上 下
713 / 848
第十六章

中継機

しおりを挟む
 レム神に余裕がない?

「どういう事だ? ジジイ」
「どうもこうもないじゃろう。この地下施設には、プシトロンパルスが届かんのじゃ」
「そんな事は分かっているよ。どうせレム神は、プシトロンパルスを中継するような装置でも使っているのだろう」
「そうじゃ。ではその中継機とは、どのようなものじゃと思う?」
「どのようなって? そんなの……!」

 どんな装置を使っているのだ?

「前にも言ったと思うが、プシトロンパルスを機械的に発生させる事はできなかった。だから、レム・ベルキナのクローン人間を、プシトロンパルスの送受信機に使っているのじゃ」
「という事は中継機にも……」

 ジジイはうなずいた。

「二人一組のクローン人間をBMIで接続して、それぞれを地下施設の中と外に配置し、ケーブルでつないで中継機として使っているはずじゃ」

 やはり、生きている人間を中継機に使っているのか。

 想像するだけでもおぞましい。

「若造よ。レムの中央コンピューターでは、意識のないクローンを培養液に入れた状態で使っているという話は覚えているか?」
「ああ、覚えている」
「そうか覚えていたか。ただ、人間一人を何十年も生かしておくとなると、かなり大がかりな装置が必要となるのじゃ」

 まあ、そうだろうな。

 意識のないクローンでも腹は減るし排尿排便だってある。体の向きも時々変えてやらないと鬱血うっけつする。

「じゃが、そんな大がかりな装置を、この地下施設で運用するのはかなり大変じゃ」

 だろうな。ただ装置を用意すればいいというものではない。クローンを培養するための栄養や酸素を補給しなきゃならないわけだし、温度管理や衛生維持その他諸々のために電源も必要、メンテナンスも必要となる。

「だから、わしもずっと疑問に思っておったのじゃ。レム神は、この地下施設で使う中継機をどうやって用意したのか? もちろん、三十年前にわしらがレム神に接続されていた時にあった中継機は、電磁パルスE  M  P攻撃で破壊された」
「修理できないのか?」
「修理も何も、あの時は地下施設にあった壊れた機械は、すべてわしらが部品を取り出すために解体したので残っておらん。レム神としては新たに中継機を持ち込むしかないわけじゃが、そんな物をどうやって用意したのか? 先ほどの傾斜路での戦闘でそれが分かった」
「さっきの戦闘で、何が分かったのだ?」
「先ほどのクローン兵士達の死体を調べたが、ほとんどタコなどない綺麗な手をしていた」
「それが、なにか?」
「綺麗な手をしているという事は、普段は重い武器は持っていない。過酷な労働にも従事していないということじゃ」

 まあ、そうなるな。

「わしはクローン兵士を見たときに、二つの可能性を考えたのじゃ。中継機として連れてきたクローンを投入したのか? それとも、端末として使う以外にレム神直属の兵士としてクローン兵士を用意していたのか? 手を見て直属の兵士という可能性はなくなった。あいつらはすべて、中継機として連れてきたクローンじゃ」
「それは分かるが、中継機に繋がれているはずのクローンが、なぜ自由に動き回っているんだい? 予備にしても、数が多いような……」
「理由は二つ考えられる。クローンを大量に連れてきたのはいいが、中継機の数が少なくてクローンが余ってしまった」
「なるほど。で、もう一つは?」
「簡易型の中継機を使っているのじゃ」
「簡易型?」
「培養装置のない簡易型じゃ。意識のない状態で培養装置の中に入れられているクローンは、ほぼ二十四時間BMIと接続していられる。しかし、意識のある状態でBMIと接続していられるのは精々五~六時間」
「という事は……意識のあるクローンを、ローテーションして使っているというのか?」
「そうじゃ。意識のあるクローンなら、大がかりな培養装置はいらん。ただし、一日に五~六時間しか接続できないので、五時間おき……実際には安全を考慮して四時間おきじゃな。そのぐらいの時間に交代する必要がある。そしてその後は健康維持のために一日休ませる必要がある。その分、交代要員として多くのクローン人間が必要になるのじゃ」

 つまり、さっき傾斜路で待ち伏せしていたのは、本日の中継業務が終わって手の空いているクローン人間だったという事か?

「多くのクローン人間が必要となるが、クローンにも飯を食わせなきゃならん。人数にも限りがある」

 そりゃそうだ。

「一機の中継機を二十四時間運用するのに必要なクローン人間は十二人。北ベイス島駐留帝国軍の規模から、養えるクローン人間は精々二百人。ここで使っている中継機は推定十六機ぐらいじゃろう」

 そんなに少ないのか?

「その十六機で人間の接続者を操り、余力でヤギやヒツジを操っているのじゃろうな」
「じゃあ、今レム神が操れるのは、第五層の入り口前に集結している動物が精一杯で、あれを片づければこれ以上の増援はないという事か?」
「そうじゃ。ちなみに中継機一機あたりで操れる動物は、二~三十頭ぐらいじゃな。だから、さっきすべての動物を接続しているような事を言ったが、あれは間違えじゃ。あの時は、中継機がこんなに少ないとは思わなかったのでな」

