185 / 828
第七章
幼女の皮を被った強欲守銭奴
しおりを挟む
「ミール?」
ミールは、ミクに詰め寄った。
「そんなの、納得できるわけ、ないじゃないですか! 今のカイトさんと、前回再生されたカイトさんは別人です! 前のカイトさんが婚約していたとしても、そんなの今のカイトさんには関係ありません。その香子さんという女と、カイトさんが幼馴染だったとしても、二百年も経ったら、時効です」
いや……時効とは、違うのだけど……
「そもそも、最初から自分の恋人になる男を、人工的に作るなんて間違っていますわ! 人工的に男性を作るのは良いとしても、その男性と恋人になりたかったら、一生懸命、誘惑して、誑かして……じゃなくて……誠心誠意尽くして、好きになってもらうべきです」
「ええっと……」
ミールのあまりの権幕に、ミクは少し引いていた。
「あたしが言いたかったのは、だいたいそんな事だけど、なんであんたがそんなにムキになるのさ?」
するとミールは、僕の腕にしがみ付いてきた。
「今のカイトさんは、あたしと付き合っているからです」
「ちょっ……ちょっとミール!」
「カイトさん。ご迷惑でした?」
「そ……そうじゃなくて……その分身体で、そういう事は……」
「あ!」
ミールは、ようやく自分の今の姿に気が付いたようだ。
だが、手遅れだった。
ミクは、驚愕の表情で僕を見つめている。
「し……信じられない」
「ま……待て! ……誤解だ」
「電脳空間では、いつもあたしを子供扱いしていたくせに……」
いや、電脳空間の僕へのクレームを、この僕に言われても……
「こんな幼女と付き合うなんて……」
「だから、誤解だって!」
「お兄ちゃんの馬鹿! ロリコン! 犯罪者!」
「だから、違うって……」
「何が違うのよ!」
「いいから、落ち着いてこの子をよく見ろ。なんか、変だと思わないのか?」
「ん?」
ミクは、目を凝らしてミールを見つめた。
「ああ! この子、人間じゃない!」
やっと気が付いたか……
「猫耳だ! 猫耳! 本物だ! 本物!」
ミクは嬉々として、ミールの猫耳を弄り回した。
「ちょっと! やめて下さい。耳は敏感なのです。ああ!」
「そんな事言わないで、触らせて。モフモフ」
気が付いたのは、そっちかい!
「ち・が・う・だ・ろ」
僕はミクの頭をガシッ掴み、ミールから引き離した。
「もっと、他に気が付く事はないのか? 君は陰陽師なんだろ」
「ん? もっと他に、気が付くこと……?」
ミクは、再びミールをジッと見つめた。
心なしか、ミールは怯えているように見える。
「ああ! この子!」
まさか、今度は尻尾に気が付いたとか言い出すのでないだろうな。
「式神だ! この子、式神だよ」
今頃気が付いたか。
「そう、この子は式神なんだよ。だけど、操っている術者は、れっきとした大人なの。だから、僕はロリコンではない」
「そっか、姿は子供、魂は大人なんだね」
どっかの名探偵みたいなフレーズだな。
「というよりも……」
Pちゃんが横から口をはさむ。
「一見、可愛い幼女に見えますが、その実態は幼女の皮を被った強欲守銭奴です」
「誰が、強欲守銭奴ですか!」
また、いつもの喧嘩が始まった。
それはおいといて僕はミクの方を向いた。
「しかし、なぜすぐに式神だと分からなかった? ミールは赤目を見て、すぐに式神だと見破ったぞ」
「そんな事言ったって、あたし他の人が操る式神なんて、見るのは初めてだったし……」
「初めて? 他にいなかったの?」
「うん。それに、地球で式神を出した時は、こんなに、はっきりとは現れなかったし」
「地球でも、式神を出せたのかい?」
「うん。でもね、赤目はあたし以外の人には見えなかったし、アクロは出しても十秒で消えちゃったし、オボロはあたしを乗せる事ができなかった。この惑星に降りて式神を出して見たら、全然違うから驚いたよ」
やはり、地球では魔法の発動を抑制する要素があるのか?
