820 / 848
第十七章
バーチャル彼氏
しおりを挟む
罰って何を……
「うわ!」
いきなりミールは、僕に抱きついてくると唇を重ねた。
「これが罰です」
これは罰どころかご褒美……
横を向くと、芽依ちゃんがメガネをギラリと光らせていた。
人前でされるのは、確かに罰かもしれないな。
「ミールさん」
芽依ちゃんの口調には、やや怒気が感じられた。
「なんでしょうか? 芽依さん」
「今のキスは、私に見せつけているつもりですか?」
「ですから、罰を受けてもらいますと言いましたよね」
「なるほど。そうですか。ふふふふふふ」
ヤバイ! 芽依ちゃんが不気味な笑い声を……
「芽依ちゃん……落ち着いて」
「大丈夫です。今の私は、これ以上ないくらい落ち着いています」
「そ……そうなの?」
「芽依さん、負け惜しみを……」
「ミールさん。負け惜しみではありません。なぜなら、私はもう……」
芽依ちゃんは僕を指さす。
「この北村さんには、手を出しませんので」
え? それって……
「メイさん。カイトさんの事は、諦めたという事ですか?」
「諦めてなんかいませんよ。なぜなら、私はすでに北村さんと付き合っていますので」
は? いや、待て! 僕は芽依ちゃんと付き合ってなんかいないぞ!
「カイトさん」
うわわわ! ミールが睨んでいる!
「今、メイさんが言った事、どういう事ですか?」
「知らん! 僕はそんな事はしていない」
「本当ですかあ?」
「本当だって! 芽依ちゃん! 嘘はやめてくれ!」
「嘘ではありません。私は確かに北村さんと交際しております。ただし……」
芽依ちゃんは、タブレット端末を取り出して僕達の方へかざした。
その画面には、どこかの家のリビングルームが映っている。
そのソファでは、一人の男がブランデーグラスを片手にくつろいでいた。
後ろ姿なので顔は見えないが……
「私が付き合っているのは、こちらの北村さんです」
え? どういう事?
首を傾げている僕を余所に、芽依ちゃんが画面の男に話しかける。
「ちょっとこっちを向いて下さい」
『ん? どうしたんだい? 芽依ちゃん』
そう言って男が振り向いた。その顔は……う!
「芽依ちゃん……これは……?」
「北村さんです」
男の顔は、まさに僕だった。
「まあ、今のところは仮想彼氏ですけど」
虫除けプログラムからミールを除外する代償に、芽依ちゃんに僕のデータを取らせたけど、こんな事に使っていたのか。
芽依ちゃんは、ミールの方を向いてニヤって笑みを浮かべた。
「ですからミールさん。私は負け惜しみなど言っておりません」
「で……でも、その仮想カイトさんではキスなんかできませんよね?」
「できますよ」
「画面に、唇を当てるだけでしょ?」
「いいえ。BMIを使って私が仮想空間に入ればキスだってそれ以上の事だってできます」
「で……でもしょせんは仮想だし……」
「今は仮想ですが、母船の許可が出たら、このデータを送ってプリンターで出力して地上へ送ってもらいます。そうしたら、私達は仮想ではなく本物の恋人となるのです」
「そ……そうですか。まあ、そのカイトさんはこのカイトさんとは別人ですし、浮気ではないですから……」
「ちょっと待ってくれ。芽依ちゃん。そういう目的で人間をプリンターで出力する事は禁止じゃなかったのか?」
「確かに今までは禁止されていました。でも禁止されていた本当の理由がレイラ・ソコロフさんによって明かされたので、限定的に許可される事になりそうです」
「なりそう? という事はまだって事?」
「はい。でも、明後日のリトル東京市議会でほぼ決定する……は!」
不意に芽依ちゃんは押し黙った。
「いけない。このことはまだ口外しないように、お父様から言われていたのでした。皆さんご内密に」
芽依ちゃん。意外と口が軽いな……
