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第六章
一石二鳥の作戦
しおりを挟む分身達が消えた後、PCを操作してネクラーソフ部隊の上空に浮かべてあるドローンからの映像を出した。
映像を見ると、帝国軍がかなり混乱している様子が窺える。
追いかけていたミールが、突然消えてしまったのだから当然だろう。
僕らが残して来たテントの周辺を拡大してみると、アンダーがネクラーソフに問いつめられているところだった。
アンダーに取り付けた盗聴マイクは、まだ健在だろうか?
お! まだ、使えた。
カメラの方は……残念、バッテリー切れだ。
とりあえず、音だけでも拾ってみよう。
『本当に、俺はここにいたんだよ。ミールも、ずっと俺を見張っていたんだ』
これは、アンダーの声だな。
『では、そのミールは、どこへ消えた?』
これは、ネクラーソフの声。
『さっきまで、いたじゃないか。みんな追いかけていただろう』
『確かにいた。だが、すべて分身だった。本体は、いったいどこにいる?』
『そう言われたって……俺は、あんたらみたいに分身を見破る機械は持っていなし……』
『うつけめ! ダモンとその妻は、肉眼で見抜けるそうだぞ。おまえもミールと付き合いが長いなら、そのぐらいの芸当は身につけておけ』
『そんな無茶な』
『アンダーよ。ミールは、分身をどれだけ離れたところからコントロールできるのだ?』
『さあ? 俺の知っている限りでは、隣村まで分身を買い物に行かせたというから十二キロぐらいかな』
アンダーは今『十二キロ』と言ったけど、本来は帝国の単位系を使っている。翻訳機がそれを自動的にメートル法に直しているのだ。
『十二キロだと!! それなら、ミール本人は城の近くにいながらでも、この場所の分身をコントロールできるわけだな』
どうやら、気がついたみたいだね。
『ええっと……どういう事だ?』
アンダーは、まだ分かっていないようだ。
『馬鹿者! おまえは、囮に使われたのだ。ミールは今頃、城にいるぞ』
『え? しかし、城にはまだ兵士がいっぱいいるだろう』
『確かに兵士はいる。しかし、デジカメは、ほとんどこっちへ持ってきてしまった。念のため、ワシの部屋に二つ残しておいたが……』
やはり、残していたか。
僕は通信機を操作してミールを呼び出した。
画面にミールが現れる。
『カイトさん。どうしました?』
「ネクラーソフが囮に気がついた。こっちへ戻ってくるぞ」
『わっかりました。それじゃあ、作戦を急ぎます』
「もっとも、帰ってくるのは、夜になるだろうけどね」
『何か、やったのですか?』
「途中の橋を、落としておいた。それと別ルートの崖を崩して道を塞いでおいた」
『さすが、カイトさん』
「この後で復旧作業をやるナーモ族には、申し訳ないと思うけどね。それと城に残してあるデジカメは、ネクラーソフの部屋にある二台だけらしい。だから、分身を奴の部屋に近づけなければ大丈夫」
結局、僕たちは地下道を使うことを諦めて、一石二鳥の作戦をやる事に切り替えた。
ベジドラゴンを逃がすと同時に、ミールはそのベジドラゴンに乗って脱出するのだ。
飛び上がったベジドラゴンを狙撃させないために、ベジドラゴンが閉じこめられているところとは反対側を、ドローンで爆撃して兵隊を引きつけておくのが僕の役目。
「ご主人様。菊花タイプ三機、準備できました」
プリンターの傍に、三機のジェットドローンが並んでいた。
「ありがとう。Pちゃん」
ドローンをコントロールするため、ヘッドマウンテッドディスプレイを装着した。
「よーし、今回は派手にやるぞ」
三機のドローンはジェットエンジンの轟音とともに、空へと舞い上がっていく。
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