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第七章
酒場3
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男たちは、おっさんの周りに集まった。
おっさんが徐に葉巻を咥える。
すると背の低い男が、マッチの火をおっさんに差し出した。
「あたし、タバコきらーい!」
その様子を見ていたミクが顔をしかめる。
男たちにも、ミクの声が聞こえたようだが、日本語は分からないようだ。
当然か……いや、そうとも言えんな。リトル東京ができてから五年は経過している。
エシャーですら、片言の日本語が分かるんだ。ナーモ族や帝国人の中に、日本語の分かる人がいる可能性だってないとは言い切れない
幸いこの中にはいないようだ。二~三人がこっちをチラっと振り向いたが「何を言ってるんだ?」というな表情だった。
だが、これからは少し気を付けないと……
「こら。ミク。そういう事を口に出して言うものじゃない」
「だって、タバコって臭いんだもん」
「だからと言ってな……」
「電脳空間のお兄ちゃんは、カルルがタバコを吸うと『臭いから余所で吸え』とか『煙吸ってもいいが吐き出すな』とか言ってたよ」
「う……」
電脳空間の僕は、そんな嫌味な奴なのか?
おっさんが大きく煙を吐き出す。
「それで、ゴランの隊は見つかったのか?」
おっさんの質問に、さっき火を差し出した小男が答える。
「見つかった事は、見つかったのですが……酷い有様でした」
「酷い有様だと?」
「ほぼ全滅です。それも尋常な殺され方じゃありません。無数の銃弾を食らって挽肉みたいな死体になっていたり、大きな岩に潰されたように……」
ああ! こいつら昼間出会った馬賊の仲間だな。ゴランて、あの頭目の名前か。
となると、この店にこれ以上いるのはまずいな。
その事をみんなに小声で伝えると……
「カイトさん。あたし達、別に顔を見られたわけじゃないから、大丈夫ですよ」
「それもそうか」
僕もPちゃんもあの時は、フルフェイスのヘルメットを被っていたし、ミールは分身体だった。いや、分身体の顔は見られているが……
「ミール。ダモンさんの娘は?」
あの時の分身体は、ダモンさんの娘の姿。
「部屋で大人しくしています。まさか子供をこんなところへ……」
と、言いかけて、ミールはミクの方を見る。
「幼児をこんなところへ連れてくるわけないじゃないですか」
本当はミクも連れてきちゃダメだぞ。
「お兄ちゃん。心配しなくても、昼間の奴らは皆殺しにしておいたから平気だって」
女の子が、そういう物騒な事言うんじゃありません!
しかし、まあそれなら心配する事も……
「ボラーゾフの仕業か?」
ボラーゾフって対立組織のようだな。そっちだと思ってくれると助かるのだが……
「いえ、違います」
無理だったか。
「実は一人だけ、生き残った者がいるのですが」
え?
小男は、頭に包帯を巻いた男を指差していた。
「ミク。生き残りがいるじゃないか」
「いけない。アクロには、動く奴を潰せと命令したから。死んだふりしていた奴を、見逃したかも……赤目と違って、あいつは融通きかないから」
再び、おっさんたちの方に、聞き耳を立てた。
「化け物を見たとか、言ってる事が変なのですよ。頭を打って、妄想を言っているのではないかと……」
「構わん。話をさせろ」
「はい。おいビーチャ。さっきの話をお頭に聞かせろ」
ビーチャと言われた男が、おっさんの前に進み出た。
「最初は、変な乗り物に乗った三人組に襲われたんです。たった三人だから、たいした事はないと思っていたのですが、あいつらには、俺たちの銃はまったく効かなくて、逆に奴らの銃は、たった一発で馬も人もまとめてズタズタに……」
「そんな銃があるかよ」
男の一人が茶々を入れる。
「黙っていろ! 話を聞いているのは俺だ」
「すみません」
おっさんに一喝されて男は黙り込む。
「ビーチャ。お前が見たのは、恐らくショットガンという武器だ。俺は五年前、リトル東京包囲戦のときに、その銃を見ている」
リトル東京包囲戦! ブレインレターで見た二度目の戦い……
あ! このおっさん。見覚えがあると思ったら、アレクセイ・ドロノフ!
