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第十六章

短気は損気

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 式神に同行させたドローンの映像を見ると、エレベーターホール前に白旗を掲げた少年兵達十二名が整列していた。

 床の上に銃が積み上げられていているところから見て、抵抗の意志はないらしい。

 エラの話では少年兵の数は十五人。三人は、戦闘で死んだという事か。

 整列している十二人の中には、負傷している子もいるな。

 早いとこ手当してやらないと……

 それはそうと、ミクの言うとおりエラの姿がどこにもない。

 僕はマイクを手に取って、少年兵達に話しかけた。

「君たち。エラ・アレンスキー大尉はどこへ行った?」

 少年兵の一人が口を開く。

『エレベーターで、第六層に行きました』
「エレベーター? 動かせるのか?」

 すると少年兵は、エレベーター横の制御盤らしいところを指さす。

 そこでは、窪みにはめ込まれた六芒星板がほのかな青い光を放っていた。

 あれはエレベーターの起動キーだったのか。

「第六層へ行ったと言ったな。エラ・アレンスキーは、第六層へ行って何をする気だ?」
『なんでも、帝国軍がこれからワームホールというものを開くそうです。それに便乗して逃げ出すとか……』

 そういう事だったのか。

 エラは、エレベーターまではなんとか使えたが、時空穿孔機までは操作できなかったようだな。

 だから、帝国兵がワームホールを開くのを待って、そこから逃げ出す魂胆だったのか。

 しかし……

「帝国軍は、ワームホールを開いてどうするつもりだったのだ?」
『帝国軍の目的は分かりません。ただ、アレンスキー大尉はそれを知っていたようです。なんでも、この事をカイト・キタムラに教えてやれば、奴も喜んで取引に応じるだろうと言っていました』

 なぬ?

 別の少年兵が口を開く。

『さっきあなたが通信を切った後『人の話は最後まで聞けよ! 気の短い奴だ』と、言って怒っていましたよ』

 う! 短気を起こすんじゃなかった。 

 まあ、やっちまったものはしゃあないか。

「とにかく、エラの事は分かった。それで君たちの事だが、僕に投降する事を希望しているのだね? もし、帝国軍陣地に戻ること希望する子がいるなら戻ってもかまわないが……」
『投降します』『お願いします』『僕達をリトル東京に連れて行って下さい』

 ええっと……一人もいないのか? 戻りたい子は?

 ヘリコプター二機じゃ、乗せ切れないぞ。

 しゃあない。時間はかかるけど、この子達は《海龍》で連れていくか。

『もう帝都なんか戻りたくない!』『軍隊なんかいやです!』

 いったい、この子たちは帝都でどんな扱いを受けていたのだ?

「分かった。君たちの希望は分かった。エラ・アレンスキーを始末したら迎えに行くから、この場所で待機していてくれ」

 さて、この後どうするか?

 僕達の目的は、マテリアル・カートリッジの回収。

 エラも少年兵達も邪魔をしないのなら、さっさとカートリッジを回収し、エラなど放置して帰ってもいいのだが、問題は……
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