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第七章

美少女陰陽師?

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 凛とした女の子の声だった。
 ミールの声でも、Pちゃんの声でもない。
 功夫カンフー少女か? いや、彼女も不思議そうに声の主を探してキョロキョロしている。
「なんだ? あれは?」
 馬賊の一人が上を見上げた。
 
 な……なんだ? あれは?

 龍? 金色の龍が飛んでいた。
 西洋風のドラゴンなどではなく、日本風の龍だ。
 長さは十メートルほど。
 その龍の上に、小さな女の子が跨っていた。
「なんだあ? ありゃあ?」
 馬賊の頭目も驚いている。
 注目を集めたところで、女の子は竜の上にすっくと立ち上がった。
 セーラー服に身を包んだ、座敷童を思わせる黒いおかっぱ髪の女の子。歳は十二歳ぐらいだろうか?
 女の子は不敵な笑みを浮かべて、下を見下ろす。
「実力で敵わないからと言って、幼女を人質にとるなど男の風上にもおけぬ卑怯者。そんな悪党は、このあたし、美少女陰陽師、綾小路あやのこうじ未来みくが成敗してやるわ!」
 
 ああ……こいつ……中二病だ……

「とう!」

 掛け声と同時に、女の子は竜から飛んだ。

「おお!」「飛んだぞ!」

 どよめく周囲……そして。

 べしゃ!

 女の子は草原の真ん中に、俯せのまま落ちた。そのままピクリとも動かない。

 どうしようもない沈黙が、辺りを包み込んだ。

 しばらくして、馬賊の頭目は、大の字になって草原に突っ伏している女の子を指差し、呆けた顔で僕に尋ねる。

「知り合いか?」

 ブンブンブン!

 僕もPちゃんも、人質になっているミールも、無言で首を思い切り横に振った。

 こんなのが、知り合いであってたまるか!
 
 頭目は、功夫少女の方に視線を向ける。

 ブンブンブン!

 彼女も無言で、首を横に振った。

「あのさ」
 ここにいる全員が次のリアクションに困って固まってしまったところへ、僕は提案した。
「見なかった事にしない?」

「そ……そうだな」
 馬賊の頭目も同意する。

 こうして、話がまとまったかに見えたその時……

「あはははははは!」

 草原に突っ伏していた女の子が、突然ガバッと起き上がって笑い始めた。
「これしきの事で、この綾小路未来が、やられるとでも思ったか!?」
 これしきの事って……自分で、こけただけやろ……ん?

 綾小路未来?

 日本人か? という事は、大気圏突入体に乗っていたのはこの娘?

 女の子は、懐から何かを取り出した。
 人の形に切り取った紙……これって!
でよ! 式神!」

 式神だと!?

 人型の白い紙が突然黒く変色すると、ムクムクムクっと大きくなっていく。
 やがて、それは身長五メートルほどの真っ黒な鬼となった。
 いや、鬼としか形容しようのない生き物だ。
 その巨体は、辛うじて人の姿をしているが、大木のような太い四肢をもち、赤い髪に覆われた頭部には金色に輝く角が二本伸びていた。
「な……なんだ?」「ば……化け物だ!」
 鬼の姿を見た馬賊たちはどよめく。
 鬼に向かって銃撃したり、矢を放ったりする者がいたが、攻撃は全く通じない。

「ぐおおお!」

 鬼は咆哮を上げると、拳を振るい手近な馬賊を叩き潰した。

「さあ、アクロ! 片っぱしから、やっておしまい!」

 女の子が命令すると、アクロと呼ばれた式神は、その巨体からは信じられないような俊敏な動きで馬賊たちを次々と叩き潰していった。

「やい。こっちを見ろ」

 そう叫んだのは、さっきからミールを捕まえていた男。

「その化け物を止めろ! さもないと、こいつの命は……痛ててて!」
 男は、ミールに突き付けていたナイフを突然落とした。
 よく見ると、男の右手に兎が噛みついている。
 さらに兎は、ミールを押さえつけている男の左手に噛みつく。
 たまらず、男はミールを手放してしまった。
「あ! こら!」
 僕の方へ走ってくるミールを、男は再び捕まえようして追いかける。
 その男の顔面に狙いを定め、僕は拳銃の引き金を引いた。
 
 男の額に小さな赤い穴が空く。

「え? あれ? なんで……」

 男は数歩進んでから、前のめりに倒れる。

 周囲を見回すと、馬賊たちはあらかた片付いていた。
 
 最後に残った一人を、アクロが追い回している。
  
「カイトさん」
 ミールが駆け寄ってきた。
「すみません。足を引っ張ってしまって」
「気にしなくていいよ。それより、礼はあの子に言った方がよさそうだね」
 丁度その時、最後の一人をアクロが叩き潰していた。
 
 それが済むと、アクロは溶けるように消えてしまった。
 空にいた龍も、いつの間にかいなくなっている。
 
 ん? それを操っていた女の子は何処だ?

「お兄ちゃん!」

 声のした方を見ると、女の子が僕に向かって猛然とかけてくるところだった。

「会いたかったよ! お兄ちゃん」

 え?

 そのまま、女の子は僕に抱き着いてきた。
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