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第十七章

プラマイゼロだな

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 森田指令は、さらに話を続けた。

「カルルは、ニャガン本部で観測隊員十一名の指揮を取っていた。それが今朝方、ニャガン本部が敵の襲撃を受けたのだ」
「では、カルルを含めて十二名が捕らえられているという事ですか?」

 捕らえられているというのは楽観的だな。敵地に潜入した以上、死者も出ているかもしれない。

「いや。襲撃時に本部にいたのは四名だけ。他の八名は、帝国各地へ散って観測装置の設置作業を進めていたので無事だった。しかし、これ以上作業を続けるのは危険と判断し、八名は現在ヘリが向かって回収中だ。そして本部にいた四人のうち一人は敵の手を逃れ、私に報告を送ってきた」

 八人は無事で一人が逃れたという事は残り三人。

「だいたいの状況は分かりましたが、これから僕達が受ける命令は三人の救出でしょうか?」

 普通に考えればそうだろうな。

 まさか、情報漏洩を防ぐために三人を始末しろとか言わないよな?

 数ヶ月前に僕はリトル東京に到着し、防衛隊に入隊手続きをした時に初めてこの指令と会ったが、まだこの人がどういう人物か分かっていない。

 芽依ちゃんの父親とは思えないぐらいに剛胆な性格をしているようだが、裏では組織のために犠牲をいとわない冷酷な性格を秘めていないとは言い切れないな。

 いや、考え過ぎだろう。

 そんな冷酷な人間に、多勢の部下がついて行くはずがない。

 きっとこれから下されるのは救出命令だ。

「残念だが違う」

 え? 救出とは違うの?

 という事は、カルル達を始末しろと言うのか?

 防衛隊って、そこまで非情な組織なのか?

 退職を考えた方がいいかな?

 再就職の当てはないが……

「救出ではないのですか?」
「いや。君達にこれから下すのは、救出命令に間違えはない」

 そうだよね。人生二度目の退職届を出そうかと、真剣に考えてしまった。

 オリジナル体を含めての二度目だが……

「だが、救出対象は三人ではない。カルル・エステス一人だ」
「一人? 後の二人は?」
「二人は……すでに殺された」

 そう言っている指令の顔は、辛そうだった。

 案外人情味のある人だったのだな。

 始末命令を出すような冷血漢だなんて疑ってごめんなさい。 

「とにかく、カルル・エステスだけでも救出したい。それも速やかにやる必要がある」
「というと、カルルに命の危険が……」
「いや、命の危険はない。拷問も行われていない。ただ、帝都からブレインレターが運ばれているという情報がある」
「え! それじゃあ急がないと……」
「カルル・エステスは、また接続者にされてしまう」

 まずい! カルルの奴、以前に救出した後『次に接続者にされるくらいなら死を選ぶ』なんて言っていた。

 あいつが本当に自殺するとは思えないのだが、香子にフられた後、死亡率の高い前線勤務を希望した奴だからな。

 絶対しないとは言い切れない。

「では北村二佐。君はこれより森田一尉及び橋本二尉を率いて、ニャガン沖に待機している潜水艦 《はくげい》へ向かってくれ」
「ハッ!」
「詳しい事情は、《はくげい》で待機している古淵一尉から聞いてくれ」
「古淵が、向こうにいるのですか?」

 森田指令は頷いた。

「古淵の他に、矢部三尉もいる。当初は二人だけでカルル・エステス奪還を試みたが失敗している」

 矢部もいたのか。

 芽依ちゃんと橋本君を連れて行ったら、セクハラ被害に遭う心配があるな。

「その時に、矢部三尉は負傷してしまった」
「負傷って、どの程度ですか?」
「足を骨折している。しばらくはベッドから動けない。なので、君達と入れ替わりにリトル東京に引き返す事になっている」
「それは残念です」

 これでこちらの戦力は減ってしまった。

 しかし、厄介ごとも減った。

 プラマイゼロだな。
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