物が散乱しているが、こっちの方が心配だ。

「発令所内の機器類は、無事でしょうか?」
「それは今、AIが点検していますが」

 程なくしてAIは、機器類に重大な異常が無いことを通知してきた。

 あの状況で無事だったとは、まるでギャグだな。

 と、思ったのだが、重大ではない(自動修復機能で一時間以内に修復可能な程度)損傷はあったらしい。

「隊長。もうお着きになられていたのですか」

 そう言って発令所に入ってきたのは古淵。

「すみません。お出迎えに行くつもりだったのですが、データ処理に手間取って……」
「かまわないよ、出迎えなんて。そんな事より、矢部が重傷を負っていたが、君は無事だったのかい?」
「ええ。というより、矢部さんの怪我は、僕を庇った結果なのですが……」
「なんだって?」
「僕の背後から迫ってくるS131を、矢部さんが蹴り飛ばしてくれたのです。そのせいで僕は無傷だったのですが……」

 あいつ、意外といい奴だな。

「矢部さんが言うには、ここで僕に負傷されると残された自分の負担が大きくなるので困るから、咄嗟に庇ったとのことですが……」 

 いや、それは照れ隠しだろう。下手したら死んでいたわけだから……

「大変だったようだね。いろいろな意味で」
「ええ。いろいろな意味で大変でした」

 古淵の視線は、床で突っ伏しているジジイに向いた。

「この人にも、いろいろと苦労しました」

 うんうん、分かるぞ。

 ジジイが起きたのはその時……

「ヒドい奴らじゃのう。か弱い年寄りに、暴力をふるいおって」

 おのれのどこがか弱いんじゃ!

 まあ、変態は置いといて……

「古淵君。さっそくだが、今までの経緯を頼む」
「ええ。ですが、その前にロボットスーツを脱着された方がよろしいかと」

 そうだった。

 一分後、ロボットスーツを着脱装置に収納すると、僕達は作戦会議室に案内された。

 僕を含めて機動服中隊の四人の他に、ミール(分身体)とミニPちゃん、それに艦長とジジイが室内に入りテーブルを囲むと、古淵は経緯を語り始める。

「我々がニャガン沖に到着したのは、一ヶ月ほど前の事になります。ニャガンは河川を利用した古い港町で、使われなくなった倉庫も数多く存在します。カルル・エステスのチームは、そんな空倉庫の一つを拠点に活動していました。それが四日ほど前に……」
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