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第十六章

非常にまずい事になった(ミールの事情)

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ミール「ここから二話は、あたしの事情をお送りします」
Pちゃん「あくまでもミールさんの語りですので、脚色されミールさんが美化されております」
ミール「失礼な! あたしは、いつも真実を述べています」


   ☆     ☆     ☆     ☆     ☆     ☆

 話は少し前に戻る。

 中央広場の台座の上にある巨大な時空穿孔機の下で、ミールは結跏趺坐けっかふざしていた。

 その状態で分身達ミールズを操っていたのだが、ミールの耳元でミニPちゃんが叫ぶ。

「ミールさん。敵がこっちへ向かって来ます」

 ミールは、すべての分身体を自立モードにして立ち上がった。

「Pちゃん。敵はどっちから来ます?」
「ご主人様たちが入っていった通路から、スパイダーニ体がやってきます」
「スパイダーは、三体いたのでは?」
「一体はご主人様たちを足止めしています」

 ミールはキラの方を振り向く。

「キラ。分身体を」
「承知」

 キラは懐から、短剣を取り出すと空中へ放り投げた。

 短剣が光り輝くと、もう一人のキラが現れる。

 キラの分身体だ。

 キラが回復薬を飲み込むと、分身体は戦闘モードになった。

「ああ、すっきりした」

 背後から突然聞こえたミクの声にミールは振り向くと、ミクがハンカチで手を拭きながらやってくるところだった。

「ミクちゃん? 何をしていたの?」
「何って、おトイレ」
「という事は、今はアンドロイドじゃなくて本物?」

 アンドロイドのミクと、本物のミクを何度もシャッフルしたせいか、ミールにもどれが本物か分からなくなってきていたのだ。

「だって、でおトイレいけないよう」

 非常にまずい事になった。

 今まではニ体のアンドロイドを用意して、敵の目を誤魔化していた。

 ニ体のうち、どちらかが本物だと敵に思わせるために、子ヤギの前で着替えさせる小細工もしていた。

 その間本物のミクは、をして正体を隠し、BMIを使ってアンドロイドを遠隔操作していたのだ。

 そこまでして隠していたのに、よりにもよってカルル・エステスのスパイダー隊がこれからやってくる矢先で正体を現してしまうなんて……

 トイレでは仕方ないとはいえ、タイミングが悪すぎる。

 ミールは素早く計算した。

 今から、に戻っている時間的余裕はない。

「ミクちゃん! すぐに隠れて! 敵が来るのよ」
「ええ!?」

 緑のスパイダーが広場に現れたのはその時……

 ミールの顔に一瞬緊張が走る。

「ミーチャはどこだ!?」

 スパイダーのハッチが開き操縦者が顔を出した。

 その顔を見て、キラは怪訝な表情を浮かべる。

「マルガリータ姫? なぜここに……」

 マルガリータ姫は周囲をきょろきょろと見回し、ほどなくして台座の上にいる少年を見つけた。

「おお! ミーチャ! 会いたかったぞ」

 実際にはミーチャの服装を着ているアンドロイドだが、マルガリータ姫の目当ては最初からミーチャなのでミクには見向きもしないでそっちへ向かう。

 そこへキラの分身体が飛びかかった。

「ミーチャは渡しません」
「む! キラ・ガルキナか。邪魔をするな!」
「邪魔をします」

 緑のスパイダーと戦い始めた分身体を操っているキラ本人にミールはささやく。

「キラ。あれは最終的に敵に渡してもいいダミーだけど、あまりあっさり渡しちゃだめよ」
「分かっています、師匠。ダミーだとばれないように真剣に戦います。それに……ダミーだと分かっていても、あの人にミーチャを取られたくはありません」
「そ……そう。がんばってね」

 ミールはミクの方を向く。

「ミクちゃん。キラが戦っている今のうちに小部屋に隠れましょう」
「うん」

 台座を降りて、小部屋へ向かう。

 だがその時、赤いスパイダーが中央広場に現れた。

「カルル・エステス!」

 ミールは思わず叫ぶ。
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