上 下
133 / 848
第六章

一石二鳥の作戦

しおりを挟む

分身達ミールズが消えた後、PCを操作してネクラーソフ部隊の上空に浮かべてあるドローンからの映像を出した。

 映像を見ると、帝国軍がかなり混乱している様子が窺える。

 追いかけていたミールが、突然消えてしまったのだから当然だろう。
 僕らが残して来たテントの周辺を拡大してみると、アンダーがネクラーソフに問いつめられているところだった。
 アンダーに取り付けた盗聴マイクは、まだ健在だろうか?

 お! まだ、使えた。
 カメラの方は……残念、バッテリー切れだ。

 とりあえず、音だけでも拾ってみよう。
『本当に、俺はここにいたんだよ。ミールも、ずっと俺を見張っていたんだ』
 これは、アンダーの声だな。
『では、そのミールは、どこへ消えた?』
 これは、ネクラーソフの声。
『さっきまで、いたじゃないか。みんな追いかけていただろう』
『確かにいた。だが、すべて分身だった。本体は、いったいどこにいる?』
『そう言われたって……俺は、あんたらみたいに分身を見破る機械は持っていなし……』
『うつけめ! ダモンとその妻は、肉眼で見抜けるそうだぞ。おまえもミールと付き合いが長いなら、そのぐらいの芸当は身につけておけ』
『そんな無茶な』
『アンダーよ。ミールは、分身をどれだけ離れたところからコントロールできるのだ?』
『さあ? 俺の知っている限りでは、隣村まで分身を買い物に行かせたというから十二キロぐらいかな』
 アンダーは今『十二キロ』と言ったけど、本来は帝国の単位系を使っている。翻訳機がそれを自動的にメートル法に直しているのだ。
『十二キロだと!! それなら、ミール本人は城の近くにいながらでも、この場所の分身をコントロールできるわけだな』

 どうやら、気がついたみたいだね。

『ええっと……どういう事だ?』
 アンダーは、まだ分かっていないようだ。
『馬鹿者! おまえは、囮に使われたのだ。ミールは今頃、城にいるぞ』
『え? しかし、城にはまだ兵士がいっぱいいるだろう』
『確かに兵士はいる。しかし、デジカメは、ほとんどこっちへ持ってきてしまった。念のため、ワシの部屋に二つ残しておいたが……』

 やはり、残していたか。

 僕は通信機を操作してミールを呼び出した。
 画面にミールが現れる。
『カイトさん。どうしました?』
「ネクラーソフが囮に気がついた。こっちへ戻ってくるぞ」
『わっかりました。それじゃあ、作戦を急ぎます』
「もっとも、帰ってくるのは、夜になるだろうけどね」
『何か、やったのですか?』
「途中の橋を、落としておいた。それと別ルートの崖を崩して道を塞いでおいた」
『さすが、カイトさん』
「この後で復旧作業をやるナーモ族には、申し訳ないと思うけどね。それと城に残してあるデジカメは、ネクラーソフの部屋にある二台だけらしい。だから、分身を奴の部屋に近づけなければ大丈夫」 
 結局、僕たちは地下道を使うことを諦めて、一石二鳥の作戦をやる事に切り替えた。
 ベジドラゴンを逃がすと同時に、ミールはそのベジドラゴンに乗って脱出するのだ。
 飛び上がったベジドラゴンを狙撃させないために、ベジドラゴンが閉じこめられているところとは反対側を、ドローンで爆撃して兵隊を引きつけておくのが僕の役目。
「ご主人様。菊花タイプ三機、準備できました」
 プリンターの傍に、三機のジェットドローンが並んでいた。
「ありがとう。Pちゃん」
 ドローンをコントロールするため、ヘッドマウンテッドディスプレイを装着した。
「よーし、今回は派手にやるぞ」
 三機のドローンはジェットエンジンの轟音とともに、空へと舞い上がっていく。
しおりを挟む
感想 8

あなたにおすすめの小説

冤罪だと誰も信じてくれず追い詰められた僕、濡れ衣が明るみになったけど今更仲直りなんてできない

一本橋
恋愛
女子の体操着を盗んだという身に覚えのない罪を着せられ、僕は皆の信頼を失った。 クラスメイトからは日常的に罵倒を浴びせられ、向けられるのは蔑みの目。 さらに、信じていた初恋だった女友達でさえ僕を見限った。 両親からは拒絶され、姉からもいないものと扱われる日々。 ……だが、転機は訪れる。冤罪だった事が明かになったのだ。 それを機に、今まで僕を蔑ろに扱った人達から次々と謝罪の声が。 皆は僕と関係を戻したいみたいだけど、今更仲直りなんてできない。 ※小説家になろう、カクヨムと同時に投稿しています。

スライムからパンを作ろう!〜そのパンは全てポーションだけど、絶品!!〜

櫛田こころ
ファンタジー
僕は、諏方賢斗(すわ けんと)十九歳。 パンの製造員を目指す専門学生……だったんだけど。 車に轢かれそうになった猫ちゃんを助けようとしたら、あっさり事故死。でも、その猫ちゃんが神様の御使と言うことで……復活は出来ないけど、僕を異世界に転生させることは可能だと提案されたので、もちろん承諾。 ただ、ひとつ神様にお願いされたのは……その世界の、回復アイテムを開発してほしいとのこと。パンやお菓子以外だと家庭レベルの調理技術しかない僕で、なんとか出来るのだろうか心配になったが……転生した世界で出会ったスライムのお陰で、それは実現出来ることに!! 相棒のスライムは、パン製造の出来るレアスライム! けど、出来たパンはすべて回復などを実現出来るポーションだった!! パン職人が夢だった青年の異世界のんびりスローライフが始まる!!