「分かった、黙っているよ。みんなもいいね」
と言って見回したが、橋本晶もミクもシートの上で眠っている。
二人ともイビキもかいている程の爆睡状態。
寝たふりではなさそうだ。
ミールとPちゃんなら口が固いから大丈夫だろう。
キャビン内に、警報が鳴り響いたのはその時だった。
「うわ!」
いきなりミールは、僕に抱きついてくると唇を重ねた。
「これが罰です」
これは罰どころかご褒美……
横を向くと、芽依ちゃんがメガネをギラリと光らせていた。
人前でされるのは、確かに罰かもしれないな。
「ミールさん」
芽依ちゃんの口調には、やや怒気が感じられた。
「なんでしょうか? 芽依さん」
「今のキスは、私に見せつけているつもりですか?」
「ですから、罰を受けてもらいますと言いましたよね」
「なるほど。そうですか。ふふふふふふ」
ヤバイ! 芽依ちゃんが不気味な笑い声を……
「芽依ちゃん……落ち着いて」
「大丈夫です。今の私は、これ以上ないくらい落ち着いています」
「そ……そうなの?」
「芽依さん、負け惜しみを……」
「ミールさん。負け惜しみではありません。なぜなら、私はもう……」
芽依ちゃんは僕を指さす。
「この北村さんには、手を出しませんので」
え? それって……
「メイさん。カイトさんの事は、諦めたという事ですか?」
「諦めてなんかいませんよ。なぜなら、私はすでに北村さんと付き合っていますので」
は? いや、待て! 僕は芽依ちゃんと付き合ってなんかいないぞ!
「カイトさん」
うわわわ! ミールが睨んでいる!
「今、メイさんが言った事、どういう事ですか?」
「知らん! 僕はそんな事はしていない」
「本当ですかあ?」
「本当だって! 芽依ちゃん! 嘘はやめてくれ!」
「嘘ではありません。私は確かに北村さんと交際しております。ただし……」
芽依ちゃんは、タブレット端末を取り出して僕達の方へかざした。
その画面には、どこかの家のリビングルームが映っている。
そのソファでは、一人の男がブランデーグラスを片手にくつろいでいた。
後ろ姿なので顔は見えないが……
「私が付き合っているのは、こちらの北村さんです」
え? どういう事?
首を傾げている僕を余所に、芽依ちゃんが画面の男に話しかける。
「ちょっとこっちを向いて下さい」
『ん? どうしたんだい? 芽依ちゃん』
そう言って男が振り向いた。その顔は……う!
「芽依ちゃん……これは……?」
「北村さんです」
男の顔は、まさに僕だった。
「まあ、今のところは仮想彼氏ですけど」
虫除けプログラムからミールを除外する代償に、芽依ちゃんに僕のデータを取らせたけど、こんな事に使っていたのか。
芽依ちゃんは、ミールの方を向いてニヤって笑みを浮かべた。
「ですからミールさん。私は負け惜しみなど言っておりません」
「で……でも、その仮想カイトさんではキスなんかできませんよね?」
「できますよ」
「画面に、唇を当てるだけでしょ?」
「いいえ。BMIを使って私が仮想空間に入ればキスだってそれ以上の事だってできます」
「で……でもしょせんは仮想だし……」
「今は仮想ですが、母船の許可が出たら、このデータを送ってプリンターで出力して地上へ送ってもらいます。そうしたら、私達は仮想ではなく本物の恋人となるのです」
「そ……そうですか。まあ、そのカイトさんはこのカイトさんとは別人ですし、浮気ではないですから……」
「ちょっと待ってくれ。芽依ちゃん。そういう目的で人間をプリンターで出力する事は禁止じゃなかったのか?」
「確かに今までは禁止されていました。でも禁止されていた本当の理由がレイラ・ソコロフさんによって明かされたので、限定的に許可される事になりそうです」
「なりそう? という事はまだって事?」
