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第十六章

乗っ取られたテントウムシ

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 テントウムシに、ウイルスが感染しているだと?

 エラが言おうとしていた事は、それだったのか?

『ただし、わしの記憶違いの可能性もある。ロボットの映像をそっちへ送るから、母船のデータと照合してみるがよい』

 ジジイが送ってきた映像に映っていた親指サイズのロボットは、長方形のボディに六本の足が付いていて、先端にUSB端子のような物があった。

 自走するUSBメモリーの様だ。実際そうなのだろう。

 早速 《イサナ》にデータを送った。

 しかし、ジジイの記憶違いかもしれないが、事実だとしたら《イサナ》の返事など待っていられない。

「ミク! すぐにテントウムシから降りるんだ」
『え? なんで?』
「いいから、理由は後で説明する」
『うん。分かった。開けて』

 ミクが『開けて』と言ったが、テントウムシのガルウイングが開く様子はない。

 手遅れだったのか。 

 程なくして《イサナ》から送られてきたデータによると、この小型ロボットはコンピューターの近くに置いてやると、自動的にUSBの差し込み口を探し、そこからウイルスを送り込むらしい。

 ネットに接続されていないテントウムシを、外部からハッキングする事はできないが、テントウムシのキャビン内にはUSBの差し込み口がある。

 このロボットが、そこからウイルスを送り込んだとしたら……

「ミク。外へは出られないか?」
『ダメ。ガルウイングが開かないよぉ』

 それなら……

 テントウムシ内にいるミニPちゃんを呼び出した。

「Pちゃん。テントウムシの状況は?」
『先ほどから、私のコントロールを受け付けません』

 完全に乗っ取られたか。

「しかし、いつの間にユキちゃんにあんな物が?」

 僕の横で芽依ちゃんが呟くように言う。

「最初にユキちゃんが来たとき、金属探知機にかけました。毛の中にあんな物があれば、分かるはずです」

 それもそうだな。

「芽依ちゃん。金属探知をやったのは一回だけかい?」
「ええ。そうですけど……ではその後に……あの時!」
「何か、心当たりがあるのかい?」
集団暴走スタンビートのあった時です」

 あ!

「あの時、ユキちゃんは大人のヤギと接触しました。その時に、大人のヤギに潜んでいたロボットが、ユキちゃんに飛び移って毛の中に潜り込んだのでは?」

 しかも、その後に子ヤギをテントウムシに乗せてしまった。あの時にやられたのか。

 それじゃあレム神の目論見は最初からテントウムシのハッキングであって、集団暴走スタンビートもスパイダーによる攻撃も、僕達の目をそこから逸らせるため!

 中央広場でアンドロイド一体を連れ去ったのも、カルルの間違えなどではなく、ミクを確実にテントウムシに乗り込ませるためだったのか……いやいや、カルルの事だからマジにやったのだろうな。

 それはともかく……

 今まで動かなかったテントウムシが突然走り出した。

 猛然と中央通路に向かっていく。

「芽依ちゃん。追いかけてくれ。僕も後から行く」
「分かりました」

 芽依ちゃんの九九式が、テントウムシを追いかけていくのを確認すると、僕は通信機で橋本晶に指示を出してから環状通路に戻った。

 そこでは、Pちゃんが目を瞑ったまま体育座りしている。

 まるで眠っているようだ。

 Pちゃんを抱き抱えると、僕は芽依ちゃんの九九式が出しているビーコンを追って駆けだした。

 程なくして、前方に桜色の九九式が見えてくる。

「芽依ちゃん。追いつけそうかい?」
「難しいです。テントウムシが、こんなに早く走れるなんて」

 通信機からミクの悲鳴が聞こえてくる。

『お兄ちゃん助けて! テントウムシが、止まらないよぉ!』

 そうしている間に、テントウムシは中央広場に入る。

 時空穿孔機の正面には、何もない空中に、輝く円盤のようなものが浮かんでいた。

 あれがワームホールなのか?

 テントウムシは、その輝く円盤へと一目散に向かっていき中へと飛び込む。

 あの向こうはどこへ繋がっているのだ?

 テントウムシが飛び込んだ直後、ワームホールは消滅した。

「カイト・キタムラ、あきらめろ。ワームホールはすでに閉じた」

 その声は、時空穿孔機の台座の上からだった。

 見上げると、一人の男が立っている。

 あれは、レムのクローン人間。
 
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