「あのう、ご主人様」
Pちゃんの方を振り向いた。
ミールとの喧嘩は終わったようだ。
「先ほどの方が、私に礼を言って帰って行きましたが……」
「え?」
Pちゃんの指差す方向を見ると、功夫少女の乗っていた竜車が遠ざかっていくのが見えた。
「ご主人様にもお礼を言いたかったようなのですが、立て込んでいるようでしたし、あの方も急いでいたようですので」
ああ、すっかり忘れていた。
Pちゃんはメモを差し出した。
「カルカに来たら、この店に立ち寄ってほしいと。お礼をしたいそうです」
「いや、お礼なんて別にいいのに」
「お兄ちゃん。その字」
ミクがメモを指差した。
「ん? これが何か?」
漢字で店の名前が書いてあるが、画数がやたら多い字だな。
なんて読むのだろ……漢字!?
この惑星で……漢字?
「お兄ちゃん。これ、日本で使っている漢字じゃないよね」
かと言って、大陸中国で使っている簡体字でもない。
台湾で使っている繁体字だ。
「あの女の子、行方不明になった《天竜》の人じゃないのかな?」
そう言えば、《イサナ》は台湾船に追い抜かれたとブレインレターで見たけど……
「台湾て、宇宙開発やっていたっけ?」
「あたし達がデータ取られた時代には、ロケットを打ち上げてはいなかったけど、台湾国家宇宙センターという宇宙機関があったよ」
「そうなのか?」
「交流会の時に聞いたんだけどね」
僕がカーテンの裏に隠れていた時か……
「その時にね、あたし向こうの船の男の子にプロポーズされちゃったんだ」
「知ってる。ブレインレターで見た」
「ああ、それも見たんだ」
「白竜君て言ったっけ? 今になって、断ったことを後悔しているのか?」
「え? あたし断っていないよ。お友達でいようって言っただけだけど」
だから、向こうはそれで断られた思っているんだって……
「ねえねえ、お兄ちゃん。白竜君でハンサムだったでしょ」
「ああ、ハンサムだったね」
「ねえねえ、焼きもち焼いた?」
焼きもち焼かせたかったのか?
「焼いてない」
「本当は焼いているんでしょ」
「だから焼いてない」
頭痛の種がまた一つ……
ミールは、ミクに詰め寄った。
「そんなの、納得できるわけ、ないじゃないですか! 今のカイトさんと、前回再生されたカイトさんは別人です! 前のカイトさんが婚約していたとしても、そんなの今のカイトさんには関係ありません。その香子さんという女と、カイトさんが幼馴染だったとしても、二百年も経ったら、時効です」
いや……時効とは、違うのだけど……
「そもそも、最初から自分の恋人になる男を、人工的に作るなんて間違っていますわ! 人工的に男性を作るのは良いとしても、その男性と恋人になりたかったら、一生懸命、誘惑して、誑かして……じゃなくて……誠心誠意尽くして、好きになってもらうべきです」
「ええっと……」
ミールのあまりの権幕に、ミクは少し引いていた。
「あたしが言いたかったのは、だいたいそんな事だけど、なんであんたがそんなにムキになるのさ?」
するとミールは、僕の腕にしがみ付いてきた。
「今のカイトさんは、あたしと付き合っているからです」
「ちょっ……ちょっとミール!」
「カイトさん。ご迷惑でした?」
「そ……そうじゃなくて……その分身体で、そういう事は……」
「あ!」
ミールは、ようやく自分の今の姿に気が付いたようだ。
だが、手遅れだった。
ミクは、驚愕の表情で僕を見つめている。
「し……信じられない」
「ま……待て! ……誤解だ」
「電脳空間では、いつもあたしを子供扱いしていたくせに……」
いや、電脳空間の僕へのクレームを、この僕に言われても……
「こんな幼女と付き合うなんて……」
「だから、誤解だって!」
「お兄ちゃんの馬鹿! ロリコン! 犯罪者!」
「だから、違うって……」
「何が違うのよ!」
「いいから、落ち着いてこの子をよく見ろ。なんか、変だと思わないのか?」
「ん?」
ミクは、目を凝らしてミールを見つめた。
「ああ! この子、人間じゃない!」
やっと気が付いたか……
「猫耳だ! 猫耳! 本物だ! 本物!」
ミクは嬉々として、ミールの猫耳を弄り回した。
「ちょっと! やめて下さい。耳は敏感なのです。ああ!」
「そんな事言わないで、触らせて。モフモフ」
気が付いたのは、そっちかい!
