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第十七章

試作機は量産機よりも優秀?

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 カルル・エステス奪還の命令を受けた僕と芽依ちゃんは、再びリムジンに乗り込むと港へと向かった。

 そこで待機している飛行艇 《あすか》に乗り込み、ニャガン沖へ向かう事になっている。

 九十九式機動服ロボットスーツは、すでに飛行艇に積み込まれているらしい。

「それにしても……」

 芽依ちゃんが隣席から話しかけてきた。

「カルル・エステスさんは酔いつぶれてから、すぐに任務に行ってしまったのですよね?」
「そうだね。それが何か?」
「それじゃああれは、カルル・エステスさんではなかったという事になりますよね」
「あれ? あれって?」
「ですから、私と北村さんのオリジナル体が夫婦であった事をミーチャ君に教えたのは……」

 は! そうだった。その事をすっかり忘れていた。

 リムジンが橋本晶のアパート前で止まったのはその時……

「芽依ちゃん。その話は後にしよう」
「そうですね」 

 芽依ちゃんがそう言った時、リムジンの扉が開く。

「な……なんですか!? この車は!」

 リムジンに乗り込んできたのは、日本刀を手にした和服姿の美女……橋本晶だった。

「橋本君。この車は偽装……だそうだよ。怪しまれずに町中を移動するための……」
「いや……隊長。返って怪しいと思いますが……」
「僕もそう思う」

 たぶん、指令以外はみんなそう思っているだろうな。

「ところで隊長。私服で来るようにと言われてこの格好で来たのですが、よろしかったのですか?」

 そう言って橋本晶は、着物の袖をつまんで見せた。

 ちなみに僕と芽依ちゃんはスーツ姿。

 本来、防衛隊の制服があるのだが……

「機動服中隊の出動を、敵のスパイに悟られないために私服でという事だよ。制服はこれから乗り込む飛行艇に、新品が用意されているそうだ」
「新品ですか。もったいないですね。クリーニングから返ってきたばかりの制服があるのに……飛行艇? 飛行艇って、海から飛び立つあの……?」
「そうだよ。僕らの時代でも、自衛隊が使っていただろ。僕も現物は見ていないが」
「我々は、これから飛行艇で現地へ向かうのですか?」
「そうらしい」
「しかし、なぜヘリではなく飛行艇なんて古風な乗り物を?」

 大正時代JKの格好をして日本刀を振り回している君が、古風とか言っちゃうのか?

 まあ、それは良いけど確かに飛行艇は古風だな。

 第二次大戦頃までよく使われていた飛行艇が衰退して行った理由は、ヘリコプターの発達と大型陸上機が発着できる滑走路が整備されていった事にある。

 その結果、陸上機と比べてコストの悪い飛行艇は次第に衰退していったわけだ。

 僕のいた時代、自衛隊などで飛行艇は運用されていたけど、それは救難とか緊急時での離島往復など限られた用途でしかなかった。

 ところがこの惑星では、大型機の発着できる滑走路なんてない。

 今まではヘリコプターや垂直離着陸機VTOLを運用してきたが、それだけでは不便だという事で、滑走路を必要としない飛行艇も作ろうという話は以前からあったが今まで見送られてきたらしい。

 ところが……

「指令の話では、僕の件が原因で飛行艇を作ろうという事になったらしい」
「隊長が原因?」
「半年前。僕を乗せたシャトルが、攻撃を受けただろう」
「ええ」
「あの時、シャトルの垂直離着陸機能が破壊されてしまった。リトル東京に十分な長さの滑走路があれば着陸できたのだが、それがないので仕方なく塩湖に着陸したわけだ」
「それは知っています。だから、今は滑走路を……」
「ああ。確かにリトル東京では、四千メートル滑走路が新たに整備された。しかし、大型機が降りられる滑走路はそれだけ。リトル東京から大型機が飛び立っても、降りられる滑走路は他にない」
「なるほど。それだったら滑走路を整備するより、飛行艇を作った方がよいという事になったのですね」
「そういう事、それで今回僕らが乗り込む飛行艇は試作機という事だ」
「試作? 大丈夫ですか? 事故とか起きないでしょうか?」
「大丈夫だよ。たぶん……」
「たぶんって……なんか、コワいんですけど……」
「橋本君は心配性だな。試作と言っても、元々は過去に海上自衛隊の使っていた飛行艇に、若干の改造を施した程度だよ」
「改造? どのような?」

 まだ、不安そうだな。

「動力を最新の物に変えたけど、機体の基本構造は変わっていない。それにな、試作機というのは、その後で作られる量産機より優秀なんだぞ」
「そ……そうなのですか?」

 少なくとも、某アニメの世界では……

 そうこうしているうちに、リムジンは港に着いた。
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