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第十六章
やっぱこいつ最低だな
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映像に目を戻すと、エラは六芒星板をしげしげと見つめていた。
『ふむ。どうやら、これのようだな。よく見つけた』
そう言ってエラは、六芒星板を少年兵に返した。
『これはおまえが大切に保管しておけ。私が持っていると壊しかねない』
『は!』
少年兵は、それを恭しく受け取ると懐に入れた。
その時、別の少年兵が、恐る恐るエラの前に進み出る。
『大尉殿。僕たちはこれから、どうすれば? もう帝都には戻れません』
『おまえたち。帝都に未練はあるのか?』
少年兵たちは一斉に首を横にふった。
『だろうな。私なんかの慰み者にされるために、こんな地下深くに送り込まれたのだ。帝都でも、酷い扱いを受けていたのだろう』
誰も何も答えない。エラの言った事は事実なのか?
『さっきも言ったが、もうすぐカイト・キタムラがやってくる。そうしたら、投降しろ』
『でも、投降しても僕たち、酷い目に遭わされるのでは……?』
いや、そんな事はしないから……
『安心しろ。奴に関して帝国軍が流している情報はすべて嘘だ。カイト・キタムラは優しい男だ。子供に酷いことはしない。私とは違ってな』
自分が優しくない事は否定しないんだ。
『奴に投降すれば、リトル東京に連れていってもらえるだろう』
『でも、リトル東京に行ったら、僕たち奴隷にされるのでは?』
帝国では、そんなフェイクニュースまで流していたのか。
『それも嘘だ。私も最初はそれを信じていたがな。ところが、この前リトル東京を攻撃に行ったときに、奴隷にされている帝国人の子供がいたらついでに助け出してやろうと思って、子供が大勢いる建物に行ってみた』
『やはり子供たちは、奴隷にされていたのですか?』
エラは首を横にふる。
『いいや。その建物は学校だったのだ。子供たちは、そこで読み書きを教えられていた』
『読み書き?』
『そうだ。それでも、その子供たちは帝国人だ。私は連れ帰ろうとしたのだが、子供たちから激しく拒絶されてしまった。『帝国なんかに帰らない、ここがいい』と。せっかく助けに来てやったのにそんな事を言われて、なんか頭にきたので、その時は何人か殺してしまったのだが……』
ひでえ……
しかし、エラがリトル東京の学校を襲撃したというのは、そういう事情があったのか。
『さて』
不意にエラは周囲を見回した。
『これだけ派手に銃声を響かせたのだ。とっくに来ているのだろう。カイト・キタムラ』
う! 分かっていたのか。
芽依ちゃんが僕の方を振り向く。
「北村さん。どうします?」
ここは、このまま覗き見を続けるよりも、奴と話をした方が情報を得られそうだな。
「芽依ちゃん。ドローンの光学迷彩を解除して」
「よろしいのですか?」
「ああ。破壊されたら、別のドローンを送り込めばいいだけの事だ」
光学迷彩を解除すると同時に、僕の立体映像をドローンの上に投影した。
『わ! なんだ! こいつ?』『突然現れたぞ!』
少年兵たちが驚く中、エラはドローンの方へ歩み寄る。
『やはり、来ていたか。カイト・キタムラ』
「あいにくと、そこにいるのは僕の立体映像だけどね」
『それは分かっている。時に、No.1はそちらに身を寄せているそうだな。元気にしているか?』
「ああ、元気だ。元気におまえ達への復讐を考えているぞ」
『復讐か。同じエラ・アレンスキーであるというのに……仲直りは無理か?』
「仲直りしたいのか?」
『できればな。私も……いや、私とNo.2も帝国から逃げることにした。だから、先に逃げ出したとNo.1合流できるものならば合流したいと思っていたのだが、あいつやっぱり私たちを許していなかったのか?』
「自分たちの罪をすべてNo.1一人に被せるような事をしておいて、どうしたら許してもらえるなどと思えるんだ」
『心の狭い奴だな』
「心が狭いって? 元々、あんたと同じコピーだろ」
『う! まあ、そうだな。私が同じ事をされたら、絶対に許さないだろうな』
「そんな事より、帝国から逃げ出すと言ったな。どういう心境の変化だ?」
『どうもこうもあるか。私たちへの扱いがあまりにも酷いのでな。待遇改善も望めそうにない。ならば逃げ出すしかないだろう』
待遇か。確かに悪いな。戦って死ぬように仕向けられているのだから。
「なるほど。反乱を起こしたわけか。見たところ、少年兵たちがあんたの味方になっているようだが、どうやって味方に付けた?」
『簡単な事だ。ここにいる少年兵たちは、私の慰み者にするために送られてきた。ここで私にイビり殺されても問題のない孤児ばかりだ。だが逆に、帝国への忠誠心など元々ない。そこへ帝国の真実を教えてやれば、容易に私の側に付いてくれる』
「そいつは良かった。電撃で拷問して無理矢理従えているのかと思ったよ」
『ああ! 電撃での拷問はもちろんやった』
「やったんかい!」
『私の趣味だからな』
やっぱこいつ最低だな。
「それで、あんたはこれからどうしたいのだ?」
『その話をする前に、おまえに見てもらいたい物がある。ちょっと私に付いてきてくれるか』
エラは通路の奥へ歩き出した。
ドローンにその後を追わせる。
どこまで行く気だ?