まずいぞ。あいつ、前の僕を見ているはず……
「ビーチャ。話を続けろ」
「へい。しばらくそいつらと戦っていたのです。で、レフが奴らの仲間のガキを人質にとったのですが、そこへ別の邪魔が入りまして……」
「別の邪魔?」
「へい。変なドラゴンみたいな動物に乗って現れたガキで、そいつが化け物を召喚して……」
これ以上、ここにいない方がいいな。
僕だけでなく、ミクもあのビーチャという男に顔を見られている。
「この店を出よう。ミクはあいつに顔を見られているはずだ」
僕達は席を立ち、ガーデンテラスの出口へ向かった。
ミクの顔が見えない様に、僕とミールとPちゃんとキラで男たちの視線を遮るようにして移動する。
その間、ダモンさんに会計を済ましてもらった。
先頭にいたPちゃんの足が、出口に差し掛かった時……
「おい! 待ちな。兄ちゃん達」
おっさんに呼び止められた。
おっさんが徐に葉巻を咥える。
すると背の低い男が、マッチの火をおっさんに差し出した。
「あたし、タバコきらーい!」
その様子を見ていたミクが顔をしかめる。
男たちにも、ミクの声が聞こえたようだが、日本語は分からないようだ。
当然か……いや、そうとも言えんな。リトル東京ができてから五年は経過している。
エシャーですら、片言の日本語が分かるんだ。ナーモ族や帝国人の中に、日本語の分かる人がいる可能性だってないとは言い切れない
幸いこの中にはいないようだ。二~三人がこっちをチラっと振り向いたが「何を言ってるんだ?」というな表情だった。
だが、これからは少し気を付けないと……
「こら。ミク。そういう事を口に出して言うものじゃない」
「だって、タバコって臭いんだもん」
「だからと言ってな……」
「電脳空間のお兄ちゃんは、カルルがタバコを吸うと『臭いから余所で吸え』とか『煙吸ってもいいが吐き出すな』とか言ってたよ」
「う……」
電脳空間の僕は、そんな嫌味な奴なのか?
おっさんが大きく煙を吐き出す。
「それで、ゴランの隊は見つかったのか?」
おっさんの質問に、さっき火を差し出した小男が答える。
「見つかった事は、見つかったのですが……酷い有様でした」
「酷い有様だと?」
「ほぼ全滅です。それも尋常な殺され方じゃありません。無数の銃弾を食らって挽肉みたいな死体になっていたり、大きな岩に潰されたように……」
ああ! こいつら昼間出会った馬賊の仲間だな。ゴランて、あの頭目の名前か。
となると、この店にこれ以上いるのはまずいな。
その事をみんなに小声で伝えると……
「カイトさん。あたし達、別に顔を見られたわけじゃないから、大丈夫ですよ」
「それもそうか」
僕もPちゃんもあの時は、フルフェイスのヘルメットを被っていたし、ミールは分身体だった。いや、分身体の顔は見られているが……
「ミール。ダモンさんの娘は?」
あの時の分身体は、ダモンさんの娘の姿。
「部屋で大人しくしています。まさか子供をこんなところへ……」
と、言いかけて、ミールはミクの方を見る。
「幼児をこんなところへ連れてくるわけないじゃないですか」
本当はミクも連れてきちゃダメだぞ。
「お兄ちゃん。心配しなくても、昼間の奴らは皆殺しにしておいたから平気だって」
女の子が、そういう物騒な事言うんじゃありません!
しかし、まあそれなら心配する事も……
「ボラーゾフの仕業か?」
ボラーゾフって対立組織のようだな。そっちだと思ってくれると助かるのだが……
「いえ、違います」
無理だったか。
「実は一人だけ、生き残った者がいるのですが」
え?
小男は、頭に包帯を巻いた男を指差していた。
「ミク。生き残りがいるじゃないか」
「いけない。アクロには、動く奴を潰せと命令したから。死んだふりしていた奴を、見逃したかも……赤目と違って、あいつは融通きかないから」
再び、おっさんたちの方に、聞き耳を立てた。
「化け物を見たとか、言ってる事が変なのですよ。頭を打って、妄想を言っているのではないかと……」
「構わん。話をさせろ」
「はい。おいビーチャ。さっきの話をお頭に聞かせろ」
ビーチャと言われた男が、おっさんの前に進み出た。
「最初は、変な乗り物に乗った三人組に襲われたんです。たった三人だから、たいした事はないと思っていたのですが、あいつらには、俺たちの銃はまったく効かなくて、逆に奴らの銃は、たった一発で馬も人もまとめてズタズタに……」
「そんな銃があるかよ」
男の一人が茶々を入れる。
「黙っていろ! 話を聞いているのは俺だ」
「すみません」
おっさんに一喝されて男は黙り込む。
「ビーチャ。お前が見たのは、恐らくショットガンという武器だ。俺は五年前、リトル東京包囲戦のときに、その銃を見ている」
リトル東京包囲戦! ブレインレターで見た二度目の戦い……
あ! このおっさん。見覚えがあると思ったら、アレクセイ・ドロノフ!
まずいぞ。あいつ、前の僕を見ているはず……
「ビーチャ。話を続けろ」
「へい。しばらくそいつらと戦っていたのです。で、レフが奴らの仲間のガキを人質にとったのですが、そこへ別の邪魔が入りまして……」
「別の邪魔?」
「へい。変なドラゴンみたいな動物に乗って現れたガキで、そいつが化け物を召喚して……」
これ以上、ここにいない方がいいな。
僕だけでなく、ミクもあのビーチャという男に顔を見られている。
「この店を出よう。ミクはあいつに顔を見られているはずだ」
僕達は席を立ち、ガーデンテラスの出口へ向かった。
ミクの顔が見えない様に、僕とミールとPちゃんとキラで男たちの視線を遮るようにして移動する。
その間、ダモンさんに会計を済ましてもらった。
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おっさんに呼び止められた。
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