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第十六章

最後のカートリッジ

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 カツーン! カツーン!

 甲高い足音を立てて、エラは放射状通路を進んでいく。

 やがて、放射状通路と最外郭環状通路が交わる丁字路でエラは立ち止まった。

 そこの壁にある大きな扉をエラは指さす。

『カイト・キタムラ。この中に、おまえの欲する物があるそうだ』

 僕の欲する物?

 という事は、この中に最後のレアメタルカートリッジが……

『私は、おまえの手からここを守るように命令されていた。だが……この命令は、どうも気に入らない』
「何が、気に入らないと言うのだ?」
『私に付けられた部下は、二十歳はたちぐらいの青年兵八名と十二~三歳の少年兵が十五名。装備は自動小銃のみ。おまえが本気で攻めてきたら、私に勝ち目などないのは明白だ。私は、捨て駒にされたような気がするのだ』

 実際にそうだからな。レム神は、こいつを粛正するつもりだし……

『何より兵士たちは、どう見ても精鋭ではない。少年兵も青年兵も美形揃いではあるが、戦闘訓練などほとんど受けていない者ばかり。特に少年兵は、実戦で役に立つような兵士ではない。おそらく、私が変な気を起こさないようにと、慰み者なぐさみものとして送られてきたのだろう』

 その推測は正しい。というか、エラの慰み者にする以外に、少年兵を送り込む理由がないだろうな。

 しかし……

「少年兵たちは、さっき戦っていたではないか?」
『確かに戦っていた。だが、最初のうち、少年兵たちは銃の扱い方もろくに分かっていなかった。だから、おまえが来るまでの間に電撃で拷問して、無理矢理銃を覚えさせた』

 ひでえ……

『青年兵はそれなりに戦えるようだが、シロートに毛が生えた程度だ。それより気に入らないのは、こいつらは全員が同じ顔をしていること』
「全員美形という事だろう。何が、不満なのだ?」
『う! 確かに私好みの美形である事は認めるが……それで、ここに来てからしばらくの間は美少年、美青年に囲まれた状況を楽しんではいたが……』

 楽しんでいたんだ。

『青年兵たちが同じ顔をしているという事は、私と同じく同時複数再生されたコピー人間の可能性がある。もしそうなら、私と同じくシンクロする能力があるはず。奴らはその能力を使って、私を監視するために送り込まれたと推測したのだが』
「その推測は、少し訂正がある」
『なに?』
「彼らはコピー人間ではない。ある人物のクローン人間だ。……て、クローン人間って分かるか?」
『ああ、だいたい分かる。しかし、ある人物とは誰だ?』
「話すと長くなるのだが、あんたはレム神の正体を知っているのか?」
『私はオリジナル体の頃から、神など崇めていなかったが、レム神という存在が実在している事は知っている。そいつが何らかのトリックで、一部の人間を思い通りに操っている事も。だが、正体までは知らん』
「そうか。簡単に言うなら、レム神は元々レム・ベルキナという人間だった。今はコンピューターの中にいる精神生命体だ」
『まあ、そんなところだと思っていた』
「そして、ここにいた青年兵たちはレム・ベルキナのクローン人間で、レム神のコントロール下にある。彼らが、あんたを監視していたというのは間違いではない」
『つまり、レム神のクローンという事か?』
「若干違うが、外れてはいない。それで、あんたが僕に見せたい物とは、この倉庫の事か?」
『いや。私が見てもらいたい物とは、この先にある怪しげな装置だ。おまえなら、それが何か分かるのではないのか?』
「怪しげな装置だと?」
『そうだ。私の勘だが、どうもこの装置が私の監視に使われている気がしていた。そこで、少年兵たちに反乱を起こさせて、その隙に私が装置を破壊したのだ』

 まさか?

「青年兵たちが突然倒れたのは、その装置を破壊した直後じゃないのか?」
『ん? 言われてみれば、時間的に合っているな。それが分かるという事は、おまえはやはりあれに心当たりがあるのか?』
「心当たりはある。装置を見せてくれ」
『分かった。付いてこい』

 そう言って、エラは再び環状通路を歩き出した。

 エラに案内されて着いた場所はエレベーターホール。

 半開きの扉から、シャフト内に入った。

 そこでは、人一人入れる大きさのカプセルが黒こげになって破壊されている。

 カプセルの中には、やはり黒こげになった人の死体が……

 そのカプセルからケーブルで繋がっている黒い立方体はBMI。

 やはり、ここにもプシトロンパルスの中継機があったのか。
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