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第十六章
タウリ族の失敗?(矢部の事情)
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監視者任務を引き継ぐために《天竜》と《いさな》がこの惑星に送り込まれたのだが、この事は上層部が秘匿している可能性があるというのは納得できた。
しかし、矢部にはまだ納得できない事がある。
「俺達に隠していた理由は納得できました。しかし、《いさな》が出発した時点でも地球では、この事を公表していませんでしたよ。なぜ、隠していたのでしょう?」
「私も、地球の政情にはあまり詳しくはないのだが、地球では、銀河共同体への加入に反対する人達が少なくはなかったらしい」
「ええ? 反対する人なんていたのですか?」
地球が銀河共同体に加入したところで利益こそあれ何も不利益な事はないはず、と矢部は思っていた。
しかし、事はそんな単純ではないのかもしれない。
銀河共同体のルールの中に、人によってはどうしても受け入れ難い条項があるのかもしれない。
「人というより国だね。地球には共同体への加入に反対する国が少なくないのだよ」
「でも、地球はすでに加入しているのですよね?」
「私の聞いた話では、地球は惑星単位で加入したのではなく、国別単位で加入していたそうだ。今でもそうなのかは分からないが」
「国別でもいいのですか?」
「それは可能だ。そういう惑星も珍しくはない。ただし、その資格は宇宙開発をする能力がある国に限られる」
「なるほど。宇宙開発をしていない国には権利がないと」
「そうだ。ただ、地球の場合加入した国々は、反対している国々の反発を恐れて、すぐにはその事を公表しなかったと聞いている。実際に公表したのは、おそらく君たちが地球を出発した後だよ」
「その、反対している国のリストってありますか?」
「あるよ。ちょっと待ってくれ」
スーホが見せてくれたタブレットには、見たこともない文字が表示されている。
タウリ族の文字のようだ。
スーホが操作すると、それは一瞬にして日本語に変換される。
そこには共同体加盟に賛成する国と反対する国のリストが載っていた。
賛成国一覧には、英国、米国、ドイツ、フランス、イタリア、カナダ、日本などサミット参加国の他にいくつかの国が名を連ねていた。
矢部の知る限り、それらの国々は実際に宇宙開発をやっている。
しかし、そこに名前の連なっていない宇宙開発国はそんなに残っていないはず。
そして、反対国一覧を見て矢部は納得した。
「なるほど。そういう事か」
反対国一覧の中で、実際に宇宙開発を行っていた国は一国だけ。
残りの国々は、その国が宇宙船を譲渡するなどして宇宙開発の実績を無理やり持たせるなどして宇宙開発国に加えて反対票を投じさせていたようだ。
その国が、なぜそこまでして共同体加入を嫌がるのかも、矢部にはだいたい察しが付いた。
共同体では、知性体の住む惑星への侵略行為を禁止していた。
その知性体がどんな未開種族でも、知性体の定義に当てはまる種族がいれば勝手に入植はできない。
つまり、共同体に参加してしまったら、宇宙に乗り出して居住可能惑星を発見しても、そこに少しでも知性的な現住生物がいれば入植ができないわけだ。
特にその国は、二十一世紀になっても侵略戦争を行い、残虐の限りを尽くし、世界中からの非難を浴びた国。
銀河共同体のルールなどに縛られたくはないのだろう。
「地球でだめなら、宇宙に出てきて侵略行為を楽しもうとでも考えたのかな? いや、実際にこの惑星で侵略しているし」
その国は《マトリョーシカ》の母国であった。
「矢部。今、言った事はどういう事かな?」
「どの事です?」
「『実際にこの惑星で侵略しているし』と言ったね。では、帝国人の……つまり《マトリョーシカ》の母国は、反対国のリストの方に入っていたのか?」
「入っていますよ。知らなかったのですか?」
「いや、私は《マトリョーシカ》の母国がどこなのかは知らなかった」
スーホは異星人なのだから、分からなくても仕方がない。