 ううむ……ジジイの言っている事は理にかなっていると思うが……

「よし! 今から、第五層へ行こう。可哀想だが、扉前に陣取っている動物は始末する」

 全員が第五層へ向かおうと立ち上がったとき、芽依ちゃんが突然僕の前に回り込んだ。

「待って下さい。北村さん」
「芽依ちゃん。動物を殺すのがイヤなら、ここで待っていてくれても……」
「そうじゃありません。もっと簡単な方法を思いついたのです」

 なんだって?
しおりを挟む
感想 8

あなたにおすすめの小説

冤罪だと誰も信じてくれず追い詰められた僕、濡れ衣が明るみになったけど今更仲直りなんてできない

一本橋
恋愛
女子の体操着を盗んだという身に覚えのない罪を着せられ、僕は皆の信頼を失った。 クラスメイトからは日常的に罵倒を浴びせられ、向けられるのは蔑みの目。 さらに、信じていた初恋だった女友達でさえ僕を見限った。 両親からは拒絶され、姉からもいないものと扱われる日々。 ……だが、転機は訪れる。冤罪だった事が明かになったのだ。 それを機に、今まで僕を蔑ろに扱った人達から次々と謝罪の声が。 皆は僕と関係を戻したいみたいだけど、今更仲直りなんてできない。 ※小説家になろう、カクヨムと同時に投稿しています。

タイムワープ艦隊2024

山本 双六
SF
太平洋を横断する日本機動部隊。この日本があるのは、大東亜(太平洋)戦争に勝利したことである。そんな日本が勝った理由は、ある機動部隊が来たことであるらしい。人呼んで「神の機動部隊」である。 この世界では、太平洋戦争で日本が勝った世界戦で書いています。(毎回、太平洋戦争系が日本ばかり勝っ世界線ですいません)逆ファイナルカウントダウンと考えてもらえればいいかと思います。只今、続編も同時並行で書いています!お楽しみに!

光のもとで1

葉野りるは
青春
一年間の療養期間を経て、新たに高校へ通いだした翠葉。 小さいころから学校を休みがちだった翠葉は人と話すことが苦手。 自分の身体にコンプレックスを抱え、人に迷惑をかけることを恐れ、人の中に踏み込んでいくことができない。 そんな翠葉が、一歩一歩ゆっくりと歩きだす。 初めて心から信頼できる友達に出逢い、初めての恋をする―― (全15章の長編小説(挿絵あり)。恋愛風味は第三章から出てきます) 10万文字を1冊として、文庫本40冊ほどの長さです。

マスターブルー~完全版~

しんたろう
SF
この作品はエースコンバットシリーズをベースに作った作品です。 お試し小説投稿で人気のあった作品のリメイク版です。 ウスティオ内戦を時代背景に弟はジャーナリストと教育者として、 兄は軍人として、政府軍で父を墜とした黄色の13を追う兄。そしてウスティオ の内戦を機にウスティオの独立とベルカ侵攻軍とジャーナリストとして、 反政府軍として戦う事を誓う弟。内戦により国境を分けた兄弟の生き方と 空の戦闘機乗り達の人間模様を描く。

ユーヤのお気楽異世界転移

暇野無学
ファンタジー
 死因は神様の当て逃げです!  地震による事故で死亡したのだが、原因は神社の扁額が当たっての即死。問題の神様は気まずさから俺を輪廻の輪から外し、異世界の神に俺をゆだねた。異世界への移住を渋る俺に、神様特典付きで異世界へ招待されたが・・・ この神様が超適当な健忘症タイプときた。

平和国家異世界へ―日本の受難―

あずき
ファンタジー
平和国家、日本。 東アジアの島国であるこの国は、厳しさを増す安全保障環境に対応するため、 政府は戦闘機搭載型護衛艦、DDV-712「しなの」を開発した。 「しなの」は第八護衛隊群に配属され、領海の警備を行なうことに。 それから数年後の2035年、8月。 日本は異世界に転移した。 帝国主義のはびこるこの世界で、日本は生き残れるのか。 総勢1200億人を抱えた国家サバイバルが今、始まる―― 何番煎じ蚊もわからない日本転移小説です。 質問などは感想に書いていただけると、返信します。 毎日投稿します。

異世界転移ボーナス『EXPが1になる』で楽々レベルアップ!~フィールドダンジョン生成スキルで冒険もスローライフも謳歌しようと思います~

夢・風魔
ファンタジー
大学へと登校中に事故に巻き込まれて溺死したタクミは輪廻転生を司る神より「EXPが1になる」という、ハズレボーナスを貰って異世界に転移した。 が、このボーナス。実は「獲得経験値が1になる」のと同時に、「次のLVupに必要な経験値も1になる」という代物だった。 それを知ったタクミは激弱モンスターでレベルを上げ、あっさりダンジョンを突破。地上に出たが、そこは小さな小さな小島だった。 漂流していた美少女魔族のルーシェを救出し、彼女を連れてダンジョン攻略に乗り出す。そしてボスモンスターを倒して得たのは「フィールドダンジョン生成」スキルだった。 生成ダンジョンでスローライフ。既存ダンジョンで異世界冒険。 タクミが第二の人生を謳歌する、そんな物語。 *カクヨム先行公開

日本が日露戦争後大陸利権を売却していたら? ~ノートが繋ぐ歴史改変~

うみ
SF
ロシアと戦争がはじまる。 突如、現代日本の少年のノートにこのような落書きが成された。少年はいたずらと思いつつ、ノートに冗談で返信を書き込むと、また相手から書き込みが成される。 なんとノートに書き込んだ人物は日露戦争中だということだったのだ! ずっと冗談と思っている少年は、日露戦争の経緯を書き込んだ結果、相手から今後の日本について助言を求められる。こうして少年による思わぬ歴史改変がはじまったのだった。 ※地名、話し方など全て現代基準で記載しています。違和感があることと思いますが、なるべく分かりやすくをテーマとしているため、ご了承ください。 ※この小説はなろうとカクヨムへも投稿しております。

処理中です...