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第十七章
乙女の恥じらい?
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和装の美女は、僕達に向かってペコリと頭を下げてから微笑みかけた。
「皆様、当飛行艇へようこそ。私はこの飛行艇の人工知能アスカです。皆様の目の前にいるのは、私の人型端末です。以後、お見知りおきを」
なるほど。Pちゃんと同じくアンドロイドという事か。
だからミクの式神も、人とは認識しなかったのだな。
「当機はヒトゴマルマルに離水します。何かご質問はございますか?」
ちらっと腕時計に視線をやった。まだ三十分はあるな。
僕はアスカの方に視線を戻す。
「この飛行艇は、すべて君が操縦するのかい?」
「はい。私に行き先、飛行ルート、飛行目的などを指示していただければ、私が最適のルートで飛行を行います。ただ、私に万が一の事があれば、手動で操縦することもできます。皆さんの中で、飛行艇を操縦できる方はいますか?」
「僕には無理だ。芽依ちゃんは?」
芽依ちゃんはブンブンと首を横にふる。
「自動車なら運転できますが、飛行艇はちょっと……」
「なるほど」
「あたしも無理」
ミクには最初から期待していない。
「橋本君は……あれ?」
キャビン内に、橋本晶の姿はなかった。
そういえば、さっきから会話に参加していないと思ったら……
「芽依ちゃん。橋本君は?」
「さあ? 乗り込む時は、いたのですが……」
どこへ行ったのだ?
アスカの方を振り向く。
「アスカさん。仲間が一人いないのだが、知らないかい?」
「その方でしたら、キャビン内に一度入った後、慌てて機外に出て行きましたが」
「慌てて出て行った?」
「はい。あちらの壁を見た途端急に」
アスカの指さした壁を見て納得がいった。
そこには『機内禁煙(喫煙は機外でお願いします)』と書かれたプレートが貼ってあったのだ。
忘れていたが、彼女は喫煙者だったな。
「そういえば橋本さんって、いつもヘリコプターに乗り込む時は、出発ギリギリに乗り込んできましたが……」
ギリギリまで煙草を吸っていたのか。
「しかし、喫煙の事はカミングアウトしているのだから、今更僕達に隠れて吸わなくてもいいんじゃないかな?」
「それでもやはり、喫煙しているところを私達に見られたくないのではないかと……」
「なんで?」
「そこは、乙女の恥じらいではないかと……」
「そ……そうなのか?」
そういうのも、乙女の恥じらいというのか?
「とういう事は、喫煙には気が付かないふりをしていてあげた方がいいのかな?」
「そうですね。その方がいいです。橋本さんは前に、もし北村さんから『臭いから余所で吸え!』なんて言われたら、立ち直れなくなると言っていましたから」
「僕がそんな事、言うわけないだろう」
「カルル・エステスさんには言ったそうです」
それをやったのは前の僕であって……いや、他人から見たら前の僕も今の僕も見かけも基本的な性格も同じ。
頭では別人だと理解できていても、人の気持ちってそう簡単に割り切れないのだろうな。
橋本晶がキャビンに戻ってきたのは、出発の十分前になってからだった。
「すみません。急に気分が悪くなって、外の空気を吸いに行っていました。もう大丈夫です」
本当は煙を吸いに行ったという事は分かっているが、ここは外の空気を吸いに行っていたという事にしておこう。
「そ……そうか。気分が悪い時はいつでも言ってくれ」
それから、ほどなくして飛行艇は飛び立った。
ニャガン沖到着は八時間後となるらしい。
それまで、僕達は交代で仮眠を取ることになった。
それにしても慌ただしい一日だったな。
朝起きた時は、そうでもなかったのだが……
本来なら今日は、自宅に居ながら仮想空間で監視者制度に付いての研修を受けて一日を終えるはずだったのに。
正直、この監視者制度については、リトル東京に着くまで半信半疑だった。
リトル東京に到着したその日、森田指令の口からそれが事実だと伝えられるまでは……
その時は時間がなかったので、制度の詳細については後ほど研修を行うという事になっていた。
だけど、そのまま後回しにされ今日になってやっと研修があったわけだ。
まあ、今回の研修で監視者制度についてだいたいの事は分かったが、まだ知識は中途半端なまま。
続きはこの任務が終わってからということになるだろう。
「北村さん」
芽依ちゃんに声をかけられたのは、リトル東京を発ってから二時間ほど後のこと。
「当直交代の時間です。どうぞお休みになって下さい」
「ああ、ありがとう。それじゃ僕は休ませてもらうよ」
「睡眠補助薬使いますか?」
「ああ。大丈夫だよ。カミラさんに調合してもらった薬があるから」
「そうでしたか」
薬を取り出そうとして鞄を開くと、そこにそれは居た。
え? なんで……?