「はい。でも、明後日のリトル東京市議会でほぼ決定する……は!」
不意に芽依ちゃんは押し黙った。
「いけない。このことはまだ口外しないように、お父様から言われていたのでした。皆さんご内密に」
芽依ちゃん。意外と口が軽いな……
「分かった、黙っているよ。みんなもいいね」
と言って見回したが、橋本晶もミクもシートの上で眠っている。
二人ともイビキもかいている程の爆睡状態。
寝たふりではなさそうだ。
ミールとPちゃんなら口が固いから大丈夫だろう。
キャビン内に、警報が鳴り響いたのはその時だった。
0
お気に入りに追加
139
あなたにおすすめの小説

冤罪だと誰も信じてくれず追い詰められた僕、濡れ衣が明るみになったけど今更仲直りなんてできない
一本橋
恋愛
女子の体操着を盗んだという身に覚えのない罪を着せられ、僕は皆の信頼を失った。
クラスメイトからは日常的に罵倒を浴びせられ、向けられるのは蔑みの目。
さらに、信じていた初恋だった女友達でさえ僕を見限った。
両親からは拒絶され、姉からもいないものと扱われる日々。
……だが、転機は訪れる。冤罪だった事が明かになったのだ。
それを機に、今まで僕を蔑ろに扱った人達から次々と謝罪の声が。
皆は僕と関係を戻したいみたいだけど、今更仲直りなんてできない。
※小説家になろう、カクヨムと同時に投稿しています。
タイムワープ艦隊2024
山本 双六
SF
太平洋を横断する日本機動部隊。この日本があるのは、大東亜(太平洋)戦争に勝利したことである。そんな日本が勝った理由は、ある機動部隊が来たことであるらしい。人呼んで「神の機動部隊」である。
この世界では、太平洋戦争で日本が勝った世界戦で書いています。(毎回、太平洋戦争系が日本ばかり勝っ世界線ですいません)逆ファイナルカウントダウンと考えてもらえればいいかと思います。只今、続編も同時並行で書いています!お楽しみに!

異世界でネットショッピングをして商いをしました。
ss
ファンタジー
異世界に飛ばされた主人公、アキラが使えたスキルは「ネットショッピング」だった。
それは、地球の物を買えるというスキルだった。アキラはこれを駆使して異世界で荒稼ぎする。
これはそんなアキラの爽快で時には苦難ありの異世界生活の一端である。(ハーレムはないよ)
よければお気に入り、感想よろしくお願いしますm(_ _)m
hotランキング23位(18日11時時点)
本当にありがとうございます
誤字指摘などありがとうございます!スキルの「作者の権限」で直していこうと思いますが、発動条件がたくさんあるので直すのに時間がかかりますので気長にお待ちください。

平和国家異世界へ―日本の受難―
あずき
ファンタジー
平和国家、日本。 東アジアの島国であるこの国は、厳しさを増す安全保障環境に対応するため、 政府は戦闘機搭載型護衛艦、DDV-712「しなの」を開発した。 「しなの」は第八護衛隊群に配属され、領海の警備を行なうことに。
それから数年後の2035年、8月。
日本は異世界に転移した。
帝国主義のはびこるこの世界で、日本は生き残れるのか。
総勢1200億人を抱えた国家サバイバルが今、始まる――
何番煎じ蚊もわからない日本転移小説です。
質問などは感想に書いていただけると、返信します。
毎日投稿します。
―異質― 邂逅の編/日本国の〝隊〟、その異世界を巡る叙事詩――《第一部完結》
EPIC
SF
日本国の混成1個中隊、そして超常的存在。異世界へ――
とある別の歴史を歩んだ世界。
その世界の日本には、日本軍とも自衛隊とも似て非なる、〝日本国隊〟という名の有事組織が存在した。
第二次世界大戦以降も幾度もの戦いを潜り抜けて来た〝日本国隊〟は、異質な未知の世界を新たな戦いの場とする事になる――
