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第六章

脱出

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 キスをしている間に、分身たちはミールズ穴からはい出してきていて、僕たちの周囲を護衛するかのように固めていた。
 穴の下を覗くと、カルルのスーツが蠢いている。
「カルルが目を覚ました。逃げよう!」
「はーい」
 僕はミールをお姫様抱っこしたまま走り出した。
 いや、ミールを降ろしてもいいのだが、降ろそうとしたら、しがみ付いて降車拒否されてしまったのだ。
 分身たちはミールズ、そんな僕らを取り囲むように走っている。 
「カイトさん。そこを右に行ってください。次を左です」
 
 僕は、タクシーじゃないんだけど……

「この先に、ダモン様の部屋があります。寄ってもらっていいですか?」
「ああ」
 
 そうか。この際だから、ダモンさんも一緒に連れて行こうというのだな。

 部屋の前に着くと、通路の床に三人の帝国兵が血を流して倒れている。
 
 死んでいるみたいだが、何があったのだろう?

 部屋の中に入って理由が分かった。
 
 そこには、二十人ほどのナーモ族が集まっていたのだ。
 城の中で強制労働させられていた人がほとんどだが、前回の戦いで捕虜になった城兵も二人いた。廊下に倒れていた兵国兵は彼らがやったのだ。
「ミール殿。ご無事でしたか」
 さすがに城兵たちの前では体裁が悪いと思ったのか、ミールは慌てて僕から飛び降りた。
「あなた達、無事だったのね」
「帝国軍は、城の構造が分からないため、案内役として生かされていました。もっとも、隠し通路や伝声管の事は黙っていましたが……」

 伝声管? そんなものまであったのか?

 僕はダモンさんの方を向いた。
「ひょっとして、伝声管で連絡を取り合っていたのですか?」
「ああ。帝国兵が地下へ入り口を探していた時、彼らに城内を案内させていた。帝国兵が入り口を見つける度に、彼らから伝声管で報告してもらい、私はその入り口付近にガスを送り込んで妨害していたのだよ」

 そういうカラクリだったのか。

「ミール……頼む……命だけは助けてくれ……」
 
 ん? なんだ? この死にそうな声は……
 
 声の方を見ると、アンダーがズタボロになって床に転がっていた。

 その姿を見てミールは驚く。
「な……なによ? あんた。なんで、そんなボロボロになっているのよ?」
「え? ミールがやったのじゃないの?」
 ミールは慌てて否定する。
「ち……違いますよ。カイトさん。優しいあたしが、そんな事するわけないじゃないですか」
 
 いや、この前思いっ切りやったけど……

「あたしは、二~三発で勘弁してやりました。こいつに、やってもらいたい事があるので」
「やってもらいたい事?」
「こいつは、城内のどこに、どれだけのナーモ族がいるか知っていたのですよ。だから、攻撃が始まったら、みんなに、この部屋に集まるように伝えてもらったのです」
「しかし、こいつも君と一緒に監禁されていたのじゃないのか?」
「ネクラーソフには、こいつは、あたしの奴隷パシリにして、監禁場所から出られないあたしの代わりに、外の用事をさせるという事にして生かしておいてのです。攻撃が始まって、あたしが地下牢に移された時は、牢番に『忘れ物があったから、アンダーに取りにいかせて』と言って、こいつだけ自由行動できるようにしたのですよ」
 
 僕はアンダーの方を向く。

「よく素直に従ったな。ネクラーソフに報告しようとか考えなかったのか?」
「だって、チクッたりしたら、今度こそミールに殺されるし……」
 アンダーの顔は恐怖に歪んでいた。
「しかし、それなら、なんでこんなに怪我をしているのだ?」
「それは、我々がやった」
 そう言ったのは、城兵の一人。
「こいつは、我々を裏切っていたそうだからな。本来なら、殺すところだが『命だけは助けてやる』とミール殿が約束したそうなので、半殺しで勘弁してやることにした」

 そういうことだったのか?

「カイト君」
 ダモンさんの方を向いた。
「ここにいる者たちを脱出させたら、私はあの計画を実行しようと思うのだ。君が来る前にバルブを全開したので、間もなく地下全体にガスが充満する。後は爆弾をセットするだけなのだが……」
「分かりました。それじゃあ爆弾を仕掛けてきますから、ダモンさんはみんなを連れて屋上へ行ってください。そこへ出れば、ベジドラゴン達が連れて行ってくれます」
「分かった。それでは頼んだぞ。私たちは、隠し通路から見張り塔に登って屋上に行く。君もすぐに追いかけてきてくれ」
 ミールの方を向いた。
「ミール。みんなの護衛を頼む」
「ええ! あたしも残ります」
「頼む。みんなを守ってくれ。それにガスが放出されている以上、地下へは僕しか入れないんだ」
「分かりました。でも、分身二体だけはつけさせて下さい」
「分かった」
 話がまとまると、ダモンさんは本棚をずらして隠し扉を開いた。
 僕は分身たちをミールズ伴って地下へ向かう。
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