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第十六章

スタンビート

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 ヤギとヒツジの群は、中央通路の幅一杯に隙間無く広がり、僕たちの方へ向かってジリジリと進んでいた。

 しかし、ヤギとヒツジって似ているけど、違う動物だろ。一緒に行動するものなのかな?

 そもそもレムは、動物に接続している事を隠す気はないのか?
 
 それとも、僕たちが接続に気が付いたかどうかを試そうというのか?

 その考えをジジイに話してみた。

「ううむ……もし、レム神がわしらを試すつもりなら、こっちも気が付いていないふりをした方がよいのう」

 気が付いてないふり?

 ジジイは芽依ちゃんを呼んだ。

「おい。メガネっ。おぬしが抱いている子ヤギを、群の前に置いてこい」
「どうしてユキちゃんに、そんな危険な事を!?」
「危険も何も、子ヤギは元々そいつらの仲間じゃろ」
「そうですけど……」
「こいつらは、仲間の子ヤギを取り戻しにきただけじゃろう。それなら、その子ヤギを返せば引き上げるはずじゃ」
 
 このヤギとヒツジの群の目的は『仲間を取り戻しに来た』と、こっちが解釈したと思わせるというのか。

 あくまでも、レム神が操っている事には気が付いていないことにして……

 ここで子ヤギを群の前に置いたら、レム神は……

レム『うむ。どうやら、私が動物を操っている事には気が付いていないようだな。ならば、だまされたふりをして群を引き上げさせよう』

 という事になるかな?

 しかし、そううまくいくだろうか?

 子ヤギを抱いた桜色の九九式が、群の前にゆっくりと降りた。

 群の動きが止まる。

「さあユキちゃん。お母さんのところへ戻りなさい」

 そう言って、芽依ちゃんは子ヤギを群の前に降ろした。

「メエエエ」

 子ヤギは一声鳴いてから、群の方へと向かう。

 しばらく歩いて、一頭の大人のヤギの前に立ち止まった。

 親なのかな?

「メエエェェ」

 子ヤギは、大人のヤギに向かって鳴き声を上げる。

 大人のヤギは、こうべを垂れて子ヤギの臭いをフンフンと嗅いだ。

 そして……

「メエエエエエエェェ!」

 いったい何を思ったのか?

 大人のヤギは、突然子ヤギを前足で蹴り上げたのだ。

 それを合図に、今まで止まっていた群が一斉に動き出す。

 動き出したというより、駆けだしたと言った方がいい。

 というか、これは集団暴走スタンビート

 ドドド! 

 地響きを立てて群が僕たちに向かってくる。

 一応、こうなる事も予想していたので、芽依ちゃんが時間を稼いでくれている間に、群との距離を取っておいたのだが、この調子だとすぐに暴走に巻き込まれるな。

 九九式は空中に浮かべるので問題はないし、テントウムシは火山弾にも耐えられる装甲を持っているのでヒツジやヤギの体当たりぐらいは平気だろう。

 しかし、床を歩いて進んでいるミールとキラ、ミクは無事じゃ済まない。

 早く助けないと……え? ジジイは?

 あれはどうでもいい。

 死んでくれてもいっこうにかまわないが、あの妖怪ジジイの事だ。

 集団暴走スタンビートの一つや二つに巻き込まれたところで、死にはしないだろう。

 芽依ちゃんは、集団暴走スタンビートに巻き込まれる寸前に空中に逃れたようだ。

「芽依ちゃん! ミクを……いやいや、ミーチャを頼む」

 いかん、いかん。今、ミクには軍服を着せてミーチャの格好をさせていたのだ。

「はい! 北村さん」

 ミクはジジイの後で全力疾走していた。

 髪を隠している軍帽が落ちないように押さえているせいか、あまり速度が出ない。

 群に追いつかれる寸前で、芽依ちゃんがミクを抱き上げた。

「ミール! キラの近くに寄ってくれ。二人同時に抱き上げる」
「はい」

 全力疾走していたミールは、キラのすぐ左に寄った。

「橋本君。僕はミールを抱き上げる。君はキラを頼む」
「心得ました」
「くれぐれも、僕から離れすぎないように」
「隊長。そんなに私から離れたくないのですね」
「ちっがーう! 今僕たちが離れすぎたら、反重力場が消えて、そこで浮いているPちゃんが落ちちゃうだろう」
「冗談ですよ。そんなムキにならないで下さい」

 僕と橋本晶は、Pちゃんを落とさないように慎重に近づき、ミールとキラを抱き上げた。

 後は……

「おおい! わしも助けてくれえ!」

 ジジイと子ヤギが、集団暴走スタンビートから逃れようと全力疾走している様子にチラっと視線を向けた。

 どうしようかな? 助けようかな? 見捨てようかな? 
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