しかし、ここで矢部は思った。
スーホ達タウリ族は、《マトリョーシカ》の母国を知らなかったために、とんでもない失敗をしでかしてしまったのではないかと……
しかし、矢部にはまだ納得できない事がある。
「俺達に隠していた理由は納得できました。しかし、《いさな》が出発した時点でも地球では、この事を公表していませんでしたよ。なぜ、隠していたのでしょう?」
「私も、地球の政情にはあまり詳しくはないのだが、地球では、銀河共同体への加入に反対する人達が少なくはなかったらしい」
「ええ? 反対する人なんていたのですか?」
地球が銀河共同体に加入したところで利益こそあれ何も不利益な事はないはず、と矢部は思っていた。
しかし、事はそんな単純ではないのかもしれない。
銀河共同体のルールの中に、人によってはどうしても受け入れ難い条項があるのかもしれない。
「人というより国だね。地球には共同体への加入に反対する国が少なくないのだよ」
「でも、地球はすでに加入しているのですよね?」
「私の聞いた話では、地球は惑星単位で加入したのではなく、国別単位で加入していたそうだ。今でもそうなのかは分からないが」
「国別でもいいのですか?」
「それは可能だ。そういう惑星も珍しくはない。ただし、その資格は宇宙開発をする能力がある国に限られる」
「なるほど。宇宙開発をしていない国には権利がないと」
「そうだ。ただ、地球の場合加入した国々は、反対している国々の反発を恐れて、すぐにはその事を公表しなかったと聞いている。実際に公表したのは、おそらく君たちが地球を出発した後だよ」
「その、反対している国のリストってありますか?」
「あるよ。ちょっと待ってくれ」
スーホが見せてくれたタブレットには、見たこともない文字が表示されている。
タウリ族の文字のようだ。
スーホが操作すると、それは一瞬にして日本語に変換される。
そこには共同体加盟に賛成する国と反対する国のリストが載っていた。
賛成国一覧には、英国、米国、ドイツ、フランス、イタリア、カナダ、日本などサミット参加国の他にいくつかの国が名を連ねていた。
矢部の知る限り、それらの国々は実際に宇宙開発をやっている。
しかし、そこに名前の連なっていない宇宙開発国はそんなに残っていないはず。
そして、反対国一覧を見て矢部は納得した。
「なるほど。そういう事か」
反対国一覧の中で、実際に宇宙開発を行っていた国は一国だけ。
残りの国々は、その国が宇宙船を譲渡するなどして宇宙開発の実績を無理やり持たせるなどして宇宙開発国に加えて反対票を投じさせていたようだ。
その国が、なぜそこまでして共同体加入を嫌がるのかも、矢部にはだいたい察しが付いた。
共同体では、知性体の住む惑星への侵略行為を禁止していた。
その知性体がどんな未開種族でも、知性体の定義に当てはまる種族がいれば勝手に入植はできない。
つまり、共同体に参加してしまったら、宇宙に乗り出して居住可能惑星を発見しても、そこに少しでも知性的な現住生物がいれば入植ができないわけだ。
特にその国は、二十一世紀になっても侵略戦争を行い、残虐の限りを尽くし、世界中からの非難を浴びた国。
銀河共同体のルールなどに縛られたくはないのだろう。
「地球でだめなら、宇宙に出てきて侵略行為を楽しもうとでも考えたのかな? いや、実際にこの惑星で侵略しているし」
その国は《マトリョーシカ》の母国であった。
「矢部。今、言った事はどういう事かな?」
「どの事です?」
「『実際にこの惑星で侵略しているし』と言ったね。では、帝国人の……つまり《マトリョーシカ》の母国は、反対国のリストの方に入っていたのか?」
「入っていますよ。知らなかったのですか?」
「いや、私は《マトリョーシカ》の母国がどこなのかは知らなかった」
スーホは異星人なのだから、分からなくても仕方がない。
しかし、ここで矢部は思った。
スーホ達タウリ族は、《マトリョーシカ》の母国を知らなかったために、とんでもない失敗をしでかしてしまったのではないかと……
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