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第六章

あれ? 名前間違えたかな?

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 奴は、不敵な笑みを浮かべていた。
「お前は……カール」
 奴の不敵な笑みが、少しだけ引きつった。

 あれ? 名前間違えたかな?

「ご主人様」
 Pちゃんが、僕の耳元でささやく。
「あの男は、カールじゃなくてカルルです。カールは、明治製菓のスナック菓子です」
「すまん、間違えた。カルルだったな。カルル……エグゾゼ」
 
 あれ? 奴の引きつった笑みが、怒りの表情に変わっていくよ。また間違えたかな?

「ご主人様。エグゾゼではなくてエステスです。エグゾゼは一九八二年に起きたフォークランド紛争でアルゼンチン空軍が、英国海軍駆逐艦シェフィールドを撃沈したときに使用した、おフランス製の空対艦ミサイルです」

 訂正だけしてればいい! 無意味な薀蓄すな!

「ああ、間違えた。カルル・エステスだったな」
『もういい! おまえが俺の名前を忘れていたという事は、よく分かった』
「怒るなよ」

 気の短い奴だな。

『別に怒ってなどいない』
 
 いや、怒っているだろう。眉間に皺よせて……

「で、僕になんか用かな?」
『あれから、かなり時間が経つが、気が変わって俺の申し出を受ける気になったか?』
「申し出? なんだったっけ?」
『忘れたのか?』
「うん」

 あ! なんか、怒りをこらえるようにプルプル震えている。

『俺たちと手を組まないか? と言ったはずだ』
「ああ! そのことか」
『この惑星で、おまえも、苦労しただろう? 俺たちと手を組めば楽になれるぞ。どうだ? 今からでも、俺たちと手を組む気にならないか?』
「ならないな。むしろ断って正解だったと、確信しているぐらいだ」
『ほう。なぜた?』
「お前の言う仲間というのは、帝国軍の事だろう?」
『その通りだ』
「奴らのやっている残虐行為をこの目で見てきた。奴らがこの惑星の国々を侵略している事も聞いた。そんな悪事に、加担するのはごめんだね」
『キレイ事言うなよ』
「キレイ事じゃない。お前こそ、よくこんな残虐行為に加担できるな」
『おまえ、自分の置かれている状況に、納得できるのか?』
「状況?」
『この惑星に送り込まれた俺たちは、もう地球に帰ることも、衛星軌道上の母船に帰ることもできない。この惑星で生きていくしか道がない。だというのに、地球の奴らが勝手に作った宇宙条約で俺たちの行動は縛られ、この惑星の住民に遠慮して生きていかなければならない。自分たちの国を作ることも許されない。ナーモ族から間借りした僅かな土地で、細々と生きていくしか、俺たちには許されないのだ』
「だから、リトル東京を裏切って、帝国に走ったのか?」
『ほう。誰に聞いた?』
「帝国の奴らに聞いたよ。あいつら、本当は地球人なんだろ。宇宙条約違反がばれて、処罰されるのを恐れて、この惑星の住民のふりをしているんだろ。まるで、宇宙人総理だね」
『それの、何が悪い?』
「なぜ、それが悪くないと言える?」
『あいつらは……帝国人も、生き残るのに必死だったんだ』
 必死だったら何やってもいいか? と、突っ込みたいところだが、もう少し話させてみるか。
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