「皆様、当飛行艇へようこそ。私はこの飛行艇の人工知能アスカです。皆様の目の前にいるのは、私の人型端末です。以後、お見知りおきを」
なるほど。Pちゃんと同じくアンドロイドという事か。
だからミクの式神も、人とは認識しなかったのだな。
「当機はヒトゴマルマルに離水します。何かご質問はございますか?」
ちらっと腕時計に視線をやった。まだ三十分はあるな。
僕はアスカの方に視線を戻す。
「この飛行艇は、すべて君が操縦するのかい?」
「はい。私に行き先、飛行ルート、飛行目的などを指示していただければ、私が最適のルートで飛行を行います。ただ、私に万が一の事があれば、手動で操縦することもできます。皆さんの中で、飛行艇を操縦できる方はいますか?」
「僕には無理だ。芽依ちゃんは?」
芽依ちゃんはブンブンと首を横にふる。
「自動車なら運転できますが、飛行艇はちょっと……」
「なるほど」
「あたしも無理」
ミクには最初から期待していない。
「橋本君は……あれ?」
キャビン内に、橋本晶の姿はなかった。
そういえば、さっきから会話に参加していないと思ったら……
「芽依ちゃん。橋本君は?」
「さあ? 乗り込む時は、いたのですが……」
どこへ行ったのだ?
アスカの方を振り向く。
「アスカさん。仲間が一人いないのだが、知らないかい?」
「その方でしたら、キャビン内に一度入った後、慌てて機外に出て行きましたが」
「慌てて出て行った?」
「はい。あちらの壁を見た途端急に」
アスカの指さした壁を見て納得がいった。
そこには『機内禁煙(喫煙は機外でお願いします)』と書かれたプレートが貼ってあったのだ。
忘れていたが、彼女は喫煙者だったな。
「そういえば橋本さんって、いつもヘリコプターに乗り込む時は、出発ギリギリに乗り込んできましたが……」
ギリギリまで煙草を吸っていたのか。
「しかし、喫煙の事はカミングアウトしているのだから、今更僕達に隠れて吸わなくてもいいんじゃないかな?」
「それでもやはり、喫煙しているところを私達に見られたくないのではないかと……」
「なんで?」
「そこは、乙女の恥じらいではないかと……」
「そ……そうなのか?」
そういうのも、乙女の恥じらいというのか?
「とういう事は、喫煙には気が付かないふりをしていてあげた方がいいのかな?」
「そうですね。その方がいいです。橋本さんは前に、もし北村さんから『臭いから余所で吸え!』なんて言われたら、立ち直れなくなると言っていましたから」
「僕がそんな事、言うわけないだろう」
「カルル・エステスさんには言ったそうです」
それをやったのは前の僕であって……いや、他人から見たら前の僕も今の僕も見かけも基本的な性格も同じ。
頭では別人だと理解できていても、人の気持ちってそう簡単に割り切れないのだろうな。
橋本晶がキャビンに戻ってきたのは、出発の十分前になってからだった。
「すみません。急に気分が悪くなって、外の空気を吸いに行っていました。もう大丈夫です」
本当は煙を吸いに行ったという事は分かっているが、ここは外の空気を吸いに行っていたという事にしておこう。
「そ……そうか。気分が悪い時はいつでも言ってくれ」
それから、ほどなくして飛行艇は飛び立った。
ニャガン沖到着は八時間後となるらしい。
それまで、僕達は交代で仮眠を取ることになった。
それにしても慌ただしい一日だったな。
朝起きた時は、そうでもなかったのだが……
本来なら今日は、自宅に居ながら仮想空間で監視者制度に付いての研修を受けて一日を終えるはずだったのに。
正直、この監視者制度については、リトル東京に着くまで半信半疑だった。
リトル東京に到着したその日、森田指令の口からそれが事実だと伝えられるまでは……
その時は時間がなかったので、制度の詳細については後ほど研修を行うという事になっていた。
だけど、そのまま後回しにされ今日になってやっと研修があったわけだ。
まあ、今回の研修で監視者制度についてだいたいの事は分かったが、まだ知識は中途半端なまま。
続きはこの任務が終わってからということになるだろう。
「北村さん」
芽依ちゃんに声をかけられたのは、リトル東京を発ってから二時間ほど後のこと。
「当直交代の時間です。どうぞお休みになって下さい」
「ああ、ありがとう。それじゃ僕は休ませてもらうよ」
「睡眠補助薬使いますか?」
「ああ。大丈夫だよ。カミラさんに調合してもらった薬があるから」
「そうでしたか」
薬を取り出そうとして鞄を開くと、そこにそれは居た。
え? なんで……?
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