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第十六章

ミールを乗せられない理由

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 傾斜路の前まで行くと、すでに動物たちは処何いずこかへと姿を消し、扉の前には輸送ロボが待機していた。

 さっそく傾斜路内に入って、ミールをヘリに乗せられない理由をたずねてみる。

「橋本君。ちょっと確認したい事があるのだが……」
「なんでしょう?」

 聞いてみると、理由はいたって単純シンプルだった。

「え? だってヘリコプターに、そんな大勢乗れませんよ」

 そうでした。

 ミールを乗せられないというのは、単に物理的な問題だったのだ。

 考えてみれば当然だな。

「隊長と森田さんが乗るのは当然として、カルカ防衛隊との連携を取るために、アーニャさんにはリトル東京に来ていただきたい。そして、リトル東京の科学者たちは、ルスラン・クラスノフ博士の到着を、首を長くして待っております。これにロボットスーツの着脱装置を三台積んで私が乗ると、これ以上は……」
「それなら、君がここに残ってもいいのではないのかい?」
「え!?」

 あれ? なんかショックを受けたような声……

 橋本晶は突然ヘルメットを外した。

 う! 目に涙を浮かべている。やばい事を言ったかな?

「隊長。自分の女を連れていきたいから、部下を置き去りにすると言うのですか?」
「あ! いや、そんなつもりは……それから、僕はまだ正式に隊長になったわけでは……」
「ヒドいです。隊長は公私混合するような人ではないと信じていたのに……」

 ええっと……

「私は、隊長にとって、その程度の部下だったのですね」
「え?」
「私は先代隊長から、うとまれているような気がしていましたが、やはり疎まれていたのですね」

 いや……先代の僕の事を言われても……

「当然ですよね。私は、すぐに刃物振り回すアブない女ですし……」

 自覚しているなら、なんとかしてもらえないでしょうか。

「隊長の命令を度々無視して独断専行するし……そのあげく勝手に危機に陥って、隊長や仲間の手を煩わせるし……」

 だから、僕にそれを言われても……

「橋本君」
「はい、隊長」
「先代の僕がそう思っていたのかは知らないが、少なくとも僕はそうは思っていない」
「本当ですかあ?」
「本当だ。君の事をすごく頼りにしているよ」
「本当ですね?」
「もちろんだ。イワンとの戦闘中に君が駆けつけてきてくれた時は、とても助かったと思っている」
「では、私はヘリに乗っていいのですよね?」
「も……もちろん……」

 でも、ミールは連れて行きたいし……

「北村さん」

 芽依ちゃんに呼ばれて振り向く。

「この際カートリッジを手に入れたら、《水龍》にそれを持ってカルカへ戻ってもらうことにして、ヘリに乗れなかったミールさん達は《海龍》でリトル東京へ行ってもらえれば」
「カルカ側が、それを承諾してくれるだろうか?」
「それは交渉次第かと」

 ミールの方を見ると、不安げな表情を浮かべている。

「ミール。聞いての通りだ。君は《海龍》でリトル東京へ向かってくれ。僕はそこで待っている」
「カイトさん。リトル東京まで、どのぐらいの時間がかかるのですか?」
「正確には計算しないと分からないけど、《海龍》の速度だと、ここからリトル東京まで一~二週間かな」
「そんな長い間、カイトさんと離れなければならないなんて……せめて……」

 ミールはお腹に手を当てた。

「ここに、カイトさんの赤ちゃん……」

 えええええ! 
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