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第十六章

ワイヤー陣

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 扉の向こうに、敵がいる事は分かった。

 しかし、ここでテントウムシを止める事はできない。

 確かにテントウムシの装甲なら動物たちの体当たりに耐えられるが、テントウムシの機体重量はきわめて軽い。

 集団暴走スタンビートの勢いに押し出されたら、簡単に傾斜路に押し込まれてしまう。

「芽依ちゃん。橋本君。集団暴走スタンビートは僕が食い止める。その間に扉の向こうを制圧してくれ。方法は任せる」
「「了解!」」

 僕は一度地上に降りると、抱いていたミールを降ろした。

「ミール。済まないが、小部屋に隠れていてくれ」
「はーい」

 ミールが通路横の小部屋に入ったのを確認すると、僕は迫ってくる集団暴走スタンビートに向き直った。

「ワイヤーガンセット! ファイヤー!」

 左腕、右腕のワイヤーガンを左右の壁に撃ちこむ。

「ワイヤーパージ!」

 僕の腕から、ワイヤーが外れた。

 左右の壁に突き刺さったワイヤーをジョイントでつなぎ合わせ、通路上数十センチの高さでピンと張りつめる。

 同じようなワイヤーをさらに二本張った。

 そのワイヤー陣へ集団暴走スタンビートが突っ込んでくる寸前、僕は空中へ逃れた。

 集団の先頭を走っていたヒツジやヤギが、ワイヤーに引っかかり次々と転倒していく。

 続いて後続のヒツジやヤギも、倒れた仲間の体にぶつかって転倒していった。

 瞬く間に動物の壁ができあがり、集団暴走スタンビートはなんとか止まる。

「ミール! もう出てきていいよ」
「はーい」

 扉が開き、十三人のミールが出てきた。

 小部屋の中で待っている間に、分身体を作っていたのか。

 十三人のうち、十二人はビキニアーマー姿に……

 すでに戦闘モードになっている。

「カイトさん! あたしはこのまま傾斜路へ向かい、メイさんたちに加勢します」
「頼む」

 傾斜路へ向かうミールを見送ってから、後を振り向くと、跳躍力のあるヤギが動物の壁を飛び越えてきていた。

 仕方ない。

「ごめん」

 飛び越えて来たヤギに向かって、ショットガンを撃った。

「メエエエエ!」

 血飛沫をまき散らし、ヤギは躯(むくろ)と化す。

 不憫(ふびん)なヤギを哀れむ暇もなく、後から続々と飛び越してくるヤギを僕は撃ち続けた。

 今夜見るであろう悪夢の出演者に、ヤギが加わる事になりそうだな。

 通信が入ったのは、ショットガンのマガジンを交換した時……

『北村さん。傾斜路を制圧しました』

 芽依ちゃんの声だった。

「了解」

 そのまま僕は加速機能を発動して、傾斜路に駆け込む。その後から、数頭のヤギが追いかけてくるが、かまわず僕は傾斜路に駆け込んだ。

 僕が駆け込むと同時に、芽依ちゃんと橋本晶は扉を押さえつけて溶接する。

 ドン! ドン! ドン!

 溶接した扉に、動物たちが体当たりする音が響く。

「溶接だけでもつでしょうか?」
「ワイヤーで補強しよう」

 補強作業を終えてから、傾斜路内を見回すと帝国兵の遺体があちこちに転がっていた。

「芽依ちゃん。状況説明を頼む」
「はい。最初に私は、扉の向こうに閃光手榴弾スタングレネードを投げ込んでから、ドローンを送り込みました。続いてキラさんが分身体を送り込みましたが、ここで問題が発生したのです」

 問題?

「キラさんの分身体が傾斜路内に突入して扉を閉じたとたんに、動かなくなってしまったのです」

 なに?

「おそらく、扉にプシトロンパルスを遮る物質が使われていると思われます。そこで私と橋本さんが突入し、傾斜路内にいた敵一個小隊を制圧してからキラさんに入ってもらうと、分身体は問題なく動くようになりました」

 ここの扉は、今までとは違ってプシトロンパルスを遮れる。だから、敵はここで待ちかまえていたのか。

 ここで術者と分断すれば分身体や式神を無力化できて、こっちの戦力を半減できると考えたのだろうな。

「その後、傾斜路の奥から、敵一個小隊が上がって来ましたが、同時にミールさんの分身体が駆けつけてくれたので難なく制圧できました」
「そうか。よくやってくれた」

 その時、橋本晶が二人の敵兵士を引きずってきた。

「隊長。捕虜を二人確保しました」

 また、峰打ちで倒したのか。

「ミール。分身体を頼む」
「はーい」

 床に横たわっている捕虜の胸に木札を置くと、ミールはその横に座り呪文を唱えた。

 だが、いつまで立っても、分身体は起きあがらない。

 ミールは呪文を唱えるのをやめて僕の方を向いた。

「カイトさん。ダメです」
「ダメ? どうことだい?」
「この二人、すでに死んでいます」

 なに?
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