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第八章

砂漠の戦い

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(三人称)

 灼熱の太陽に焼かれる砂漠。
 ここに生きる物の姿は見当たらない。
 だが、姿が見えないだけで、こんな逆境にも生きているものはいる。
 砂の下に身を潜め、ただじっと太陽が通り過ぎるのを待っている虫や小動物。数年に一度の雨を待ち続ける植物の種。

 そして……

 砂塵を巻き上げ、突き進む者がいた。
 その姿は、舞い上がる砂に隠れてはっきりとは確認できないが、人の姿をしているようだ。
 時折、砂漠に爆炎が生じる。
 その者は、ジグザグに動き回り爆炎を回避していた。

 上空には、多数の無人飛行機械ドローンが浮かんでいた。
 対角線上に四つのプロペラを配置したもっとも標準的なタイブ。
 爆炎はこれらドローンから放たれる小型ミサイルによるもの。

「イナーシャル コントロール マイナス2G」

 砂塵の中から、涼やかな女性の声が流れた。

 途端に、桜色にカラーリングされた人型物体が、砂塵を突き破り飛び出す。

 戦闘用ロボットスーツだ。

 反重力により、ロボットスーツは二十メートル毎秒二乗の加速で垂直上昇する。
 それに向けて、上空のドローン群が一斉に小型ミサイルを放った。
「チャフ」
 涼やかなコマンドが聞こえた直後、ロボットスーツの背嚢からレーダー波を乱反射させる微粒子が散布される。
 続いて、ロボットスーツは腰の短銃を抜いて周囲に火炎弾フレアをまき散らした。
 火炎弾フレアの放つ赤外線に騙され、ミサイルは本来の標的から外れていく。
 その間にロボットスーツはミサイル群とすれ違い、ドローン群と同じ高度に達した。
「イナーシャル コントロール2G 0G」
 ロボットスーツは空中に静止すると、背中のショットガンを抜きドローンに向かって構える。
「壊れなさい! 潰れなさい! ガラクタども!」
 涼やかな声とは裏腹な物騒なセリフを叫びつつ、ロボットスーツはAA12コンバットショットガンを乱射した。
 弾倉が空になるまで一薙ぎすると、ドローンのほとんどが落とされていた。
 残っているのは、わずか二機。
「ホバー!」
 ロボットスーツは、そのうちの一機に肉薄する。
「ブースト!」
 人工筋肉で増力されたパンチが、ドローンの薄い装甲を突き破る。
 機能を喪失したドローンは砂漠に落ちて行った。

 背後から飛んできた弾丸がロボットスーツに命中。

 磁性流体装甲リキッドアーマーがその貫通を阻んだ。

 弾丸を放ったのは、もう一機のドローン。

「ワイヤーガン セット  ファイヤー!」
 ロボットスーツの放ったワイヤー付弾丸がドローンに刺さる。
「ウインチスタート」
 ワイヤーが巻き上げられ、ドローンとロボットスーツが肉薄する。
「ブースト!」
 増力されたパンチが装甲を打ち砕く……はずだった。
 だが、増力されていない。
 かん高い金属音が鳴り響いたが、装甲にはヒビも入らない。
「く」
 ロボットスーツは、ドローンの上に這い上がってしがみ付いた。
「イナーシャル コントロール 2G」
 突然増加した重力によってドローンの高度は下がり始めた。
 何とか、高度を保とうと四つのプロペラをフル回転させるが、無駄な抵抗だった。
 ロボットスーツはナイフを抜いて、プロペラの一つに投げつける。
「イナーシャル コントロール 0G」
 コマンドを唱えるのと、プロペラが壊れるのと、ほぼ同時だった。
 ロボットスーツがドローンから離れると同時に、ドローンはバランスを崩して砂漠へ落ちて行った。
 やがて地面に激突して爆発を起こす。
 爆発によって巻き上げられた砂塵が治まったときには、ロボットスーツ以外に空中に浮いている物体なかった。


 その様子を、離れた所からモニター越しに眺めている者たちがいた。
 液晶画面に映るロボットスーツを見つめながら一人の若い男が呟く。
矢納やなさんが、やられたようだな」
 男の左隣で画面を見ていた妖艶な美女が薄ら笑いを浮かべる。
「くくく、奴は、我らの中でも最弱」
 美女の左隣にいた男が決然として言う。
「小娘ごときに倒されるなど、俺たちの面汚しよ」

「こら! お前ら」
 三人の背後から声をかけたのは、ガリガリに痩せ細ったカマキリのような顔の男。
「誰が最弱だ!? 誰が……」
 矢納とは、この男のようだ。
 先ほどのドローンをコントロールしていた男である。
 女は侮蔑するような眼差しを矢納に向ける。
「やあねえ、何をムキになっているのよ。このぐらいの遊び心も分からないなんて、器の小さい男ね」
「なんだと!」
 激高した矢納は拳を握りしめ女の方へ向かっていく。
 慌てて若い男が間に入った。
「だ……ダメですよ。矢納さん。暴力は」
「ウルセー! 古渕こぶち! ロボットスーツがなければ真面に喧嘩もできない腰抜けは黙っていろ」
 古淵を呼ばれた男は、矢納に払いのけられた。
 もう一人の男が間に入る。
「ダメですよ。矢納さん。成瀬なるせさんに手を出したら……」
「喧しいぞ、矢部やべ! リトル東京でセクハラしまくったお前が、女に手を出すなとよく言えたものだな」
「いや……女に手を出すなと言っているのではなくて……成瀬さんは……」
 矢部と呼ばれた男の制止に耳など貸さず、矢納は成瀬と呼ばれた女に殴りかかる。
「このクソアマ!」
 だが、そのパンチはあっさりと躱され、次の瞬間、矢納は砂漠に背中から叩きつけられていた。
 成瀬の一本背負いに投げ飛ばされたのだが、矢納はそれを認識すらできないでいたのだ。
「だからあ、成瀬さんは柔道の有段者クロオビだから、手を出しちゃダメだって」
 砂の上でピクピクと痙攣している矢納を見下ろしながら、矢部は言う。
「そういう事は……先に言え……」
「だから、言おうとしたのに、人の話ちゃんと聞かないから……それと、さっきの戦いで分かりましたが、あのロボットスーツそろそろ限界ですよ」
 矢納はガバッと起き上がった。
「本当か!?」
「最後のドローンを落とす時、増力ブースト機構システムが機能していなかったのですよ。それで慣性制御イナーシャルコントロールで、無理やり落としたのだと思います」
「しかし、そんな故障は、すぐに治るのじゃないのか?」
「普通は、そんな故障起きません。ロボットスーツは着脱装置の中で最高の状態にメンテナンスされているので。なのに、こんな故障が起きたという事は、交換部品が無いのに、ダマしダマし使っていたからだと思います」
「よし! ドローン三十機を使って、波状攻撃をかけたかいがあったぜ」
 そんな矢納に、成瀬は冷たい眼差しを向ける。
「そんな面倒なことしなくても、最初から総力戦仕掛ければよかったじゃないの?」
「そんな事をしたら、あの娘を殺してしまうだろ」
「なんで? あんた、あんな娘を生け捕りにしたいの? まさか惚れた?」
「ちげーよ! あの娘は、ロボットスーツの調整ができるんだ。あいつさえ、生け捕りにして洗脳すれば、俺もロボットスーツを使えるようになる」
「別にあんたがロボットスーツ使えなくても、こっちにはロボットスーツの使い手が二人もいるのよ」
「それじゃあ、ダメなんだよ」
「なんで?」
「直接、俺の手であいつを……北村海斗を、ぶっ殺してやりたいのだよ」
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