「ち・が・う・だ・ろ」
僕はミクの頭をガシッ掴み、ミールから引き離した。
「もっと、他に気が付く事はないのか? 君は陰陽師なんだろ」
「ん? もっと他に、気が付くこと……?」
ミクは、再びミールをジッと見つめた。
心なしか、ミールは怯えているように見える。
「ああ! この子!」
まさか、今度は尻尾に気が付いたとか言い出すのでないだろうな。
「式神だ! この子、式神だよ」
今頃気が付いたか。
「そう、この子は式神なんだよ。だけど、操っている術者は、れっきとした大人なの。だから、僕はロリコンではない」
「そっか、姿は子供、魂は大人なんだね」
どっかの名探偵みたいなフレーズだな。
「というよりも……」
Pちゃんが横から口をはさむ。
「一見、可愛い幼女に見えますが、その実態は幼女の皮を被った強欲守銭奴です」
「誰が、強欲守銭奴ですか!」
また、いつもの喧嘩が始まった。
それはおいといて僕はミクの方を向いた。
「しかし、なぜすぐに式神だと分からなかった? ミールは赤目を見て、すぐに式神だと見破ったぞ」
「そんな事言ったって、あたし他の人が操る式神なんて、見るのは初めてだったし……」
「初めて? 他にいなかったの?」
「うん。それに、地球で式神を出した時は、こんなに、はっきりとは現れなかったし」
「地球でも、式神を出せたのかい?」
「うん。でもね、赤目はあたし以外の人には見えなかったし、アクロは出しても十秒で消えちゃったし、オボロはあたしを乗せる事ができなかった。この惑星に降りて式神を出して見たら、全然違うから驚いたよ」
やはり、地球では魔法の発動を抑制する要素があるのか?
「あのう、ご主人様」
Pちゃんの方を振り向いた。
ミールとの喧嘩は終わったようだ。
「先ほどの方が、私に礼を言って帰って行きましたが……」
「え?」
Pちゃんの指差す方向を見ると、功夫少女の乗っていた竜車が遠ざかっていくのが見えた。
「ご主人様にもお礼を言いたかったようなのですが、立て込んでいるようでしたし、あの方も急いでいたようですので」
ああ、すっかり忘れていた。
Pちゃんはメモを差し出した。
「カルカに来たら、この店に立ち寄ってほしいと。お礼をしたいそうです」
「いや、お礼なんて別にいいのに」
「お兄ちゃん。その字」
ミクがメモを指差した。
「ん? これが何か?」
漢字で店の名前が書いてあるが、画数がやたら多い字だな。
なんて読むのだろ……漢字!?
この惑星で……漢字?
「お兄ちゃん。これ、日本で使っている漢字じゃないよね」
かと言って、大陸中国で使っている簡体字でもない。
台湾で使っている繁体字だ。
「あの女の子、行方不明になった《天竜》の人じゃないのかな?」
そう言えば、《イサナ》は台湾船に追い抜かれたとブレインレターで見たけど……
「台湾て、宇宙開発やっていたっけ?」
「あたし達がデータ取られた時代には、ロケットを打ち上げてはいなかったけど、台湾国家宇宙センターという宇宙機関があったよ」
「そうなのか?」
「交流会の時に聞いたんだけどね」
僕がカーテンの裏に隠れていた時か……
「その時にね、あたし向こうの船の男の子にプロポーズされちゃったんだ」
「知ってる。ブレインレターで見た」
「ああ、それも見たんだ」
「白竜君て言ったっけ? 今になって、断ったことを後悔しているのか?」
「え? あたし断っていないよ。お友達でいようって言っただけだけど」
だから、向こうはそれで断られた思っているんだって……
「ねえねえ、お兄ちゃん。白竜君でハンサムだったでしょ」
「ああ、ハンサムだったね」
「ねえねえ、焼きもち焼いた?」
焼きもち焼かせたかったのか?
「焼いてない」
「本当は焼いているんでしょ」
「だから焼いてない」
頭痛の種がまた一つ……
応援ありがとうございます!
0
お気に入りに追加
142
1 / 5
この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる