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第六章
どうしたものか?
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「脱着」
ロボットスーツを着脱装置に戻すと、『修復中』の文字が表示された。
予定時間は八時間。
その間は戦えない。
数日前から拠点にしていた、森の中に作った臨時ベースは、城からあまり離れていないのでいつ見つかるか分からない。
早いとこ逃げ出すしかないな。
まあ、ここは作戦が終わり次第、引き払う予定だったら問題はないが……
「カイトさん!」
Pちゃんとキラと手分けして荷物をまとめていると、背後からミールが抱きついてきた。
さっきから、姿が見えないと思っていたけど……
キラが一瞬こっちを見て、気まずそうに顔を背ける。
「お師匠……その……そういうことは……」
「あたしは、修行が終わったからいいのです。キラも殿方にこういう事をしたかったら、早く修行を終えなさい」
そう言って、ミールは一層強く抱き着いてきた。
「ミール。どこに行っていたんだ?」
「ダモン様と、ベジドラゴンの長老のところへ行っていました。これから、ダモン様の奥様を救出に行くので、運んでもらう打ち合わせに……」
ミールは、頬を摺り寄せてきた。
「カイトさん。助けに来てくれると信じていました」
「そ……そう。どう……いたし……まし……」
ああ! 僕は何を言ってるんだあ! すっかり、しどろもどろだ!
あ! Pちゃんが怒っている。
「ご主人様、ミールさん。いちゃついてるヒマがあったら、荷造りをして下さい。いつ帝国軍がくるか分からないのですよ」
「少しぐらい、いいじゃないですか。気の利かないお人形さんですね。ねえカイトさん」
「え? いや……その……」
僕に、同意を求められても……
そうしている間に、Pちゃんが詰め寄ってきた。
「ミールさん。まさかと思いますが、ヒーローに救出されるヒロイン気分を味わいたくて、わざと捕まったのではないでしょうね?」
「そ……そんな事、あるわけ……ないじゃないですか。いやですねえ……ははは」
一瞬、口ごもった。まさか……ん?
ダモンさんが、こっちを見て目を丸くしていた。
「ミール」
僕は小声で囁く。
「ダモンさんが、こっちを見ているのだけど……」
ミールは慌てて、僕から離れた。
ダモンさんが歩み寄ってくる。
「引っ越しの準備かね?」
「ええ。ここにはもう用はないし、それに……」
僕は森の一点を指差した。
「木に遮られて見えないけど、この先に地下道の入り口があるのです。今、爆破すると、ここまで爆風が来るかもしれないので……」
「そうなのか。ところで爆破のタイミングだが、私の女房子供の安全が確認された時点という事だったが……」
ダモンさんは、さっき僕が渡した通信機を出した。
「どうも、こいつを使う自信がない。ミールの分身を一体、連絡用に残すという事ではどうかな?」
「大丈夫です。通信機は、ミールが使えますから」
「そうか……」
「それより、そっちもいいんですか? 救出に僕が行かなくて? スーツが修理中なので、あまり戦力にはなれませんが」
「関所の戦力なら、ミールの分身だけで制圧できる。それより、君にやってほしい事がある」
「爆破なら、関所からでもできますよ」
「そうではない」
ダモンさんは、チラッとミールに目をやる。
「ミール。先に行っていてくれ」
「え? あ……はい。それじゃあ、カイトさん。後ほど」
ミールは、森の中へ消えていく。
ミールに聞かせたくない事でも……
「城を爆破する前に、ネクラーソフに呼びかけてほしい。城から逃げろと」
「なぜ、そんな事を?」
「誤解しないでほしい。これは決して、情けをかけるわけではない」
「では、なぜ?」
「戦争は、いつかは終わらせなければならない。そのためには、交渉相手が必要だ。ネクラーソフは決して善人ではないが、帝国では珍しく柔軟な思考を持っている。帝国人のほとんどはナーモ族を下等種族と見下しているが、あの男は我々にも敬意を払っていた」
「言われてみれば」
ミケ村で会った帝国人はおかしな宗教に洗脳されていて、ナーモ族を下等どころか悪魔の作った知生体だとか言っていた。
「私はネクラーソフと接している間に、帝国も一枚岩ではないことが見えてきた。君の言う宗教に洗脳されている者と、その宗教に反感を持っている者とがいるのだ。ネクラーソフは表では神に祈りを捧げていたが、裏では……特に私と二人切りの時は、平然と神を罵っていた。あんなのは神ではない。愚民を操るために、誰かが創作した似非神だと」
「似非神?」
「帝国の大半は似非神を信奉しているが、そうではない者もいる。ネクラーソフは後者で、数少ない有力者だ。彼には、生きて帝都に戻り、和平交渉の相手になってもらいたい。似非神の信奉者では話にもならないからな」
「なるほど。でも、僕の言う事を信じるでしょうか?」
「もし、信じなければ、あの男はそれまでの男という事だ。とにかく、あの男に生き延びるチャンスを与えてほしい」
どうしたものか? ここで、帝国兵を皆殺しにしたところで帝国本体は無傷。いつかは和平交渉しなければならないのは事実だ。
僕としては、当面の間、旅の邪魔をされなければいいわけだが……
ロボットスーツを着脱装置に戻すと、『修復中』の文字が表示された。
予定時間は八時間。
その間は戦えない。
数日前から拠点にしていた、森の中に作った臨時ベースは、城からあまり離れていないのでいつ見つかるか分からない。
早いとこ逃げ出すしかないな。
まあ、ここは作戦が終わり次第、引き払う予定だったら問題はないが……
「カイトさん!」
Pちゃんとキラと手分けして荷物をまとめていると、背後からミールが抱きついてきた。
さっきから、姿が見えないと思っていたけど……
キラが一瞬こっちを見て、気まずそうに顔を背ける。
「お師匠……その……そういうことは……」
「あたしは、修行が終わったからいいのです。キラも殿方にこういう事をしたかったら、早く修行を終えなさい」
そう言って、ミールは一層強く抱き着いてきた。
「ミール。どこに行っていたんだ?」
「ダモン様と、ベジドラゴンの長老のところへ行っていました。これから、ダモン様の奥様を救出に行くので、運んでもらう打ち合わせに……」
ミールは、頬を摺り寄せてきた。
「カイトさん。助けに来てくれると信じていました」
「そ……そう。どう……いたし……まし……」
ああ! 僕は何を言ってるんだあ! すっかり、しどろもどろだ!
