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第十六章

ジジイ一人だし問題ないよね

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 補給ロボットのトランクから出てきたのは、刃渡り十五センチのナイフ二丁。

 ナイフのグリップ部分内部には超伝導バッテリーとモーターが入っていて、スイッチを入れると超高速で振動して物体を切断できる高周波カッターというナイフだそうだ。

 カッターというだけあって、替え刃も用意してある。

 これを僕と芽依ちゃんで一丁ずつ装備することにした。

 橋本晶はすでに《雷神丸》と、脇差し《風神丸》があるので、それはいらないらしい。

「さて、作戦を説明しよう。Pちゃん、第六層の図面を出して」
「はい。ご主人様」

 傾斜路の壁に、プロジェクションマッピングによって第六層の図面が表示される。

 総面積は第四層、第五層と大差ないが、その構造は今までと少し違っていた。

 時空穿孔機のある中央広場を中心に、放射状に八方向へ延びていく通路と、やはり中央広場を中心にした三つの同心円状の環状通路が交差する構造になっている。

 僕らが今いる第五層への傾斜路と、カルル・エステスが待ちかまえている第七層への傾斜路の間には中央通路があるが、真ん中にある時空穿孔機の台座が邪魔で反対側の傾斜路の様子は見えない。

 僕らがいる傾斜路入り口から、環状通路を右方向へ九十度行った先に、直径三十メートルの円形広場があり、そこに外部への通路があった。

 今、その広場には帝国軍一個中隊が布陣している。

 僕はレーザーポインターで、第七層への傾斜路入り口を示した。

「知っての通り、僕たちの攻撃目標はここだ。しかし、真っ正直に中央通路から行くと、中央広場から先は僕たちの姿は丸見えとなり狙撃される」

 レーザーポインターを中央広場に当てた。

「そこでまず、中央広場にある時空穿孔機の台座に陣地を築く。そこから、ミールに分身体を作ってもらい、中央広場から傾斜路へ攻撃に向かってもらう。もちろん、ミール本人は陣地内に待機。キラとミクには陣地防衛を担当してもらう」

 レーザーポインターを、中央広場から延びている放射状通路に当てた。

「その間に、僕と芽依ちゃん、橋本君で、この放射状通路を通って最も外側の環状通路へ移動して、そこから傾斜路へ向かいカルル・エステスの部隊を側面から攻撃。制圧する」
「隊長。質問よろしいですか?」

 橋本晶が手を上げていた。

「カルル・エステスの部隊はそれでいいですが、外部通路入り口で待機している帝国軍はどういたします? あれを放置しておくと、我々がカルル・エステスと対峙している時に背後から攻撃されます」
「もちろんだ。それは考えてある。キラ、ポスターは用意できたかい?」
「ああ。もう書いてある」

 そう言って、キラはB1サイズの白い紙を広げた。

 それには『これより先地雷原』と帝国文字で書かれている。

「つまり、地雷原で敵を分断すると?」
「そうだ。すでにジジイには点検用トンネルを通って、帝国軍とカルル・エステスの部隊を繋いでいる環状通路に地雷原を構築してもらっている。もちろん帝国軍のいる広場から中央広場へ繋がる通路と、今僕たちがいる傾斜路へ繋がる環状通路にも作戦前に地雷原を構築する。これは僕らの手で行う。後は三カ所の地雷原の前に、このポスターを貼るだけだ」

 ミクが手を上げた。

「お兄ちゃん、なんで地雷がある事をわざわざポスターで教えちゃうの? そのまま突入させちゃえばいいじゃない」
「正直、地雷原と言っても、そんな大量の地雷が用意できたわけではない。犠牲をいとわないで突入されたら、容易に突破される程度の地雷しかないのだよ。だから『ここに地雷があるぞ』とポスターで知らせておくのさ。そうすれば帝国軍も入って来ない。要は足止めできればいいのさ。僕らの作戦が終わるまで」
「ふうん。そっかあ……」

 橋本晶が再び手を上げた。 

「地雷原を構築するのは分かりましたが、一番危険な場所をルスラン・クラスノフ博士一人に任せて大丈夫でしょうか?」
「ドローンもつけてある」
「しかし、危険では……博士が帝国兵に見つかったりしたら……」
「大丈夫だ。もし見つかったとしても、ジジイの妖怪じみた動きに帝国軍は対応できない」

 万が一失敗したとしても、死ぬのはジジイ一人だし問題ないよね……という事は言わないでおこう。

 死にそうもないけど……
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