上 下
818 / 848
第十七章

乙女の恥じらい?

しおりを挟む
 和装の美女は、僕達に向かってペコリと頭を下げてから微笑みかけた。

「皆様、当飛行艇へようこそ。私はこの飛行艇の人工知能AIアスカです。皆様の目の前にいるのは、私の人型端末です。以後、お見知りおきを」

 なるほど。Pちゃんと同じくアンドロイドという事か。

 だからミクの式神も、人とは認識しなかったのだな。

「当機はヒトゴマルマルに離水します。何かご質問はございますか?」

 ちらっと腕時計に視線をやった。まだ三十分はあるな。

 僕はアスカの方に視線を戻す。

「この飛行艇は、すべて君が操縦するのかい?」
「はい。私に行き先、飛行ルート、飛行目的などを指示していただければ、私が最適のルートで飛行を行います。ただ、私に万が一の事があれば、手動で操縦することもできます。皆さんの中で、飛行艇を操縦できる方はいますか?」
「僕には無理だ。芽依ちゃんは?」

 芽依ちゃんはブンブンと首を横にふる。

「自動車なら運転できますが、飛行艇はちょっと……」
「なるほど」
「あたしも無理」

 ミクには最初から期待していない。

「橋本君は……あれ?」

 キャビン内に、橋本晶の姿はなかった。

 そういえば、さっきから会話に参加していないと思ったら……

「芽依ちゃん。橋本君は?」
「さあ? 乗り込む時は、いたのですが……」

 どこへ行ったのだ? 
 
 アスカの方を振り向く。

「アスカさん。仲間が一人いないのだが、知らないかい?」
「その方でしたら、キャビン内に一度入った後、慌てて機外に出て行きましたが」
「慌てて出て行った?」
「はい。あちらの壁を見た途端急に」

 アスカの指さした壁を見て納得がいった。

 そこには『機内禁煙(喫煙は機外でお願いします)』と書かれたプレートが貼ってあったのだ。

 忘れていたが、彼女は喫煙者だったな。

「そういえば橋本さんって、いつもヘリコプターに乗り込む時は、出発ギリギリに乗り込んできましたが……」

 ギリギリまで煙草を吸っていたのか。

「しかし、喫煙の事はカミングアウトしているのだから、今更僕達に隠れて吸わなくてもいいんじゃないかな?」
「それでもやはり、喫煙しているところを私達に見られたくないのではないかと……」
「なんで?」
「そこは、乙女の恥じらいではないかと……」
「そ……そうなのか?」

 そういうのも、乙女の恥じらいというのか?

「とういう事は、喫煙には気が付かないふりをしていてあげた方がいいのかな?」 
「そうですね。その方がいいです。橋本さんは前に、もし北村さんから『臭いから余所で吸え!』なんて言われたら、立ち直れなくなると言っていましたから」
「僕がそんな事、言うわけないだろう」
「カルル・エステスさんには言ったそうです」

