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第十六章

取引

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 青年兵たちが一斉に倒れたのは、中継機を破壊したせいだったのか。

 しかし、僕が第五層でこれを破壊したときは、BMIを潰してクローン人間はそのままにしておいたというのに、こいつは……

「エラ。カプセルの中に、生きている人間がいただろう?」
『さあ? 確かにカプセル内に人間はいたが、生きているのか死んでいるのかは分からなかった。とりあえず、プラズマボールを浴びせて確実な死体に変えてやったぞ』

 やはり、こいつは同じエラでも、No.1ファーストとは違うようだな。

『それで、カイト・キタムラよ。この装置は、いったいなんだ?』
「プシトロンパルス中継装置だ」
『なんだ? それは?』
「簡単に言うなら、レム神が人を操るのに使っている装置だ。これが壊れたので、今までレム神に操られていた兵士たちが一斉に倒れた」
『なるほど。では、私の推測は正しかったのだな』
「それだけじゃないぞ。あんたはNo.3サードだったな。今、No.2セカンドとシンクロできないだろう?」
『なぜそれを? 確かに、さっきからNo.2セカンドの声が聞こえてこないのだが……まさか! その装置が……』
「そのまさかだ。この装置は、あんたとNo.2セカンドも中継していた」
『そうだったのか! しかし、これで少し安心できた。No.2セカンドまでが死んだのかと思って心配していたぞ』

 他人の命などなんとも思わないこいつが、自分のコピー仲間だけは心配する。やはり、ジジイの言っていた通り、エラは七人だけの世界を作り上げていたのか?

 だから、自分とシンクロできる仲間は大切にするが、他人には冷酷になっていたのか?

『それで、カイト・キタムラよ。これが肝心なことだが、これを破壊したことによってレム神による監視はなくなったのか?』

 監視? そうか!

 エラは中継機を破壊した事によって、本当に監視の目が無くなったのか判断が付かなかった。

 だから、僕からそれを確認するまでは、監視を警戒して、今後の予定を話さなかったのか。

「中継機を破壊したことによって、レム神による直接監視は無くなった」
『本当か? それなら……』
「ただし、他の方法で監視をしていないという保証はどこにもない」
『他の方法とは?』
「盗聴機とか、監視カメラとか」
『なるほど』

 エラはそう言ってから、近くの小部屋に入った。

 一分ほどしてから出てくる。

『この部屋の中で、高周波磁場を使った。中に盗聴機やカメラの類いがあったとしても破壊されているはずだ。ここに入ってくれ』
「分かった」

 ドローンはエラに付いて部屋に入った。

『カイト・キタムラよ。ここならレム神に聞かれる心配はない』

 ここでもし、僕の仲間になりたいとか言い出したら、どうやって断ろうか?

「僕に何か話があるのか?」
『おまえと取引をしたい』
「取引?」
『さっきの倉庫に、おまえの目的の物があるのだろう。そんな物はくれてやるから、私が少年兵と逃げる手助けをしてくれ』
「逃げる手助けだと?」
『そうだ。おまえにとっても、悪い話ではないだろう』
「少年兵も、全員連れていくのか?」

 さっきは、僕が来たら投降しろとか言っていたのに……

『さすがに全員は無理だ。連れて行くのは二~三人だけ。後は投降させるから、おまえの好きにしていい』

 好きにしていいだと? もちろん、投降して来た少年兵は人道的に扱うが……

「あんたが連れていく少年兵たちは、どうするつもりだ?」
『もちろん、私が可愛がってやる』

 こいつの『可愛がる』の意味は、聞くまでもないな。

「その取引には、応じられない」
『なぜだ?』
「僕には、何のメリットもないからだ」
『なぜだ? おまえは欲しい物が手に入って、私は命が助かる。いいことずくめではないか』
「僕の欲しい物は、ここでおまえを倒せば手に入る。取引の必要はない」
『おまえは、無益な殺生は嫌いなのだろ?』
「ああ嫌いだ。だから、無益な殺生を好んで行うおまえは生かしておけない」
『おまえ、No.5フィフスから痛ぶられた事を、根に持っているのか?』
「なぜ、根に持っていないと思えるのだ?」
『心の狭い奴だな。私の拷問をご褒美と喜ぶ男もいるのに』
「僕にそういう趣味はないし、そういう事は抜きにしても、おまえは生かしておくには危険過ぎる」
『私の電磁能力が、危険だというのか?』
「能力の事だけではない。他人の痛みを理解できないだけでなく、他人を痛めつけて興奮するその性格が危険だと言っているのだ」
『それの何がいけないというのだ? 他人の痛みなど理解できるわけがないだろうし、確かに私は人を痛めつけて喜んでいるが、今後おまえとおまえの関係者には手を出さない事を約束する。だから……』

 だめだ、こいつ……

「僕の関係者は全人類だ。僕と面識のない子供でも、痛めつける事は許さない」
『全人類? いや、いくら何でも、顔が広すぎないか?』
「話はここまでだ。今から、おまえを倒しにいく」
『待ってくれ! カイト・キタムラ! いったい何がいけないと言うのだ!? おまえと関係のない人間がどうなろうと……』

 これ以上、エラの声を聞きたくなかった。

 僕はドローンのマイクを切って、ミクの方を向き直る。

「ミク。いよいよ、出番だ。アクロを出してくれ」
「オッケーお兄ちゃん」

 ミクは憑代よりしろを床に置いた。

いでよ! 式神!」 

 人型に切り抜かれた憑代は、見る見るうちに巨大な鬼と化す。

「いけ! アクロ!」

 アクロが地下通路を駆けていったのを確認すると、ミクはテントウムシの中に避難した。
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