あ! Pちゃんが怒っている。
「ご主人様、ミールさん。いちゃついてるヒマがあったら、荷造りをして下さい。いつ帝国軍がくるか分からないのですよ」
「少しぐらい、いいじゃないですか。気の利かないお人形さんですね。ねえカイトさん」
「え? いや……その……」
僕に、同意を求められても……
そうしている間に、Pちゃんが詰め寄ってきた。
「ミールさん。まさかと思いますが、ヒーローに救出されるヒロイン気分を味わいたくて、わざと捕まったのではないでしょうね?」
「そ……そんな事、あるわけ……ないじゃないですか。いやですねえ……ははは」
一瞬、口ごもった。まさか……ん?
ダモンさんが、こっちを見て目を丸くしていた。
「ミール」
僕は小声で囁く。
「ダモンさんが、こっちを見ているのだけど……」
ミールは慌てて、僕から離れた。
ダモンさんが歩み寄ってくる。
「引っ越しの準備かね?」
「ええ。ここにはもう用はないし、それに……」
僕は森の一点を指差した。
「木に遮られて見えないけど、この先に地下道の入り口があるのです。今、爆破すると、ここまで爆風が来るかもしれないので……」
「そうなのか。ところで爆破のタイミングだが、私の女房子供の安全が確認された時点という事だったが……」
ダモンさんは、さっき僕が渡した通信機を出した。
「どうも、こいつを使う自信がない。ミールの分身を一体、連絡用に残すという事ではどうかな?」
「大丈夫です。通信機は、ミールが使えますから」
「そうか……」
「それより、そっちもいいんですか? 救出に僕が行かなくて? スーツが修理中なので、あまり戦力にはなれませんが」
「関所の戦力なら、ミールの分身だけで制圧できる。それより、君にやってほしい事がある」
「爆破なら、関所からでもできますよ」
「そうではない」
ダモンさんは、チラッとミールに目をやる。
「ミール。先に行っていてくれ」
「え? あ……はい。それじゃあ、カイトさん。後ほど」
ミールは、森の中へ消えていく。
ミールに聞かせたくない事でも……
「城を爆破する前に、ネクラーソフに呼びかけてほしい。城から逃げろと」
「なぜ、そんな事を?」
「誤解しないでほしい。これは決して、情けをかけるわけではない」
「では、なぜ?」
「戦争は、いつかは終わらせなければならない。そのためには、交渉相手が必要だ。ネクラーソフは決して善人ではないが、帝国では珍しく柔軟な思考を持っている。帝国人のほとんどはナーモ族を下等種族と見下しているが、あの男は我々にも敬意を払っていた」
「言われてみれば」
ミケ村で会った帝国人はおかしな宗教に洗脳されていて、ナーモ族を下等どころか悪魔の作った知生体だとか言っていた。
「私はネクラーソフと接している間に、帝国も一枚岩ではないことが見えてきた。君の言う宗教に洗脳されている者と、その宗教に反感を持っている者とがいるのだ。ネクラーソフは表では神に祈りを捧げていたが、裏では……特に私と二人切りの時は、平然と神を罵っていた。あんなのは神ではない。愚民を操るために、誰かが創作した似非神だと」
「似非神?」
「帝国の大半は似非神を信奉しているが、そうではない者もいる。ネクラーソフは後者で、数少ない有力者だ。彼には、生きて帝都に戻り、和平交渉の相手になってもらいたい。似非神の信奉者では話にもならないからな」
「なるほど。でも、僕の言う事を信じるでしょうか?」
「もし、信じなければ、あの男はそれまでの男という事だ。とにかく、あの男に生き延びるチャンスを与えてほしい」
どうしたものか? ここで、帝国兵を皆殺しにしたところで帝国本体は無傷。いつかは和平交渉しなければならないのは事実だ。
僕としては、当面の間、旅の邪魔をされなければいいわけだが……
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