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第八章

滅びた都市

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 町を出発してから、数時間。
 周囲は、すっかり砂漠になっていた。
 車の中はエアコンで快適な温度に保たれているが、外は灼熱地獄のようだ。
 先行させた飛行船タイプドローンからの情報によると、外気温は五十度もある。

「ご主人様。ドローンが廃墟上空に到着しました」
「分かった」

 強烈な日差しを避けられそうな岩陰に車を停止させた。

「それでは、映像を出します」

 Pちゃんのアンテナが、ピコピコと動く。
 車内にあるすべてのモニターに、ドローンからの映像が表示された。

「こ……これは……!?」

  助手席のミールが、驚愕の表情を浮かべる。

「ひどい」

 後部シートでも、キラが驚いていた。
 さすがにミクは無言だった。
 元々、原爆の恐ろしさを知っているからだろう。

 そこに表示されたのは、破壊され半ば砂に埋もれている都市。
 かつて、その場所に繁栄していた国の惨たらしい亡骸だ。
 この惑星には似つかわしくない高層ビル群(と言ってもせいぜい五~十階程度の建物)が、全て同一方向になぎ倒されていた。
 辛うじて立っているビルもあったが、近づいてみると屋上の方は無事だが、熱線を浴びたと思わる壁面はボロボロになっている。
 それだけなら、ただの廃墟だが、これをさらに惨たらしくしているのは、あちこちに放置されている夥しい数の人骨。
 熱線に焼かれて即死した人は、まだマシだっただろう。ここで死んだ人達のほとんどは、放射能に蝕まれて死んでいったに違いない。

「Pちゃん。残留放射能は?」
「現在調査中です。しばらく、お待ちください」

 ミールが僕にしがみ付いてきた。

「カイトさん。カクとは、こんな恐ろしい兵器なのですか?」
「ああ。僕の国では、この兵器で二つの都市が破壊され、何十万もの人が亡くなった」
「ようやく納得できました。シーバ城の地下を爆破しなければならなかった理由が……こんな恐ろしい武器が隠されていたのですね」
「ああ」

 モニターに目を戻すと、辛うじて残っていたビルの屋上が映っていた。

「ご主人様。残留放射能、まったく検出されません」
「まあ、三十年も経っているからな……」
「引き続き、調査を続行します」

  ふいに今まで黙っていたミクが口を開く。

「お兄ちゃん。この町って、原爆落とされたんだよね?」
「そうだよ」
「なんか、変じゃない」
「何が?」
「ほら。広島の原爆ドームってさ、上から熱線を浴びて鉄骨だけ残して消えちゃったじゃない。でも、この町のビルって、屋上があんまし壊れていないよ」
「あ!?」
 
 そうか! 普通、核攻撃と言ったら、都市上空で爆弾を爆発させ、上空から熱線を浴びせるわけだ。
 当然、屋上が真っ先に破壊される。
 ところが、ここのビルの屋上は、熱線を浴びた痕があまりない。
 
 という事は……

 核は地上付近で爆発した!?

 しかし、なんのために?

 それじゃあ威力は落ちまくり……いや、待てよ。

 この時点で帝国には、核を搭載できるミサイルも飛行機も無くて、仕方なく地上から運搬して攻撃したのでは?

「Pちゃん。ドローンの高度を上げてみて。都市全体を見たい」
「了解しました」
 
 画面の中で、地表が遠ざかっていく。
 次第に、都市の全貌が見えてきた。
 建物は、同心円状に倒壊していた。
 同心円から遠ざかるほど、建物の損傷は少なく中心に近いほど破壊されている。
 そして同心円の中心付近にはクレーターがあった。

 ここが爆心地だとすると、やはり核は地表で爆発したようだ。

 上空で爆発したのなら、こんなクレーターはできない。
 
 考えている間に、航空写真が出来上がっていた。

「Pちゃん。爆心地付近の放射能を測定しておいて」
「はい」

 そっちの方はPちゃんに任せる事にして、僕は航空写真を持ってミールとミクを伴い車を降りた。
 途端に砂漠の熱気が襲ってくる。
 トレーラーの上にいるダモンさんは大丈夫かな?
 ダモンさんだけ車に乗り切れなかったので、トレーラーの屋根の上に張ったテントに入っていてもらったけど……
 一応そっちにもエアコンはあるけど、ポータブルタイプだからなあ。
 この強力な熱気に対抗できるだろうか?

「なかなか、快適だったぞ」

 僕の心配をよそに、テントの中にいたダモンさんは涼しい顔をしていた。
 本人が言うには、元々砂漠の民なので暑いのは慣れっこなのだそうだ。
 
「これを見て下さい」
 
 僕は床の上に、航空写真を広げた。

「町は瓦礫と死体の山です。この中から地下の入り口を探すのは難しいと思います」
「ううむ……しかし、今でも出入りしている人がいるらしいからな……」

 ダモンさんは、しばらく写真を眺めながら考え込んだ。

「瓦礫の下は探すだけ無駄だろう。入り口があるとしたら……」

 ダモンさんは写真の一カ所を棒で指した。 

「倒れていない建物の中、あるいは……」

 今度は爆心地付近を棒で指した。

「運河の辺りだな」
「運河?」

 ダモンさんが指さした辺りは、砂があるだけで運河どころか池一つない。 
 いや、よく見ると、その辺りだけ周囲より低くなっているのが分かる。

「ここから、東へ数十キロ行ったところに大河が流れているのだ。そこから水を引いていたはずだ。カルカ国が滅びた後も、運河は残っていたはずなのだが……」
「三十年の間に枯れてしまったのですか?」
「いや、私が町で聞いた話では、運河は今でも残っていたはずだ」
「じゃあ、なぜ水が?」
「川が枯れてしまったのか? あるいは……」
 
 あるいは?

「最近になって、誰かが、上流の水門を閉めた」
「誰かって? 誰が……」
「帝国軍が地下への入り口を探すために、水門を閉めたのかも知れない」
「地下への入り口って、普段は水中にあるのですか?」
「詳しいことは知らないが、運河の水面下にも隠された出入口があると聞いている」
 
 潜水艦でも、出入りしていたのだろうか?

 端末のディスプレイに、ドローンの映像を出してみた。
 ドローンは、運河に降りていくところ。

 やはり、運河があったようだ。
 わずかだが、水たまりが残っている。
 川岸は、コンクリートで固められていた。
 このコンクリートの壁のどこかに、入り口があるのだろうか?
 
 それは程なくして見つかった。
 
 なぜ、分かったかって?

 帝国軍兵士たちが、爆薬をセットしている現場に遭遇したからだ。

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