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第六章

ドーマンセーマン

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 見ると、屋上の縁からカルルが這い上がろうとしていた。
「ピー!」「ギャー!」
 しかし、這い上がろうとしているカルルを、ロットとルッコラが空中から蹴りを入れたり、噛みついたりして邪魔している。
「よせ! やめろ。落ちる」
 カルルは右手で屋上の縁に捕まり、左手でロットとルッコラを追い払おうと振りまわしていた。
「エシャー。ロットとルッコラにやめさせてくれ。あの男に近づくのは危険だ」
「分カッタ」
 エシャーがベジドラゴンの言葉で何か叫ぶと、ロットとルッコラは離れていった。
「カイト、モウスグ、オ父サン、戻ル、待ッテテ」
「分った。エシャーはミールを乗せて逃げてくれ」
「カイトさん。あたしも……」
「ミールは、エシャーの上から分身たちを操作して」
「分かりました」
「僕は……」
 ようやく、屋上に上がったカルルを僕は指差した。
「こいつと決着をつける」
 ミールを乗せて、エシャーは舞い上がっていく。
「手こずらせてくれたな。北村海斗」
「手こずるのは、これからだ」
「ほざけ!」
 カルルが飛び掛かってきた。
 ガップリ組み合う。

 やはり……パワーは奴の方が上。

 どんどん押されている。
「ええい!」「やあ!」
 背後から二人の分身たちがミールズ、飛び掛かってきた。
 後ろから蹴りを入れられ、カルルは僕から離れる。
「くそ!」
 カルルは、またカードをかざした。
 その途端、分身たちの動きが硬直する。
 いったい、あのカードは?
「ブースト」
 僕のパンチを食らって、カルルの身体が吹っ飛んでいった。
 落としたカードを拾ってみると、五芒星ペンタグラムが描かれている。
「カルル。このカードはいったいなんだ?」
 カルルは、徐に起き上がってこっちを振り向いた。
「見ての通り、ドーマンセーマンさ」
「ドーマンセーマン?」

 確か、荒俣宏の『帝都物語』で、五芒星ペンタグラムの事をそのように呼んでいたと思ったが……

「北村海斗。おまえ、分身魔法を見て、何かに似ていると思わなかったか?」
「何かって?」
「式神だよ」
「式神!?」
 
 そういえば、安倍 晴明は十二の式神を使役していたというけど、ミールの分身も十二体。
 じゃあ、分身って式神と同じものなのか?

「俺は、この惑星で分身魔法を見て、すぐにこれは式神と同じく、タルポイド現象の応用だと分かったのさ」
「タルポイド現象? それって、人の想念が実体化する現象だったけ?」
「そうだ」

 以前に本で読んだことがある。タルポイドとは、人間の思考が、物質化してしまう超常現象。天使、悪魔、怪獣、妖怪、妖精の出現などは、人間の心の中にあるはずの存在が物質化したもの。

 しかし……

「それって、似非科学だろ?」
「そう思うか? では、この惑星で見た魔法という現象を、おまえはどう説明する?」
「どうって?」
「おまえが似非科学と言おうが、現実にこの惑星ではタルポイド現象が起きている。魔法こそ、まさにそうだ。分身が式神と同じ物なら、弱点も同じという事だ」
「弱点?」
「式神は五芒星や六芒星の模様を見せられると、しばらく動きが止まる。案の定、分身も動きが止まった。後はデジカメで憑代を見つけ出して破壊すれば分身は消える」
「しかし……式神なんて、ただの伝承だろ……本当にあるわけ」
「そう思うか? だが、電脳空間サイバースペースでも、自称式神使いだという女の子がいた。俺もお前も、ただの中二病の妄想だと思って相手にしなかったがな。ところが、こことは別の系外惑星で彼女を再生したところ、本当に式神を使いだしたのさ」
 
 そういえば、ミールは前に『地球には魔力の発動を抑制する要因があったのでは』と言っていたな。地球から離れれば、使えるようになるのか?

「さて、おしゃべりはここまでだ。決着をつけようぜ。バッテリーパージ」
 カルルのスーツから、外部電源が外れた。
「バッテリーパージ」
 僕も外部電源を外す。

 残時間二百七十秒

「行くぞ! 北村海斗」
「どこからでもかかってこい!」
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