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第十六章

クローン兵士

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 死んだ二人の捕虜には、峰打ちで受けた傷以外に外傷はなかった。

 その傷も決して致命傷ではない。

 では、なぜこの二人は死んだのか?

 原因は、ほどなくして判明する。

 二人の口内から、噛み潰されたカプセルが出てきたのだ。ミニPちゃんが調べたところ、カプセルには青酸カリが付着している。こりゃあ、自決用カプセルだな。

 さらに他の兵士を調べたところ、全員から口内に青酸カリのカプセルが見つかった。

 それよりも問題なのは、兵士たちがみな同じ顔をしている事。

「ジジイ。この兵士たちは……?」

 ジジイは、兵士一人一人の顔を確認していた。

「ふむ。間違えないのう。全員レム君のクローン人間じゃ」

 やはり! 

「今回の作戦、レム神はかなり本腰を入れておったのじゃろうな。端末用に育てていた貴重なクローンを投入してきたという事は……」
「なんのために、クローンを出してきたのだ?」
「今回の作戦は、兵士の待ちかまえている傾斜路へ、集団暴走スタンビートでわしらを追い込むものじゃ。兵士たちと動物たちの動きをうまく連携させるには、兵士を接続者で固めた方が連携を取りやすいじゃろう。それと接続者ではない一般の兵士を使うと」

 ジジイはミクを指さした。

「この嬢ちゃんを殺しかねない。奴らの持っていた武器を見てみろ。非致死性の武器じゃ」

 ん?

 足下に転がっている棒状の武器を拾ってみた。

 ロケット砲にしてはなんかおかしいな。

「そいつを壁に向けて撃ってみろ」
「そんな事をしたら、壁が崩れてくるだろう」
「大丈夫じゃ。そいつはロケット砲などではない」
 
 トリガーボタンを押してみた。

 バシュ!

 何かが砲口から飛び出す。

 飛び出した何かは、空中で広がった。

 これは……網?

「対人捕獲用の網を撃ち出すネットランチャーじゃ。兵器というより、防犯用品じゃな。犯罪者を捕らえるために開発されたもので、動物の捕獲にも使われていた」
「詳しいな」
「わしのオリジナル体は、何度もこいつを撃たれたからな。この恐ろしさは、身にしみている」

 大方、痴漢でもやって逃げようとしているところでこれを撃たれたのだろうな。

 さらに兵士たちの持っていた小銃を調べると、装填されていたのは非致死性ゴム弾ばかり。

集団暴走スタンビートでわしらを傾斜路へ追いこんでから、これを使うつもりだったのじゃろう。その前に待ち伏せを見破られて、閃光手榴弾スタングレネードを投げ込まれてしまうとは、想定していなかったのじゃな」 

 今回は、結構危なかったのだな。

 こりゃあ、敵が次の手を打つ前に第六層を制圧すべきだが、第六層ではカルル・エステスが待ちかまえている。

 奴がどんな手を打ってくるか?

「北村さん」

 芽依ちゃんの声が僕の思考を中断させる。

「第六層にドローンを送り込みました」
「了解」

 六体のミニPちゃんが、ドローンから送られてくる映像を壁に映し出した。

 今までと代わり映えのない、地下道の様子が映っている。

 今回、動物はいない。

 カルル・エステスはどこにいるのだ?

 奴もこっちがドローンを送り込んでくる事ぐらい予想しているだろうから、そう簡単に姿は現さないと思うが……

 ドローン二号が中央広場に入った時、円形広場の中央に妙な機械が鎮座していた。

 なんだろう? まるでビーム砲のような形状をしているが……

「ジジイ……これは?」
「タウリ族の残した時空穿孔機じゃ」
「時空穿孔機? なに? それ?」
「そうかそうか。二十一世紀初頭の生データから作られたおぬしは知らんじゃろうな。これはワームホールを開く機械じゃよ」
「ワームホールだって! じゃあ、この広場には、宇宙のどこかにつながっているワームホールがあるというのか?」
「ここが地球人の作ったワームホールステーションならそうなるじゃろう。地球人なら一度開いたワームホールは二度と閉じないように、エキゾチック物資でがっちりと固めて交通インフラとしてずっと使うからな。タウリ族はそんな無駄な事はせん。ワームホールは必要なときだけ開いて、いらなくなったら閉じている」

 なるほど……

「北村さん!」

 不意に芽衣ちゃんが叫んだ。

「ドローン五号が、機動兵器と遭遇しました。映像を出します」

 映像に現れたのは、八本脚の多脚戦闘車両。

 そのハッチから、一人の男が顔をのぞかせている。

 ここにいたか。カルル・エステス。
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