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第十六章

久しぶりの陽光

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 第一層でエレベーターを降りた僕達は、久しぶりの陽光を浴びた。

まぶしい!」
 
 ミールが眩しそうに、掌で目をおおう。

「私たち、やりげたのですね」

 僕の背後で芽依ちゃんがそう言ったとき、第一層出口前の広場に、ヘリコプターが着陸する。

 降りてきたのはレイホー。

「おにいさん達。迎えに来たね」

 駆け寄って来たレイホーに、陽光を浴びて銀色に輝くシリンダー状の物体……マテリアルカートリッジを僕は差し出した。

「レイホー。最後のカートリッジだ」
「これで、お父さんの治療ができるね?」
「ああ」

 レイホーがカートリッジをいとおしげに抱きしめていると、その背後からアーニャ・マレンコフが近寄る。

「それが、最後のカートリッジなのね。これで、章白龍を助ける事ができるのね」

 アーニャは、目に涙を浮かべていた。

 やはり、彼女は章白龍を愛していたのだな。

「二人とも、嬉しいのは分かるけど先を急ごう。そろそろ、レム神が騙された事に気づくころだから」
「そうね。カルカに戻るまでが遠足だわ。それにしても……」

 アーニャは、僕の方を振り返り笑顔を浮かべる。

「君は本当に人が良いわね」

 どういう事だ?

「悪い意味で言ったわけじゃないのよ。でも、あまりお人好しだと、他人に良いように使われちゃうわ。気を付けてね」
「どういう事です? 僕がお人好しって?」
「私たちにとって、章白龍は大切な人。でも、君にとってはほとんど面識のない他人。他人のために、こんなに頑張るなんてお人好しでしょ」

 その事か。

 確かに、お人好しと思われても仕方ないが、僕はけっして同情だけでこの作戦を実行したわけじゃない。

 あくまでも、自分のためにやった事だ。

 僕が、この惑星でこの先も生きて行くには、帝国軍と戦い続けなければならない。

 そのためには、味方は多い方が良いし、敵が弱くなってくれるとなお良い。

 ここで章白龍を助ける作戦を実行すれば、カルカの人たちからの信頼を勝ち取れて、心強い味方になってもらえる。

 なおかつ、帝国軍がリトル東京から奪ったカートリッジを奪還すれば、奴らを弱体化できて一石二鳥。

 もっとも、今では奴らもカートリッジの再充填が、可能になってしまったらしいが……

 その事をアーニャに話してみた。

「なるほど。あくまでも自分のためにやっていたのであって、章白龍を助けるのは打算という事ね」
「そうですよ。悪いですか」
「嘘ばっかり」

 え? 嘘などついていないが…… 

「君は、困っている人を放っておけない、優しい人なのよ。だから、こんな作戦を実行したのだわ」

 な……何を言ってるんだ?

「そんな事はありません。僕は、冷酷なマキャベリストです」

 そうだよ。僕はそんな善人じゃない。

「冷酷な男なら、ロータスの町を見捨てたと思うな」
「いや……それは……」
「そうね。冷酷な男なら、盗賊に追われている私を助けに駆けつけたりしないね」
「レイホーまでなに言ってんだよ。あんな状況見たら、普通助けに行くだろう」
「北村さんが冷酷だったら、アーテミスで子供たちが虐待されているのを見て、激怒して盗賊退治なんかしないと思います」
「いや、芽依ちゃん。あれは、ダニに賞金が掛かっているとキラから聞いて……なあキラ。あれは君と賞金山分けにするためだよな」

 だが、キラは首を横にふる。

「カイト殿が冷酷な男なら、私は最初に会った時に殺されていたはずだ」
「それはだな……」
「正直、私はあの時死を覚悟していた。勝てない相手にケンカを売ってしまったと後悔もした。だが、カイト殿は私を殺さなかった。最初はバカにされたのかとも思った。だが、今なら分かる。世の中にはカイト殿のように、優しい男もいるのだということも……」
「優しい男なんて、いくらでもいるだろう」
「少なくとも、私の周囲にはいなかった。女を物扱いするような男にしか会ったことがない」

 それは、キラの男運が悪かっただけだと思うけど……

 カチ!

 ヘルメット着脱ボタンの音……こういう事をするのはミールだな。

 振り向くと案の定、ミールが僕のヘルメットを抱えていた。

「カイトさん。みんなに誉められて、照れているのですか?」
「べ……別に、照れてなんか……」
「でも、顔が赤いですよ」
「え?」

 バカな! 酒を飲んでも赤くならない僕の顔が、このぐらいで赤くなるわけ……

「嘘です」

 そう言ってミールは、僕に飛びついて唇を重ねてきた。

 おい……みんなの見ている前で……
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