ユーヤのお気楽異世界転移

暇野無学
ファンタジー
 死因は神様の当て逃げです!  地震による事故で死亡したのだが、原因は神社の扁額が当たっての即死。問題の神様は気まずさから俺を輪廻の輪から外し、異世界の神に俺をゆだねた。異世界への移住を渋る俺に、神様特典付きで異世界へ招待されたが・・・ この神様が超適当な健忘症タイプときた。

平和国家異世界へ―日本の受難―

あずき
ファンタジー
平和国家、日本。 東アジアの島国であるこの国は、厳しさを増す安全保障環境に対応するため、 政府は戦闘機搭載型護衛艦、DDV-712「しなの」を開発した。 「しなの」は第八護衛隊群に配属され、領海の警備を行なうことに。 それから数年後の2035年、8月。 日本は異世界に転移した。 帝国主義のはびこるこの世界で、日本は生き残れるのか。 総勢1200億人を抱えた国家サバイバルが今、始まる―― 何番煎じ蚊もわからない日本転移小説です。 質問などは感想に書いていただけると、返信します。 毎日投稿します。

日本が日露戦争後大陸利権を売却していたら? ~ノートが繋ぐ歴史改変~

うみ
SF
ロシアと戦争がはじまる。 突如、現代日本の少年のノートにこのような落書きが成された。少年はいたずらと思いつつ、ノートに冗談で返信を書き込むと、また相手から書き込みが成される。 なんとノートに書き込んだ人物は日露戦争中だということだったのだ! ずっと冗談と思っている少年は、日露戦争の経緯を書き込んだ結果、相手から今後の日本について助言を求められる。こうして少年による思わぬ歴史改変がはじまったのだった。 ※地名、話し方など全て現代基準で記載しています。違和感があることと思いますが、なるべく分かりやすくをテーマとしているため、ご了承ください。 ※この小説はなろうとカクヨムへも投稿しております。

異世界転移ボーナス『EXPが1になる』で楽々レベルアップ!~フィールドダンジョン生成スキルで冒険もスローライフも謳歌しようと思います~

夢・風魔
ファンタジー
大学へと登校中に事故に巻き込まれて溺死したタクミは輪廻転生を司る神より「EXPが1になる」という、ハズレボーナスを貰って異世界に転移した。 が、このボーナス。実は「獲得経験値が1になる」のと同時に、「次のLVupに必要な経験値も1になる」という代物だった。 それを知ったタクミは激弱モンスターでレベルを上げ、あっさりダンジョンを突破。地上に出たが、そこは小さな小さな小島だった。 漂流していた美少女魔族のルーシェを救出し、彼女を連れてダンジョン攻略に乗り出す。そしてボスモンスターを倒して得たのは「フィールドダンジョン生成」スキルだった。 生成ダンジョンでスローライフ。既存ダンジョンで異世界冒険。 タクミが第二の人生を謳歌する、そんな物語。 *カクヨム先行公開

宮様だって戦国時代に爪痕残すでおじゃるーー嘘です、おじゃるなんて恥ずかしくて言えませんーー

羊の皮を被った仔羊
SF
この物語はフィクションです。登場する人物・団体・名称等は架空であり、実在のものとは関係ありません。 時は1521年正月。 後奈良天皇の正室の第二皇子として逆行転生した主人公。 お荷物と化した朝廷を血統を武器に、自立した朝廷へと再建を目指す物語です。 逆行転生・戦国時代物のテンプレを踏襲しますが、知識チートの知識内容についてはいちいちせつめいはしません。 ごくごく浅い知識で書いてるので、この作品に致命的な間違いがありましたらご指摘下さい。 また、平均すると1話が1000文字程度です。何話かまとめて読んで頂くのも良いかと思います。

異世界に転生した俺は元の世界に帰りたい……て思ってたけど気が付いたら世界最強になってました

ゆーき@書籍発売中
ファンタジー
ゲームが好きな俺、荒木優斗はある日、元クラスメイトの桜井幸太によって殺されてしまう。しかし、神のおかげで世界最高の力を持って別世界に転生することになる。ただ、神の未来視でも逮捕されないとでている桜井を逮捕させてあげるために元の世界に戻ることを決意する。元の世界に戻るため、〈転移〉の魔法を求めて異世界を無双する。ただ案外異世界ライフが楽しくてちょくちょくそのことを忘れてしまうが…… なろう、カクヨムでも投稿しています。

処理中です...