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第十六章

ロシアンルーレット

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 ミーチャの眼前三メートル付近の空中に、直径二メートルほどの光る穴が現れた。

 その光る穴の中から、筒状の黒い物体がせり出してくる。

 物体の直径は光る穴とほぼ同じ。

 あれは?

時空管じくうかんじゃ!」

 そう叫んだジジイの方をふり向いた。

「時空管? なんだ? それ」
「エキゾチック物質の管じゃ。普通の物質がワームホールを抜けると、潮汐ちょうせき作用で破壊されてしまう。しかし、エキゾチック物質でできた管の中を通れば、安全に通り抜けられるのじゃ。それを時空管と言っている。ただし、地球人の使っている時空管と、タウリ族のそれはかなり仕様が違うぞ」
「ようするに、あの中から敵が出てくるという事だな」
「そうじゃ」

 ならば出てくる前に……あかん!

 ショットガンを構える前に、ワームホールから六人の人間が飛び出して来た。

 六人とも皮鎧と兜を装着し、自動小銃カラシニコフで武装した帝国軍兵士。

 いかん!

「ロンロン! 緊急事態! 《海龍》のハッチを閉めろ」

 人工知能だけあって、ロンロンに迷いはなかった。

 今にも《海龍》内に侵入しようとした兵士の眼前で、司令塔のハッチが閉じる。

 二人の兵士がハッチを引っ張るが、すでにロックが掛かっているのか開かない。

 艦内に侵入されるという最悪の事態は防げたが……

「少年を確保」

 二人の帝国兵は、ミーチャを両脇から拘束する。

「やめて! 放して!」
「ええい! 大人しくしろ! 痛い目にあわせるぞ」
 
 ミーチャにそんな事をしたら、僕がおまえを痛い目にあわせるぞ。 

「よしなさい! この少年は、マルガリータ姫のお気に入りだ。乱暴に扱うな」
「ちっ!」

 兵士は舌打ちすると、ミーチャを縛り上げる。

 隊長らしき兵士が兜を外した。

 女性兵士……確か、カルルの部下でイリーナとかいう女だったな。

 イリーナは、空中にいる僕の方を向く。

「カイト・キタムラ。これが見えるかしら?」
「よく見えている。ミーチャを人質にしたつもりか?」
「その通り」

 僕は拳銃を抜いて構えた。

「僕の銃の腕を知らないのか? ミーチャに当てることなく、おまえたち全員を射殺する事も可能だぞ」
「まあ、話は最後まで聞きなさい」

 イリーナは部下の方をふり向く。

「あれを」
「は」

 部下がリュックから円盤状の物体を取り出す。

 フリスビーぐらいの大きさだが、あれは?

「これは対人地雷よ」
「そんな物を使ったら、おまえたちも……」
「分かっているわ。言っておくけど、我々はこれで自殺したいとは思ってはいない。この少年を殺したいとも思っていない。だが、この地雷は我々六人のうち誰かの心停止を感知すると、爆発する仕組みよ」

 なに?

「分かるかしら? カイト・キタムラ。我々六人の誰かの心臓にチップが埋め込まれているのよ。おまえが我々を、不用意に撃てばどうなると思う?」
「ロシアンルーレットという事か」
「上手い例えね。その通り。誰の心臓に、チップが埋め込まれているのかおまえには分からない。チップを埋め込まれた者を撃てば、我々諸共ミーチャも死ぬ」

 くそう!

「さあ、カイト・キタムラ。ロシアンルーレットをやってみる気はあるかしら?」

 そんな気ない。

「要求はなんだ?」

 まあ聞くまでもないが……

「話が早いわね。では、ミク・アヤノコージを引き渡してもらえるかしら」
「断ると言ったらどうする?」
「ふふふ。おまえがその要求を飲むとは、最初から期待していなかったわ」
「ならばどうする?」
「実力で拉致するまでよ」
「たった六人でか? こっちには、九九式機動服が三機いるのだぞ」
「もちろん、たった六人で勝てるなんて思っていないわ」
「では、どうするつもりだ?」
「私たち六人は、橋頭堡を確保するための要員にすぎない。実行部隊は、別にいるのよ」

 どういう事だ?

「でゃあああ!」

 突然の橋本晶の叫びに振り向くと、《海龍》の甲板上に別のワームホールが開いていた

 すでに雷神丸を手にしている橋本晶の足下には、切り捨てられた帝国軍兵士の死骸が数体転がっている。

「どりゃあ!」

 橋本晶がワームホールの前で雷神丸をふると、今にも出てこようとしていた帝国軍兵士の首が切り落とされた。

 少し遅れて芽依ちゃんがショットガンを構えるが、引き金を引く前にワームホールは消滅する。

「あらあら。もう、やられちゃったの? でもね、カイト・キタムラ。ミーチャの視線の先には、いくらでもワームホールを開くことができるのよ」

 なんだと?

「さあ、ミーチャ君。いい子だから、あっちを見てくれない」
「やだあ! 痛い! やめて!」

 イリーナは嫌がるミーチャの顔を掴み、無理矢理別方向に向けさせた。

 その視線の先にあるのは……《水龍》!

 直後、《水龍》の甲板上に別のワームホールが現れた。
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