 それをやったのは前の僕ファーストであって……いや、他人から見たら前の僕ファースト今の僕セカンドも見かけも基本的な性格も同じ。

 頭では別人だと理解できていても、人の気持ちってそう簡単に割り切れないのだろうな。

 橋本晶がキャビンに戻ってきたのは、出発の十分前になってからだった。

「すみません。急に気分が悪くなって、外の空気を吸いに行っていました。もう大丈夫です」

 本当は煙を吸いに行ったという事は分かっているが、ここは外の空気を吸いに行っていたという事にしておこう。

「そ……そうか。気分が悪い時はいつでも言ってくれ」

 それから、ほどなくして飛行艇は飛び立った。

 ニャガン沖到着は八時間後となるらしい。

 それまで、僕達は交代で仮眠を取ることになった。

 それにしても慌ただしい一日だったな。

 朝起きた時は、そうでもなかったのだが……

 本来なら今日は、自宅に居ながら仮想空間バーチャルスペースで監視者制度に付いての研修を受けて一日を終えるはずだったのに。

 正直、この監視者制度については、リトル東京に着くまで半信半疑だった。

 リトル東京に到着したその日、森田指令の口からそれが事実だと伝えられるまでは……

 その時は時間がなかったので、制度の詳細については後ほど研修を行うという事になっていた。

 だけど、そのまま後回しにされ今日になってやっと研修があったわけだ。

 まあ、今回の研修で監視者制度についてだいたいの事は分かったが、まだ知識は中途半端なまま。

 続きはこの任務が終わってからということになるだろう。
 
「北村さん」

 芽依ちゃんに声をかけられたのは、リトル東京を発ってから二時間ほど後のこと。

「当直交代の時間です。どうぞお休みになって下さい」
「ああ、ありがとう。それじゃ僕は休ませてもらうよ」
「睡眠補助薬使いますか?」
「ああ。大丈夫だよ。カミラさんに調合してもらった薬があるから」
「そうでしたか」

 薬を取り出そうとして鞄を開くと、そこにそれは居た。

 え? なんで……?
しおりを挟む
感想 8

あなたにおすすめの小説

冤罪だと誰も信じてくれず追い詰められた僕、濡れ衣が明るみになったけど今更仲直りなんてできない

一本橋
恋愛
女子の体操着を盗んだという身に覚えのない罪を着せられ、僕は皆の信頼を失った。 クラスメイトからは日常的に罵倒を浴びせられ、向けられるのは蔑みの目。 さらに、信じていた初恋だった女友達でさえ僕を見限った。 両親からは拒絶され、姉からもいないものと扱われる日々。 ……だが、転機は訪れる。冤罪だった事が明かになったのだ。 それを機に、今まで僕を蔑ろに扱った人達から次々と謝罪の声が。 皆は僕と関係を戻したいみたいだけど、今更仲直りなんてできない。 ※小説家になろう、カクヨムと同時に投稿しています。

天日ノ艦隊 〜こちら大和型戦艦、異世界にて出陣ス!〜 

八風ゆず
ファンタジー
時は1950年。 第一次世界大戦にあった「もう一つの可能性」が実現した世界線。1950年4月7日、合同演習をする為航行中、大和型戦艦三隻が同時に左舷に転覆した。 大和型三隻は沈没した……、と思われた。 だが、目覚めた先には我々が居た世界とは違った。 大海原が広がり、見たことのない数多の国が支配者する世界だった。 祖国へ帰るため、大海原が広がる異世界を旅する大和型三隻と別世界の艦船達との異世界戦記。 ※異世界転移が何番煎じか分からないですが、書きたいのでかいています! 面白いと思ったらブックマーク、感想、評価お願いします!!※ ※戦艦など知らない人も楽しめるため、解説などを出し努力しております。是非是非「知識がなく、楽しんで読めるかな……」っと思ってる方も読んでみてください!※

マスターブルー~完全版~

しんたろう
SF
この作品はエースコンバットシリーズをベースに作った作品です。 お試し小説投稿で人気のあった作品のリメイク版です。 ウスティオ内戦を時代背景に弟はジャーナリストと教育者として、 兄は軍人として、政府軍で父を墜とした黄色の13を追う兄。そしてウスティオ の内戦を機にウスティオの独立とベルカ侵攻軍とジャーナリストとして、 反政府軍として戦う事を誓う弟。内戦により国境を分けた兄弟の生き方と 空の戦闘機乗り達の人間模様を描く。

銀河戦国記ノヴァルナ 第3章:銀河布武

潮崎 晶
SF
最大の宿敵であるスルガルム/トーミ宙域星大名、ギィゲルト・ジヴ=イマーガラを討ち果たしたノヴァルナ・ダン=ウォーダは、いよいよシグシーマ銀河系の覇権獲得へ動き出す。だがその先に待ち受けるは数々の敵対勢力。果たしてノヴァルナの運命は?