日本国陸隊の有事官、――〝制刻 自由(ぜいこく じゆう)〟。
歪で醜く禍々しい容姿と、常識外れの身体能力、そしてスタンスを持つ、隊員として非常に異質な存在である彼。
そんな隊員である制刻は、陸隊の行う大規模な演習に参加中であったが、その最中に取った一時的な休眠の途中で、不可解な空間へと導かれる。そして、そこで会った作業服と白衣姿の謎の人物からこう告げられた。
「異なる世界から我々の世界に、殴り込みを掛けようとしている奴らがいる。先手を打ちその世界に踏み込み、この企みを潰せ」――と。
そして再び目を覚ました時、制刻は――そして制刻の所属する普通科小隊を始めとする、各職種混成の約一個中隊は。剣と魔法が力の象徴とされ、モンスターが跋扈する未知の世界へと降り立っていた――。
制刻を始めとする異質な隊員等。
そして問題部隊、〝第54普通科連隊〟を始めとする各部隊。
元居た世界の常識が通用しないその異世界を、それを越える常識外れな存在が、掻き乱し始める。
〇案内と注意
1) このお話には、オリジナル及び架空設定を多数含みます。
2) 部隊規模(始めは中隊規模)での転移物となります。
3) チャプター3くらいまでは単一事件をいくつか描き、チャプター4くらいから単一事件を混ぜつつ、一つの大筋にだんだん乗っていく流れになっています。
4) 主人公を始めとする一部隊員キャラクターが、超常的な行動を取ります。ぶっ飛んでます。かなりなんでも有りです。
5) 小説家になろう、カクヨムにてすでに投稿済のものになりますが、そちらより一話当たり分量を多くして話数を減らす整理のし直しを行っています。

やさしい異世界転移
みなと
ファンタジー
妹の誕生日ケーキを買いに行く最中 謎の声に導かれて異世界へと転移してしまった主人公
神洞 優斗。
彼が転移した世界は魔法が発達しているファンタジーの世界だった!
元の世界に帰るまでの間優斗は学園に通い平穏に過ごす事にしたのだが……?
この時の優斗は気付いていなかったのだ。
己の……いや"ユウト"としての逃れられない定めがすぐ近くまで来ている事に。
この物語は 優斗がこの世界で仲間と出会い、共に様々な困難に立ち向かい希望 絶望 別れ 後悔しながらも進み続けて、英雄になって誰かに希望を託すストーリーである。
日本が日露戦争後大陸利権を売却していたら? ~ノートが繋ぐ歴史改変~
うみ
SF
ロシアと戦争がはじまる。
突如、現代日本の少年のノートにこのような落書きが成された。少年はいたずらと思いつつ、ノートに冗談で返信を書き込むと、また相手から書き込みが成される。
なんとノートに書き込んだ人物は日露戦争中だということだったのだ!
ずっと冗談と思っている少年は、日露戦争の経緯を書き込んだ結果、相手から今後の日本について助言を求められる。こうして少年による思わぬ歴史改変がはじまったのだった。
※地名、話し方など全て現代基準で記載しています。違和感があることと思いますが、なるべく分かりやすくをテーマとしているため、ご了承ください。
※この小説はなろうとカクヨムへも投稿しております。
最強勇者の最弱物語
暗黒魔界大帝国王リク@UNKnown_P
ファンタジー
『最強』それは一言では説明できない。
魔法だけでできているはずだったこの世界で主人公のいる世界と対立している国があった。しかし、魔王が現れるという噂が流れ、同盟を組むこととなった。唯一魔王を倒すことができる紋章を持って生まれ落ちた主人公は最強の剣を手に入れるが...。
主人公がどんどん弱くなっていくという逆展開ストーリーのファンタジーコメディがここに爆誕!!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる