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第十六章

光る穴

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 テントウムシから降りないと大変なことになるだと?

 いや、ミクをテントウムシから引きずり出すためのはったりだろう。

 はったりだとは、思うのだが……

「それはどういう事だ? エラ」
「知りたければ、取引に応じろ」
「それはできない。というか、どうせはったりだろう」
「ええい! 後悔しても知らんぞ!」

 エラの連射プラズマボールが、アクロの右腕を吹き飛ばした。

 しかし、その時点ではアクロの左腕も首も再生が終わっている。

「くそ! 奴の憑代よりしろはどこだ!?」

 ちなみに式神や分身体の憑代は、デジカメで見れば簡単に分かるので、僕にはそれがアクロの下腹付近……いわゆる丹田たんでんにあるのが分かっていた。

 今のところエラは、見当違いなところばかり攻撃しているが……

「おばちゃん。そろそろ覚悟を決めてね」

 アクロが拳を振り上げた。

 これから、一気に間合いを詰めてエラを叩き潰す……と、思ったその時……

「アレンスキー大尉!」

 エラの背後から、一人の少年兵が駆け寄ってきた。

「大尉! あいつらが始めました」

 何を始めたというのだ?

 だが、それより問題は……

「いいところへ来た」
「アレンスキー大尉! 何を?」

 エラは少年兵をガシっと羽交い締めにして、そのまま彼をアクロの方へ突き出す。

「式神使い! これを見ろ。私を叩き潰せば、こいつも死ぬぞ」
「その子は、あんたの部下じゃないの?」
「部下? 違うな。こいつは、私に脅迫されて嫌々従っている哀れな犠牲者だ。さあ、式神使いよ。こいつを犠牲にできるか?」
「卑怯よ! エラ!」
「卑怯? ほめ言葉と取っておこう」
「く!」
「それより式神使いよ。私相手に、遊んでいる場合ではないぞ。この少年兵は、今まで中央広場へ偵察に行かせていた。おい、少年兵。広場で帝国軍が何をしていたか、こいつらに教えてやれ」
「はい。中央広場で、光る穴が開いていました」

 光る穴? ワームホールか!

「聞いての通りだ、式神使いよ。このまま私を倒したら、その直後にレム神は、おまえを中央広場に開いたワームホールから連れ去る気だぞ」
「ふうん。そうだったんだ。でも、いくらワームホールを開いたって、あたしをどうやってそこまで連れて行くの? テントウムシの防御は完璧だよ」

 そうだ。テントウムシから、ミクを引きずり出すなど無理。

 ……引きずり出すのは無理だが、テントウムシごと拉致するのでは?

 いや、テントウムシごと拉致するとしても、それを可能とする機動兵器は近くに見あたらない。

 地雷原の向こうにスパイダー三体があるが、こっちへ来る様子も……なぜ、来ないのだ?

 帝国軍の装備で、テントウムシを拉致できる装備はスパイダーしかないはずなのに、まったく動きがない。

 何か他に手段があるのか?

「テントウムシの中にいる限り、あたしには手を出せないよぉ。だから、あたしが自分から降りるように、そんな嘘をついているだけでしょ? おばちゃん」
「嘘ではない!」

 言いながら、エラはプラズマボールを連射。

 偶然にもそれは、アクロの丹田に穴を穿った。

「あらら、見つかっちゃった」

 アクロが光の粒子となって消滅する。

「式神使い。今すぐ、その乗り物から降りろ! そのテントウムシという乗り物は、すでに……うああああ!」

 突然、エラは悲鳴を上げ、羽交い締めにしていた少年兵を手放した。

 そのまま前のめりに倒れる。

 何があったのだ?

「あたしの式神が一体だけだなんて、いつから錯覚していたの?」

 倒れたエラの後には、金色に輝く竜……式神オボロが浮かんでいた。

 その竜の上には、白いウサギ式神……赤目が乗っている。

 そうか! 

 ミクの奴、エラに気づかれないように赤目に憑代を持たせてエラの背後に回り込ませて、そこでオボロを顕現させたのだな。
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