ユーヤのお気楽異世界転移

暇野無学
ファンタジー
 死因は神様の当て逃げです!  地震による事故で死亡したのだが、原因は神社の扁額が当たっての即死。問題の神様は気まずさから俺を輪廻の輪から外し、異世界の神に俺をゆだねた。異世界への移住を渋る俺に、神様特典付きで異世界へ招待されたが・・・ この神様が超適当な健忘症タイプときた。

平和国家異世界へ―日本の受難―

あずき
ファンタジー
平和国家、日本。 東アジアの島国であるこの国は、厳しさを増す安全保障環境に対応するため、 政府は戦闘機搭載型護衛艦、DDV-712「しなの」を開発した。 「しなの」は第八護衛隊群に配属され、領海の警備を行なうことに。 それから数年後の2035年、8月。 日本は異世界に転移した。 帝国主義のはびこるこの世界で、日本は生き残れるのか。 総勢1200億人を抱えた国家サバイバルが今、始まる―― 何番煎じ蚊もわからない日本転移小説です。 質問などは感想に書いていただけると、返信します。 毎日投稿します。

やさしい異世界転移

みなと
ファンタジー
妹の誕生日ケーキを買いに行く最中 謎の声に導かれて異世界へと転移してしまった主人公 神洞 優斗。 彼が転移した世界は魔法が発達しているファンタジーの世界だった! 元の世界に帰るまでの間優斗は学園に通い平穏に過ごす事にしたのだが……? この時の優斗は気付いていなかったのだ。 己の……いや"ユウト"としての逃れられない定めがすぐ近くまで来ている事に。 この物語は 優斗がこの世界で仲間と出会い、共に様々な困難に立ち向かい希望 絶望 別れ 後悔しながらも進み続けて、英雄になって誰かに希望を託すストーリーである。

―異質― 邂逅の編/日本国の〝隊〟、その異世界を巡る叙事詩――《第一部完結》

EPIC
SF
日本国の混成1個中隊、そして超常的存在。異世界へ―― とある別の歴史を歩んだ世界。 その世界の日本には、日本軍とも自衛隊とも似て非なる、〝日本国隊〟という名の有事組織が存在した。 第二次世界大戦以降も幾度もの戦いを潜り抜けて来た〝日本国隊〟は、異質な未知の世界を新たな戦いの場とする事になる―― 日本国陸隊の有事官、――〝制刻 自由(ぜいこく じゆう)〟。 歪で醜く禍々しい容姿と、常識外れの身体能力、そしてスタンスを持つ、隊員として非常に異質な存在である彼。 そんな隊員である制刻は、陸隊の行う大規模な演習に参加中であったが、その最中に取った一時的な休眠の途中で、不可解な空間へと導かれる。そして、そこで会った作業服と白衣姿の謎の人物からこう告げられた。 「異なる世界から我々の世界に、殴り込みを掛けようとしている奴らがいる。先手を打ちその世界に踏み込み、この企みを潰せ」――と。 そして再び目を覚ました時、制刻は――そして制刻の所属する普通科小隊を始めとする、各職種混成の約一個中隊は。剣と魔法が力の象徴とされ、モンスターが跋扈する未知の世界へと降り立っていた――。 制刻を始めとする異質な隊員等。 そして問題部隊、〝第54普通科連隊〟を始めとする各部隊。 元居た世界の常識が通用しないその異世界を、それを越える常識外れな存在が、掻き乱し始める。 〇案内と注意 1) このお話には、オリジナル及び架空設定を多数含みます。 2) 部隊規模(始めは中隊規模)での転移物となります。 3) チャプター3くらいまでは単一事件をいくつか描き、チャプター4くらいから単一事件を混ぜつつ、一つの大筋にだんだん乗っていく流れになっています。 4) 主人公を始めとする一部隊員キャラクターが、超常的な行動を取ります。ぶっ飛んでます。かなりなんでも有りです。 5) 小説家になろう、カクヨムにてすでに投稿済のものになりますが、そちらより一話当たり分量を多くして話数を減らす整理のし直しを行っています。

処理中です...