『ふむ。どうやら、これのようだな。よく見つけた』
そう言ってエラは、六芒星板を少年兵に返した。
『これはおまえが大切に保管しておけ。私が持っていると壊しかねない』
『は!』
少年兵は、それを恭しく受け取ると懐に入れた。
その時、別の少年兵が、恐る恐るエラの前に進み出る。
『大尉殿。僕たちはこれから、どうすれば? もう帝都には戻れません』
『おまえたち。帝都に未練はあるのか?』
少年兵たちは一斉に首を横にふった。
『だろうな。私なんかの慰み者にされるために、こんな地下深くに送り込まれたのだ。帝都でも、酷い扱いを受けていたのだろう』
誰も何も答えない。エラの言った事は事実なのか?
『さっきも言ったが、もうすぐカイト・キタムラがやってくる。そうしたら、投降しろ』
『でも、投降しても僕たち、酷い目に遭わされるのでは……?』
いや、そんな事はしないから……
『安心しろ。奴に関して帝国軍が流している情報はすべて嘘だ。カイト・キタムラは優しい男だ。子供に酷いことはしない。私とは違ってな』
自分が優しくない事は否定しないんだ。
『奴に投降すれば、リトル東京に連れていってもらえるだろう』
『でも、リトル東京に行ったら、僕たち奴隷にされるのでは?』
帝国では、そんなフェイクニュースまで流していたのか。
『それも嘘だ。私も最初はそれを信じていたがな。ところが、この前リトル東京を攻撃に行ったときに、奴隷にされている帝国人の子供がいたらついでに助け出してやろうと思って、子供が大勢いる建物に行ってみた』
『やはり子供たちは、奴隷にされていたのですか?』
エラは首を横にふる。
『いいや。その建物は学校だったのだ。子供たちは、そこで読み書きを教えられていた』
『読み書き?』
『そうだ。それでも、その子供たちは帝国人だ。私は連れ帰ろうとしたのだが、子供たちから激しく拒絶されてしまった。『帝国なんかに帰らない、ここがいい』と。せっかく助けに来てやったのにそんな事を言われて、なんか頭にきたので、その時は何人か殺してしまったのだが……』
ひでえ……
しかし、エラがリトル東京の学校を襲撃したというのは、そういう事情があったのか。
『さて』
不意にエラは周囲を見回した。
『これだけ派手に銃声を響かせたのだ。とっくに来ているのだろう。カイト・キタムラ』
う! 分かっていたのか。
芽依ちゃんが僕の方を振り向く。
「北村さん。どうします?」
ここは、このまま覗き見を続けるよりも、奴と話をした方が情報を得られそうだな。
「芽依ちゃん。ドローンの光学迷彩を解除して」
「よろしいのですか?」
「ああ。破壊されたら、別のドローンを送り込めばいいだけの事だ」
光学迷彩を解除すると同時に、僕の立体映像をドローンの上に投影した。
『わ! なんだ! こいつ?』『突然現れたぞ!』
少年兵たちが驚く中、エラはドローンの方へ歩み寄る。
『やはり、来ていたか。カイト・キタムラ』
「あいにくと、そこにいるのは僕の立体映像だけどね」
『それは分かっている。時に、No.1はそちらに身を寄せているそうだな。元気にしているか?』
「ああ、元気だ。元気におまえ達への復讐を考えているぞ」
『復讐か。同じエラ・アレンスキーであるというのに……仲直りは無理か?』
「仲直りしたいのか?」
『できればな。私も……いや、私とNo.2も帝国から逃げることにした。だから、先に逃げ出したとNo.1合流できるものならば合流したいと思っていたのだが、あいつやっぱり私たちを許していなかったのか?』
「自分たちの罪をすべてNo.1一人に被せるような事をしておいて、どうしたら許してもらえるなどと思えるんだ」
『心の狭い奴だな』
「心が狭いって? 元々、あんたと同じコピーだろ」
『う! まあ、そうだな。私が同じ事をされたら、絶対に許さないだろうな』
「そんな事より、帝国から逃げ出すと言ったな。どういう心境の変化だ?」
『どうもこうもあるか。私たちへの扱いがあまりにも酷いのでな。待遇改善も望めそうにない。ならば逃げ出すしかないだろう』
待遇か。確かに悪いな。戦って死ぬように仕向けられているのだから。
「なるほど。反乱を起こしたわけか。見たところ、少年兵たちがあんたの味方になっているようだが、どうやって味方に付けた?」
『簡単な事だ。ここにいる少年兵たちは、私の慰み者にするために送られてきた。ここで私にイビり殺されても問題のない孤児ばかりだ。だが逆に、帝国への忠誠心など元々ない。そこへ帝国の真実を教えてやれば、容易に私の側に付いてくれる』
「そいつは良かった。電撃で拷問して無理矢理従えているのかと思ったよ」
『ああ! 電撃での拷問はもちろんやった』
「やったんかい!」
『私の趣味だからな』
やっぱこいつ最低だな。
「それで、あんたはこれからどうしたいのだ?」
『その話をする前に、おまえに見てもらいたい物がある。ちょっと私に付いてきてくれるか』
エラは通路の奥へ歩き出した。
ドローンにその後を追わせる。
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